Space Debris ~秒速8kmの先へ~

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デブリ低減ガイドライン

平成19年2月に国連宇宙空間平和利用委員会(UNCOPUOS)で「スペースデブリ提言ガイドライン」が合意されました。

これは、宇宙開発におけるスペースデブリ発生に対する共通認識をまとめたガイドラインです。 現在、世界ではこのガイドラインが基準として認識されていますが、どのような内容なのでしょうか。また、問題点はないのでしょうか。

ガイドラインといっても法的拘束力は全くなく、推奨の域に留まっていること、
また、「約束を守るよ!」といっている国のほとんどが先進国だけです。
(中国を始めとする新興国は、「現在のデブリ問題は先進国が生み出したんだから自分たちは関係ない!」)と主張しています。なんだかCO2の問題と似ていますね。

それを頭に入れた上で、次のガイドラインを見てください!

ガイドライン1・2

ガイドライン1 ー正常な運用中に放出されるデブリの制限ー


スペースシステムは正常な運用中にデブリを放出しないように設計すること。
もしこれが不可能ならば、デブリ放出のアウタースペース環境に対する影響を最小限とすること。

スペースエイジの最初の数十年間、打上げロケットや宇宙機の設計者は地球周回軌道上に多くのミッション関連物体の意図的な放出を許してきた。
(中略)そのような物体がもたらす脅威を認識することで設計努力が促進され、この種のデブリ源を削減するのに有効であることが実証されてきた。


つまり、正常な運用中にデブリを放出しないように設計し、それが不可能ならば、軌道上の環境への影響を最小限にすることを求める、という主旨です。

世界的にも締結具や保護カバーは分離・放出されないように設計されています。
ガイドライン1は守られているようですね!


ガイドライン2 ー運用フェーズによる破砕の可能性の最小化ー


宇宙機とロケット軌道投入段は偶発的破砕に至る不具合モードを避けるように設計すること。

もしそのような不具合を生ずる条件が判明したなら、破砕を避けるように廃棄処置と無害化処置を計画し、実施すること。

歴史的に幾つかの破砕は推進系及び電力系(中略)の故障などのスペースシステム不具合によって引き起こされてきた。
不具合モード分析に潜在的破砕シナリオを見込むことで、これらの群発的粉砕なイベントの確率は削減できる。


これは、推進系や電力系の不具合によるブレークアップを防いでいこう!というものです。
運用中の人工衛星などは主要な圧力や温度などを監視し、異常を検知したら粉砕事故の発生を未然に防ぐことを推奨しています。

JAXAでは、設計作業のなかで不具合防止、監視項目の設定を行っており、不具合が発生した場合にはバッテリの充電ラインを絶つなどの対策を行います。
ですが、使用中でない人工衛星はここには含まれません。明記しなくても大丈夫なのでしょうか…。(しかも推奨!!)


ガイドライン3・4

 

ガイドライン3 ー偶発的軌道上衝突確率の制限


(中略)既知の物体と偶発的衝突を起こす確率が見積もられ、制限されること。
取得可能な軌道データが衝突の恐れを示しているなら、打上げ時刻の調整や軌道上回避が考慮されること。

幾つかの偶発的衝突が既に明らかになっている。
(中略)スペースデブリの数量・質量が増加しているので、新たなスペースデブリの主要因は衝突であるかもしれない。衝突回避手順が既に幾つかの国や国際機関で採用されている。


これは、人工衛星などがスペースデブリと衝突する可能性があるなら、打ち上げ時刻を調整したり、軌道上で回避し、デブリ発生を防ごう、という物です。

ここには問題が多数あります。
通常、使用する軌道の設定はミッション遂行上の軌道高度•傾斜角度の要求に基づくもので、デブリの分布を考慮して設定はしていません。また衛星回避のためのデブリ防御装置も一般的ではなく、多層の防御壁を適用する人工衛星としてはISSなどががわずかにあるのみです。
打ち上げ時刻の調整も、宇宙飛行士が乗っている場合という、デブリ対策ではなく人命尊重の観点です。

また、無人衛星の衝突回避がなされているのもヨーロッパの宇宙機関とNASAのみで、しかも主要な衛星のみとなっています。(しかも、これを行うには高度な観測施設が必要であるため推奨の域に留まっており、日本でもこれは行われていません。)



ガイドライン4


意図的破壊活動とその他の危険な活動の回避。増加する衝突リスクが宇宙運用に脅威を与えるとの認識により、宇宙機やロケット軌道投入段の如何なる意図的破壊も、その他の長期に残留するデブリを発生する危険な活動も避けなければならない。

意図的破壊が必要な時、残留破片の軌道滞在期間を制限するために充分低い高度で行わなくてはならない。



これは、アメリカが行った短い針を散布するような実験や人工衛星を破壊する実験を避けるように求めるものです。

しかし、これは欧米の
「再突入時の安全確保のための計画的破壊を行う余地を認めてほしい!」

という主張により、
意図的破壊が必要な時、充分低い高度で行わなくてはならない。」
と若干認める表現となっています。

わずかにでもその行為を認めてしまってよいのでしょうか。ここにも対策が必要なようです…。



ガイドライン5・6


ガイドライン5


残留エネルギーによるミッション終了後の破砕の可能性を最小にすること。

他の宇宙機やロケット軌道投入段への偶発的破砕のリスクを制限するために、全ての搭載蓄積エネルギ源は、ミッション運用に必要でなくなる時点あるいはミッション終了後の廃棄処置の時点で排出するか、無害化しなければならない。


これまでのところ、カタログ化されているスペースデブリの数量の大きなパーセンテージは宇宙機やロケット軌道投入段の破片に起因するものであった。それらの破砕の多くは意図的なものではなく、多くは多量の蓄積エネルギを有する宇宙機やロケット軌道投入段の放棄から起きている。

最も有効な低減策はミッション終了後の不活性化である。
不活性化は、残留推進剤や圧縮流体を含むあらゆる形態の蓄積エネルギーを除去することを要求し、電池の放電も含む。


これは、切り離しが行われた推進系などが爆発を起こさないように、運用終了時点で残留推進剤の排出や充電ラインの断を求めるものです。 しかし、ここで放出された燃料はデブリとなってしまいますよね。

デブリを作らないための根本的な対策とはいえないようです…。




ガイドライン6


宇宙機やロケット軌道投入段がミッション終了後に低軌道(LEO)域に長期的に留まることの制限

①LEO 領域を通過する軌道で運用を終了した宇宙機やロケット軌道投入段は管理された方法で軌道から除去すること。それが不可能ならば、LEO領域への長期的滞在を避ける軌道に廃棄すること。

②LEOから物体を除去する解決案を決断する際には、残存して地表に到達するデブリが、有害な物質による環境汚染を含む、人間や財産に不当なリスクを課さないことを保証するために十分な配慮が払われなければならない。



①これは、使用済みの衛星は軌道を移し衝突を避けさせるというものです。
一般的には墓場軌道に移動し、衝突の危険性を下げるものです。
サイトをご覧いただいた通り、日本はこれを行っています。

②これは、高度2000km以下の衛星は、運用終了後25年、あるいは50年程以内に大気圏に落下させることを求めるものです。

しかし、この期間に運用高度をここまで下げることは多量の推薬を必要とするため実現には多くの技術を必要とします。ロケットのに関していえば、再着火能力を有しないと実現できないので、その実現性はさらに限られると見られています。
アメリカは今後開発する衛星は原則としてこのガイドラインに従うとしていますが、それが果たされるかは25年後に判明することでしょう。


私たちの意見

デブリ低減ラインの説明をする前に、あらかじめ「推奨」ということを頭に入れてほしいと書いたように、国連のCOPUOS(国連宇宙平和利用委員会)のこのガイドラインには全然と言ってもいいほど拘束力がないのです。

法を破った国にも罰則はなく野放し状態となっています。さらにアメリカなどの権力の強い国が「嫌だ!」といえば、法が軽くなったり、通らなかったりしています。
これではデブリが減るわけありません。どうしてこんなにも拘束力がないのでしょう?



まずは、この国連のCOPUOSという組織の問題があると思います。

COPUOSの参加国は現在76カ国。
これほど国が多いと決まらない事柄がでてきたり、強い国の圧力により、法案が通らないこともきっと多数あるでしょう。
だからこそ、「推奨」などの言葉となってしまっているのではないでしょうか。


さらに国連は様々な国があつまった非常に大きな機関であり、COPUOSはその大きな組織の中の、本当に小さな組織の一つです。
やはり、そのような点でも、あまり力を注ぐことができないということもあると思います。


やはり、国連とは別に、既にデブリ問題について罰則があるということを参加条件にした、デブリ問題だけを取りあつかうという機関を作る必要性があると思いました。


しかし、あらかじめ罰則を決めてしまうと、つごうの悪い国は参加を拒否するかもしれません。


これでは意味がない。

ならばどうしたら参加してもらうことができるのでしょうか。
この問題については、討論会で深く論議しました。みなさんも討論会をご覧になる前に、ぜひ少し考えてみてください。