念仏寺・鬼走り<2014.1.14.チーム170236撮影>

奈良の妖怪事情

●妖怪と幽霊の違い
 そもそも妖怪とはどんな生き物でしょうか。よく似た幽霊とは、こんなふうに区別できます。(※1)こうしてみると、妖怪は幽霊とは明らかに別物で、なんだか憎めないキャラクターですね。

妖怪(オバケ・化け物)   幽霊
○出る場所は決まっていて、そこに行かなければ出会わない。
○相手を選ばずに現れる。
○真昼間でも現れる。
○恨まれるような覚えがなくても現れる。
○向こうからやって来るし、逃げてもしつこく追いかけてくる。
○ねらいをしぼって現れる。
○夜もふけた真夜中に現れる。
○恨まれるような覚えがなければ現れない。 

●紀伊山地の山里に多く伝承されている
 奈良といえば、奈良公園の鹿や東大寺の大仏さんのイメージが強いと思います。修学旅行で来県された人も多いと思いますが、そうした観光地は奈良盆地の北部、あるいは飛鳥などがあるせいぜい中部までです。
 今回、奈良県の妖怪や怪奇現象を探っていくと、その多くは奈良盆地の外側にある大和高原や金剛山地、さらには南部の紀伊山地の山里に存在しているということがわかりました。とりわけ、十津川村や東吉野村、野迫川村などに多く、しかも、村史や昔話の本に、熱心にとりまとめられていました。


奈良県の自然地形<2015.1.6.チーム170236制作>

●奈良産オリジナル妖怪は「一本だたら」「土蜘蛛
 奈良の妖怪には、河童やツチノコ、天狗や山姥など全国的に伝承されているものも例外なく含まれています。ただし、その呼び方には奈良県独自の方言色が出ています。
 例)河童 →「ガタロ」「ゴウラボシ」 人魂 →「ホイホイ火」「ジャンジャン火」
   つちのこ →「のづち」「つちんこ」 山姥 →「山女郎」
 一方で、奈良県及び紀伊山地に特有の妖怪として、「一本だたら」や「土蜘蛛」をあげることができます。似たような話は、他の地域にあるかもしれませんが、奈良が起源だといいたいのですがどうでしょう。詳しくは、それぞれのページをご覧ください。

●子どもたちへの戒めをこめた妖怪
  妖怪をタイプ別にみますと、河童やツチノコなどのような「未確認動物」、大入道や天狗、一本だたらや山姥の話にみられるような「自然現象・自然災害への畏怖・畏敬の念」、そして河童やシングリマクリにみられるような「子どもたちへの戒め」に分けることができると思います。
 子どもを危険や災害から守るため、また、しつけのために、妖怪が一役かっているといえますね。

「奈良の妖怪辞典」をつくるにあたって

●妖怪辞典の目的
 この妖怪辞典の目的は、化け物図鑑を作ることではありません。それぞれの妖怪には、ひとつひとつ成り立ちや背景があり、人々の暮らしと結びついて生まれてきたと思われます。例えば、奈良の妖怪として有名な「一本だたら」は、その地域の厳しい気象状況が背景にあったりします。また、昔の人々にとって説明できないような事故や災害を理屈づけるために「天狗」を登場させたり、そこから昔の人の考え方やくらしを想像することできます。そうした古くからの奈良の文化と私たち現代人との関わりを探ってみたいと思っています。

●私たちの妖怪との出会い方
  まず、情報源は公立図書館です。今の時代、インターネットを使えば簡単に妖怪情報も得ることができますが、それでは独自の妖怪辞典にならないと考えました。とりわけ県内各地町村の市史・町史・村史には、たくさんの伝承が掲載されています。また、郷土の昔話や民話などを集めた本も片っ端から調べ、奈良の妖怪にまつわるものをリストアップしていきました。
 一方、妖怪の姿を再現するため、そうした伝承をもとにオリジナルの妖怪を描いてみました。これまで知られている妖怪の姿にとらわれたり影響を受けないよう、民話や伝承に記されているキャラクターを頼りに、またメンバーでもアイデアを出し合いながら描きました。

妖怪辞典の制作で学んだこと
 妖怪辞典の制作で、最も大切にしたことは、妖怪がいたとされる場所に、実際に訪れることです。そこで見たもの感じたものを、サイト作りに役立てていきました。また、出会った住民の方にもお話を聞くことができました。例えば、ガタロがいたとされる瀧上寺の下にある川は、本当にガタロがいそうな雰囲気の川でした。子どもが水遊びするには、あまりにも危険な川なので、この川で遊ぶと危ないという子供への戒めとしてガタロを登場させたということが分かりました。

【参考文献】
※1)柳田國男・著『妖怪談義』(1977.4.10.講談社)
【地図・出典】
「日本地図のフリーイラスト集」より
http://www.finemakeyuri.com/map.finemakeyuri.com/
利用規定に基づきダウンロード及び加工(2014年12月22日)