九州大学の花田 俊也先生らとJAXAは共同で宇宙からスペースデブリを減らすために、
また宇宙にある人工建築物をデブリから守るために様々な研究を行っています。
デブリ推移モデルとは、デブリ環境が今後どうなっていくかを予想し、どのような対策を行えば効果的に将来のデブリを減らすことができるのかを評価するものです。
今後デブリを減らす国際的なルールを十分守ったとしても、すでに軌道上にあるデブリ同士の衝突により数が増加してしまうことが予測されています。
このようなデブリの自己増殖は、各国の推移モデルで確認され、どうしたらよいかが国際的に議論されています。
推移モデルにより、どのようなデブリ対策を行えば効果的に将来のデブリを減らすことができるかを評価することもできます。
この解析ツールは、人口衛星などの形状や姿勢、どの部位にどれほどのデブリが衝突し、
損傷を与える可能性があるかを解析するものです。
デブリが衝突した場合重大な影響を受ける可能性のある機器を何らかの手段で防御する、
または衝突確率の低い位置に重要な機器を搭載するなどの対策をするきっかけとなります。
デブリの発生を減らすために、JAXAはデブリ発生防止標準を設定しています。
その基準を満たしているかどうか評価するためのツールです。
人口衛星などの軌道上寿命や発生防止基準に適合するためにはどれくらいの燃料が必要かを計算したり、
大気圏で燃え尽きずに地上に落ちてくる可能性を簡易的に評価することができます。
JAXAは国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から超小型衛星を放出するミッションに、5 機の衛星を選定し、その衛星の一つとして、東北大学と産業機械製造メーカーの中島田鉄工所が共同開発する超小型人工衛星 「FREEDOM」が選定されました。
FREEDOMは一辺の長さが約 10cm の立方体で、質量が約 1.3kg の超小型人工衛星です。
「FREEDOM」は「きぼう」から放出後、軌道上において 1~1.5m 四方の薄膜を展開し、宇宙空間にわずかに存在する空気抵抗を利用して軌道を離脱、地球大気圏への早期再突入する実証試験を試みます。
FREEDOM に搭載される膜展開式軌道離脱装置は、近年世界中で盛んに開発が進められている超小型人工衛星が運用終了後に軌道上でスペースデブリ化することを防止するために、 国連のスペースデブリ低減ガイドラインを基に東北大学と中島田鉄工所が中心となって共同開発した装置です。
つまり、このFREEDOMは運営が終わったら自分で大気圏に突入し、デブリにならないという新たな人工衛星なのです。
スイス宇宙センターは、2003年、宇宙研究の重要な拠点として、スイス西部にあるローザンヌ連邦工科大学に設立されました。
現在は宇宙分野における共同開発を行っています。
そのパートナーとして、スイス初の宇宙飛行士として宇宙を旅し、
現在、ローザンヌ連邦工科大学の宇宙科学科で教授をしている、クロード・ニコリエ氏などがいます。
スイス宇宙センターは、宇宙へのさらなる関心の向上と、宇宙研究開発プロジェクトを促進することを目標として掲げています。
2009年、スイス宇宙センターはスイス初の人工衛星、『スイスキューブ』を打ち上げました。
しかし、大気光の観測という任務を終えたスイスキューブがそのまま軌道を回り続けないよう
回収するために、スイス宇宙センターは『クリーンスペース・ワン』プロジェクトを計画しています。
『クリーンスペース・ワン』プロジェクトの広報責任者である、フォルカー・ガス教授は、「汚した張本人に掃除する義務がある」と言っています。
スイス宇宙センターは『汚した者が片付ける』という原則にしたがってこのプロジェクトを進めているのです。
スイス宇宙センターが進める『クリーンスペース・ワン』は、2016年か2017年に実用化される予定です。
サイズは30×10×10cmというスケールの超小型衛星、予算は約14万スイスフラン、日本円だと約8億円を予定しています。
スイスに拠点を置き、小型人工衛星打ち上げシステムを開発するベンチャー企業、
スイス・スペース・システムズは、2013年9月10日に、この開発費として約16億円を投資すると発表しました。
これで予算の問題は大丈夫ですね。
『クリーンスペース・ワン』は標的となる『スイスキューブ』をつかむために、アームをとりつけて地表から発射し、回収後は大気圏に突入する際に、スピードと、
空気による圧縮熱で燃え尽きるような計画となっています。考え方としては、『アストロスケール社』に似ていますね。しかし、この計画には難しい課題が含まれています。
一つは、時速2万8千kmで動く『スイスキューブ』を明確に認知し、捕まえなければならないということです。
そしてもう一つは、正確に操縦するために、極めてコンパクトな電動モーターの開発が必要だということです。
このようにして見てみると、目標物を捕まえなければならない、スイス宇宙センターの『クリーンスペース・ワン』よりも、
目標物にくっつくだけでいい、アストロスケール社の『BOY』の方が簡単そうに見えますね。しかし、つかまえる目標物の大きさが違います。
『BOY』が捕まえるのは、比較的大きなスペースデブリですが、『クリーンスペース・ワン』が捕まえるのは、10×10cmの超小型な『スイスキューブ』です。
たしかに10×10cmのものにくっつくのは無理がありますね。
こんな難しい課題を抱えた『クリーンスペース・ワン』ですが、フォルカー・ガス教授は「エンジン工学、ロボット工学、精密機械技術、光学小型化の技術はスイスの得意分野である。絶対に成功する!」と自信を見せています。頼もしいですね。
もし、この難しい課題が解決し、実用化されたら、『スイスキューブ』だけでなく、他のスペースデブリも回収することができるかもしれません。
事実、開発者は「『クリーンスペース・ワン』はたった一回の活動にとどまるのではなく、宇宙圏の保護のための数ある任務のうちの最初の一歩である。」と言っています。
2018年に打ち上げを想定している、大きい目標物を捕まえる、アストロスケール社の『BOY』。
そして、2016、2017年に実用化を予定する、超小型な目標物を捕まえる、スイス宇宙センターの『クリーンスペース・ワン』。もしこの二つが、予定通りに、ともに実用化に成功したら、スペースデブリの数は格段に少なくなっていくでしょう。楽しみですね!