狂言・能とは

歴史

インタビュー

有名な演目

日本語 - Japanese English - 英語

インタビューにGO!!

和泉元彌 ( いずみもとや ) さんにインタビュー！

 

能も狂言も、最初は同じと言えるのね。

そうだね。

ところで、狂言についてもその道の人のお話を聞いてみたいわ…

よし、それでーはーインタビューに行ってみよう！

 

本日 ( ほんじつ ) はよろしくお 願 ( ねが ) いします。さて、 早速 ( さっそく ) ですが、どれくらい 練習 ( れんしゅう ） しているのですか？

そうですね、 基本的 ( きほんてき ） には 毎日稽古 ( まいにちけいこ ） していますが、 一日 ( いちにち ） の 稽古時間 ( けいこじかん ） は 決 ( き ） まっていませんし、 決 ( き ） められません。 ただし 最初 ( さいしょ ） は 外 ( そと ） から 通 ( かよ ） ってくる 弟子 ( でし ） 、 次 ( つぎ ） に 内弟子 ( うちでし ） が、 最後 ( さいご ） に 身内 ( みうち ） が 稽古 ( けいこ ） する ことは 決 ( き ） まっています。 私 ( わたし ） が 小学校高学年 ( しょうがっこうこうがくねん ） のころにはすでに 私 ( わたし ） の 稽古 ( けいこ ） は 夜 ( よる ） の9 時 ( じ ） や10 時 ( じ ） に 始 ( はじ ） まることが 多 ( おお ） かったですね。 そうそう、そのころから 父 ( ちち ） に 「 良 ( よ ） い 稽古 ( けいこ ） は 短 ( みじか ） い 時間 ( じかん ） でしなさい」 ということを 言 ( い ） われていました。 長 ( なが ） くなるということはそれだけなおされているわけですし、 長 ( なが ） くなってしまうと 集中 ( しゅうちゅう ） し 続 ( つづ ） けられませんし、 時間 ( じかん ） を 決 ( き ） めて 取 ( と ） り 組 ( く ） むと その 時間 ( じかん ） を どう 乗 ( の ） り 切 ( き ） るか ということに 意識 ( いしき ） がいってしまう 恐 ( おそ ） れがあるからです。 今 ( いま ） の 私 ( わたし ） も、 平均 ( へいきん ） してみると 大体 ( だいたい ） ２ 時間 ( じかん ） ぐらいになりますが、 特 ( とく ） にそう 決 ( き ） めて いるわけではありません。 やはり「できるようになるため」と 思 ( おも ） って 練習 ( れんしゅう ） すると 集中 ( しゅうちゅう ） できますね。 あくまで、その 結果 ( けっか ） が 約 ( やく ） 2 時間 ( じかん ） ということです。

振 ( ふ ） り 付 ( つ ） けはどのよう にして 覚 ( おぼ ） えるのですか？

　　

狂言 ( きょうげん ） の 場合 ( ばあい ） は、 「口伝（くでん）」といって 見 ( み ） たこと、 聞 ( き ） いたことを 真似 ( まね ） することで 師匠 ( ししょう ） から 弟子 ( でし ） へ 直接伝 ( ちょくせつつた ） えていきます。 狂言 ( きょうげん ） の 家 ( いえ ） に 生 ( う ） まれると、 大体 ( だいたい ） 1 歳半 ( さいはん ） のとき、 つまり 周 ( まわ ） りの 見 ( み ） よう 見 ( み ） まねで 立 ( た ） ったりしゃべったりいろいろなものを 吸収 ( きゅうしゅう ） していく 時期 ( じき ） に 正座 ( せいざ ） をすることから 稽古 ( けいこ ） を 始 ( はじ ） めて、 徐々 ( じょじょ ） にごあいさつや、 目 ( め ） の 前 ( まえ ） の 師匠 ( ししょう ） が 言 ( い ） っていること、 していることを 真似 ( まね ） させていきます。 小 ( ちい ） さい 子供 ( こども ） に 体 ( からだ ） を 動 ( うご ） かすときのいろいろな 約束事 ( やくそくごと ） を 言葉 ( ことば ） で 教 ( おし ） えようとしてもなかなか 伝 ( つた ） わらないですから、 真似 ( まね ） させるのが 唯一 ( ゆいいつ ） の 方法 ( ほうほう ） であり、 一番 ( いちばん ） いい 方法 ( ほうほう ） なんです。 そして、このことは 大人 ( おとな ） になっても 変 ( か ） わりません。 師匠 ( ししょう ） から 新 ( あたら ） しいことを 教 ( おそ ） わるときには、 メモをとったり 写真 ( しゃしん ） を 撮 ( と ） ったり 録音 ( ろくおん ） したりすると 記録 ( きろく ） に 残 ( のこ ） るから 大丈夫 ( だいじょうぶ ） だと 甘 ( あま ） えてしまって 覚 ( おぼ ） え が 悪 ( わる ） く なるので、 今目 ( いまめ ） の 前 ( まえ ） に 師匠 ( ししょう ） がいる、 今 ( いま ） この 瞬間 ( しゅんかん ） に 真剣 ( しんけん ） に 受 ( う ） け 取 ( と ） らないと 残 ( のこ ） せないのだ 生 ( い ） きた 師匠 ( ししょう ） や、 今 ( いま ） この 瞬間 ( しゅんかん ） にちゃんと やらないと 残 ( のこ ） せないんだという 緊張感 ( きんちょうかん ） を 大事 ( だいじ ） にしています。

また、そんな 風 ( ふう ） に 師匠 ( ししょう ） から 習 ( なら ） った 後 ( あと ） は、 記憶 ( きおく ） に 定着 ( ていちゃく ） させるために 何度 ( なんど ） も 口 ( くち ） を 動 ( うご ） かして 体 ( からだ ） に 覚 ( おぼ ） え 込 ( こ ） ませます。 頭 ( あたま ） の 中 ( なか ） だけでやっているよ りも 声 ( こえ ） に 出 ( だして ） して 練習 ( れんしゅう ） した 方 ( ほう ） が 覚 ( おぼ ） えやすいんですね 。ただ、 小声 ( こごえ ） でブツブツつぶや くような 練習 ( れんしゅう ） しかやっていな 大 ( おお ） きく 息 ( いき ） を 吸 ( す ） った ときに 急 ( きゅう ） に 頭 ( あたま ） の 中 ( なか ） が 真 ( ま ） っ 白 ( しろ ） になってフリー ズしてしまうことがあるので、 稽古 ( けいこ ） のとき から 本番 ( ほんばん ） と 同 ( おな ） じようにやるように して 体 ( からだ ） で 覚 ( おぼ ） え、 たとえ 頭 ( あたま ） が 真 ( ま ） っ 白 ( しろ ） になって も 口 ( くち ） だけ は 勝手 ( かって ） に 動 ( うご ） いているようにします。

今 ( いま ） まであったハプニングで 困 ( こま ） ったことはありますか？

難 ( むずか ） しい 質問 ( しつもん ） ですね…。 そうだ、ハプニングとは 違 ( ちが ） う かもしれませんが、やはり 人間 ( にんげん ） で すから 急 ( きゅう ） に 魔 ( ま ） が 差 ( さ ） すっていうか 稽古中 ( けいこちゅう ） にでも 、 頭 ( あたま ） が 白 ( しろ ） くなったりすることはあり ます。ですから 私 ( わたし ） の 父 ( ちち ） は 「 稽古 ( けいこ ） は 本番 ( ほんばん ） のようにやりなさい。 本番 ( ほんばん ） は 稽古 ( けいこ ） のようにやりなさい。」と 言 ( い ） っていました。 練習 ( れんしゅう ） と 本番 ( ほんばん ） は 空気感 ( くうきかん ） が 違 ( ちが ） いますから、 本番 ( ほんばん ） になったときにさあ 頑張 ( がんば ） ろうと 思 ( おも ） っても 稽古 ( けいこ ） でやっていないものは 出 ( で ） ないんですね。 稽古 ( けいこ ） のときからどれだけ 本番 ( ほんばん ） と 同 ( おな ） じ 緊張感 ( きんちょうかん ） を 持 ( も ） てるか、 反対 ( はんたい ） に 本番 ( ほんばん ） でどれだけいつも 通 ( どお ） りのことをできるかが 大切 ( たいせつ ） なことだと 思 ( おも ） います。 私 ( わたし ） が 臆 ( おく ） することなく 舞台 ( ぶたい ） に 立 ( た ） てるのは、 私 ( わたし ） が 小 ( ちい ） さいときから 父 ( ちち ） に 稽古 ( けいこ ） のときでも 絶対 ( ぜったい ） に 間違 ( まちが ） えてはいけないという 緊張感 ( ） を 出 ( だ ） してくれていたからかもしれません。

他 ( ほか ） には、 狂言 ( きょうげん ） は 生 ( なま ） の 舞台 ( ぶたい ） だから 何 ( なに ） が 起 ( お ） きるかわからないというのが あります。 他家 ( たけ ） と 一緒 ( いっしょ ） に 舞台 ( ぶたい ） に 立 ( た ） つこともあるんですが、 道具 ( どうぐ ） の 扱 ( あつか ） い 方 ( かた ） を 間違 ( まちが ） って 壊 ( こわ ） されてしまったとい うことが2 回 ( かい ） ぐらいありま す。その 時 ( とき ） は 白 ( しろ ） くなる というより 青 ( あお ） くなりました。

でも、どんな 事 ( こと ） でも 糧 ( かて ） になるものです。 経験 ( けいけん ） の 積 ( つ ） み 重 ( かさ ） ねの 大切 ( たいせつ ） さ を 実感 ( じっかん ） しました。

狂言 ( きょうげん ） はどこで 習 ( なら ） うことができるのですか？

　

狂言 ( きょうげん ） は 修行 ( しゅぎょう ） の 世界 ( せかい ） なので、 基本的 ( きほんてき ） には 入門 ( にゅうもん ） して 習 ( なら ） うことになります。そ れぞれの 家 ( いえ ） の 当主 ( とうしゅ ） から 教 ( おし ） えることを 許 ( ゆる ） された 狂言師 ( きょうげんし ） が 開 ( ひら ） いているお 稽古場 ( けいこば ） で 習 ( なら ） うことができます。 あとは、 最近 ( さいきん ） ではカルチャーセンター などでも 伝統芸能 ( でんとうげいのう ） の 教室 ( きょうしつ ） が 開 ( ひら ） かれていることがあるので、そ の 中 ( なか ） で 習 ( なら ） うこともできますね。 そして、 大変珍 ( たいへんめずら ） しいこ とではありますが、 学校 ( がっこう ） で 開催 ( かいさい ） している 狂言 ( きょうげん ） の 教室 ( きょうしつ ） があったりも するのでそういったものに 参加 ( さんか ） する のも 学生 ( がくせい ） にとっては 通 ( かよ ） いやすくていいかもしれません。

今 ( いま ） までやっていて よかったと 思 ( おも ） うことは 何 ( なん ） ですか？

父 ( ちち ） （ 和泉流十九世宗家　和泉元秀 ( いずみりゅうじゅうきゅうせそうけ　いずみもとひで ） ）は 本当 ( ほんとう ） に 厳 ( きび ） しい 師匠 ( ししょう ） で、 100％はできて 当 ( あ ） たり 前 ( まえ ） 、 120％、150％を 出 ( だ ） さなければ いけないという 人 ( ひと ） でした 。いつも「 弟子 ( でし ） は 師匠 ( ししょう ） を 感心 ( かんしん ） させるものだ。」 と 言 ( い ） っていて、 私 ( わたし ） は 4 歳 ( さい ） で 初舞台 ( はつぶたい ） を 踏 ( ふ ） んで21 歳 ( さい ） の ときに 父 ( ちち ） が 亡 ( な ） くなったのですが、 その 中 ( なか ） でほめてもら ったことは5 本 ( ほん ） の 指 ( ゆび ） で 数 ( かぞ ） えられるぐらいしかありません。 その 数回 ( すうかい ） のほめられたときには、 師匠 ( ししょう ） であり 目標 ( もくひょう ） の 人 ( ひと ） である 父 ( ちち ） に 認 ( みと ） められたということですごく 嬉 ( うれ ） しかったですね。

　あとは、 舞台 ( ぶたい ） に 立 ( た ） って お 客 ( きゃく ） さんから 笑 ( わら ） い 声 ( ごえ ） が 返 ( かえ ） ってきたときに、 自分 ( じぶん ） が 狂言師 ( きょうげんし ） として 役目 ( やくめ ） を 果 ( は ） たせたな と 感 ( かん ） じられる のでやっていてよかったと 思 ( おも ） いますね。 というのが、 狂言 ( きょうげん ） というのはアドリブが 一切 ( いっさい ） なく 昔 ( むかし ） から 変 ( か ） わ らないものを 受 ( う ） け 継 ( つ ） いでいるのですが、 今 ( いま ） の 人 ( ひと ） には 今 ( いま ） の 自分 ( じぶん ） たちの 体 ( からだ ） を 通 ( とお ） してしか 伝 ( つた ） えられないので、 客席 ( きゃくせき ） から 笑 ( わら ） い 声 ( ごえ ） が 返 ( かえ ） ってくると、 今 ( いま ） の 人々 ( ひとびと ） に 自分 ( じぶん ） の 舞台 ( ぶたい ） を 通 ( とお ） してきちんと 昔 ( むかし ） ながら の 狂言 ( きょうげん ） が 伝 ( つた ） わったのだなと 実感 ( じっかん ） できて 嬉 ( うれ ） しいです。

「 実 ( じつ ） はこうなんです 、 狂言 ( きょうげん ） 。」のようなものはありますか？

そうですね…、これも 難 ( むずか ） しいなあ…。でもやっぱり、 狂言 ( きょうげん ） は 日本 ( にほん ） の 伝統芸能 ( でんとうげいのう ） の 中 ( なか ） で 唯一純粋 ( ゆいいつじゅんすい ） な 喜劇 ( きげき ） だっていうことを 知 ( し ） ってもらえたら、 そして 笑 ( わら ） いを 楽 ( たの ） しんでもらえればと 思 ( おも ） います。まあ 知 ( し ） っ ている 人 ( ひと ） にとってはなんていうこともないのですが。

他 ( ほか ） には 、 僕 ( ぼく ） は21 歳 ( さい ） で 父 ( ちち ） から 宗家 ( そうけ ） を 継 ( つ ） いだのですが、 そのときに1 年 ( ねん ） ぐらいかけて 書 ( か ） いた 本 ( ほん ） の 中 ( なか ） で 言 ( い ） ったのは 「 狂言 ( きょうげん ） はウルトラマンみたいなも のだ」ということです。ウルトラマンは 外 ( そと ） か ら 見 ( み ） たら 同 ( おな ） じウルトラマンでも、 中 ( なか ） に 入 ( はい ） って 演 ( えん ） じるスーツアクターと 呼 ( よ ） ばれる 人 ( ひと ） たちは 変 ( か ） わ りますよね。その 人 ( ひと ） たちは みんなそれぞれ 違 ( ちが ） っていても、 変 ( か ） わらぬ ウルトラマンをつくるように 努力 ( どりょく ） してい ると 思 ( おも ） うのです。 それと 同 ( おな ） じように 狂言 ( きょうげん ） が、 600 年近 ( ねんちか ） く 受 ( う ） け 継 ( つ ） がれてくる 間 ( あいだ ） 、 一人 ( ひとり ） の 人間 ( にんげん ） がずっと 生 ( いき ） き ていられるわけではないですから、 何人 ( なんにん ） もの 人 ( ひと ） が 同 ( おな ） じ 役割 ( やくわり ） を 果 ( は ） たしてきまし た。 演 ( えん ） じる 上 ( うえ ） でも 先代 ( せんだい ） の 完全 ( かんぜん ） コピーができたら いいと 思 ( おも ） ってきました。 自分 ( じぶん ） の 個性 ( こせい ） を 出 ( だ ） したいとか、 自分 ( じぶん ） だからこそ できる 演技 ( えんぎ ） がしたい と 思 ( おも ） うことは 弟子 ( でし ） であるときに 必要 ( ひつよう ） ないんです。 今 ( いま ） でも、「お 父 ( とう ） さんに 似 ( に ） てますね。」と 言 ( い ） われるのが 自分 ( じぶん ） にとっての 最高 ( さいこう ） のほめ 言葉 ( ことば ） です。そして、 そうなれるためには 目 ( め ） に 見 ( み ） えない 心 ( こころ ） までも 受 ( う ） け 継 ( つ ） がなければいけません。 そのためにも、まずは 見 ( み ） ること 聞 ( き ） くことのできる 「 型 ( かた ） 」を 受 ( う ） け 継 ( つ ） がなければ、 目 ( め ） に 見 ( み ） えないものを 受 ( う ） け 継 ( つ ） げるわけがない という 考 ( かんが ） えのもとで、 型 ( かた ） というものが 厳 ( きび ） しく 守 ( まも ） られています。

次 ( つぎ ） の 目標 ( もくひょう ） を 教 ( おし ） えてください。

私共 ( わたしども ） 和泉流 ( いずみりゅう ） には 現行曲 ( げんこうきょく ） という254の 演目 ( えんもく ） があって、 その 中 ( なか ） で 一番位 ( いちばんくらい ） の 高 ( たか ） い 曲 ( きょく ） が 狸腹鼓（たぬきのはらつづみ）という 曲 ( きょく ） なんです。 これは 一子相伝 ( いっしそうでん ） 、つまりその 時代 ( じだい ） その 時代 ( じだい ） の 宗家 ( そうけ ） だけしか 演 ( えん ） じないものです。 これに 準 ( じゅん ） ずる 位 ( くらい ） に 三老曲 ( さんろうきょく ） と 呼 ( よ ） ばれる 三 ( みっ ） つの 曲 ( きょく ） が 位置付 ( いちづ ） けられていて、 すべて 老人 ( ろうじん ） を主役（シテ）にしているのでこう 呼 ( よ ） ば れているんですけど、 私 ( わたし ） は42 歳 ( さい ） の 6 月 ( がつ ） に その 中 ( なか ） の 一 ( ひと ） 曲 ( きょく ） である 「比岡貞（びくさだ）」を 演 ( えん ） じました。 40 代 ( だい ） というのは 経験 ( けいけん ） と 力 ( ちから ） がいい 具合 ( ぐあい ） に 交差 ( こうさ ） し ている 脂 ( あぶら ） ののった 時期 ( じき ） といわれます。 そういうときに 老人 ( ろうじん ） を 演 ( えん ） じ るというのは 芸 ( げい ） の 上 ( うえ ） で 一 ( ひと ） つの 大 ( おお ） きな 壁 ( かべ ） ですが、 私 ( わたし ） の 目標 ( もくひょう ） にしている 師匠 ( ししょう ） は40 代 ( だい ） でこの 三老曲 ( さんろうきょく ） をすべて 演 ( えん ） じているんですね。 なので 私 ( わたし ） も40 代 ( だい ） のうちに 残 ( のこ ） りの2 曲 ( きょく ） を 演 ( えん ） じられたらいいなと 思 ( おも ） って 日々精進 ( ひびしょうじん ） しています。

あとは、 大 ( おお ） きな 目標 ( もくひょう ） とし ては 長生 ( ながい ） きをするということがあります 。 狂言師 ( きょうげんし ） は 元気 ( げんき ） に 動 ( うご ） いていられる 間 ( あいだ ） はずっと 現役 ( げんえき ） という 世界 ( せかい ） ですから。 また、 伝統芸能 ( でんとうげいのう ） なので 自分 ( じぶん ） の 持 ( も ） っているものを 後 ( あと ） の 世代 ( せだい ） に 受 ( う ） け 渡 ( わた ） してい くという 役目 ( やくめ ） がありますから、 自分 ( じぶん ） の 弟子 ( でし ） や 子供 ( こども ） たちだけに 限 ( かぎ ） らず 狂言 ( きょうげん ） という 世界全体 ( せかいぜんたい ） を 見守 ( みまも ） っていきたいからです。 というのは、 伝統芸能 ( でんとうげいのう ） には 歴史 ( れきし ） があって、 長 ( なが ） い 間 ( あいだ ） 受 ( う ） け 継 ( つ ） がれるうちに 時代背景 ( じだいはいけい ） や 社会背景 ( しゃかいはいけい ） は 変 ( か ） わっていくと 思 ( おも ） うんです。 それでも 変 ( か ） えていいところと 変 ( か ） えてはいけないところがあるんです。 それを 変 ( か ） えてしまったら 伝統 ( でんとう ） ではなくなってしまう、 という 事 ( こと ） や、 それぞれの 時代 ( じだい ） の 価値観 ( かちかん ） によって 揺 ( ゆ ） らいでいってしまう 事 ( こと ） など もでてくる。その 時 ( とき ） に「そうじゃあり ません！ 正 ( ただ ） しい 伝統 ( でんとう ） はこうですよ」という 信念 ( しんねん ） を しっかり 持 ( も ） っていれば 何世代 ( なんせだい ） 後 ( あと ） までも 正 ( ただ ） しく 伝 ( つた ） えていかなければなりません。 そういうところを 見守 ( みまも ） っていくために も、やはり 長 ( なが ） く 生 ( い ） きたいですね。

では、 最後 ( さいご ） に 若 ( わか ） い 人 ( ひと ） にメッセージをお 願 ( ねが ） いします。

ぜひいろいろな 事 ( こと ） に チャレンジしてほしいです。 若 ( わか ） いうちなら、たとえ 失敗 ( しっぱい ） しても、 先生 ( せんせい ） やお 父 ( とう ） さん、お 母 ( かあ ） さん、 保護者 ( ほごしゃ ） に 励 ( はげ ） まされたり、 叱 ( しか ） られたりしてやり 直 ( なお ） すことが できるチャンスがいくらでもあると 思 ( おも ） います。 そして、 初 ( はじ ） めて 見 ( み ） る、 聞 ( き ） く、 触 ( ふ ） れるというときにはぜひ 素直 ( すなお ） でいてください。 素直 ( すなお ） でいれば 心 ( こころ ） の 成長 ( せいちょう ） は 止 ( と ） まることがありません。 真 ( ま ） っ 直 ( す ） ぐな 心 ( こころ ） でいろんなものを 目 ( め ） にしたりいろんなことを 経験 ( けいけん ） したりするとその 感動 ( かんどう ） は 鮮明 ( せんめい ） に 残 ( のこ ） ると 思 ( おも ） うんです。 真 ( ま ） っ 白 ( しろ ） な 心 ( こころ ） にたくさんの 刺激 ( しげき ） を 色濃 ( いろこ ） く 残 ( のこ ） してもらいたいので、 たくさんのことにチャレンジしてください。 　でも、そのチャレンジをするときに、 大切 ( たいせつ ） なものがあります。 やるべきことなのかやるべきではないことなのかを 判断 ( はんだん ） できる 「 土台 ( どだい ） 」や「もの さし」が 必要 ( ひつよう ） です。そして、 それをつくっていくときには、 自分 ( じぶん ） だけの 価値観 ( かちかん ） 、 考 ( かんが ） え 方 ( かた ） だけではなく、 自分 ( じぶん ） の 家 ( いえ ） のル ールから 学 ( まな ） びながら 独自 ( どくじ ） のものを 作 ( つく ） っていってください。

あとは、 世 ( よ ） の 中 ( なか ） や 世界 ( せかい ） に 出 ( で ） たら、 「 自分 ( じぶん ） らしさっ て 何 ( なん ） だろう？」、「 日本 ( にほん ） らしさって 何 ( なん ） だろう？」 って 考 ( かんが ） えるときが いつか 必 ( かなら ） ず 来 ( き ） ます。 そして 他 ( ほか ） と 触 ( ふ ） れ 合 ( あ ） って お 互 ( たが ） い 交流 ( こうりゅう ） しようとするときに、しっかりとした 「 自分 ( じぶん ） 」を 持 ( も ） っていないとなし 崩 ( くず ） し 的 ( てき ） に 自分 ( じぶん ） がなくなっていってしまう ことがあります。 その「らしさ」っていうものは そういうことに 気 ( き ） づいてから 見 ( み ） つけるのでもいいんですが・・・。とにかく「らしさ」が 無 ( な ） いのが 一番悲 ( いちばんかな ） しいことです。 じゃあその「 自分 ( じぶん ） らしさ」って どこにあるかっていうと、 たとえば 学校 ( がっこう ） 。この 世界 ( せかい ） で 今 ( いま ） 、 自分 ( じぶん ） が 通 ( かよ ） っている 学校 ( がっこう ） の 自分 ( じぶん ） の 学年 ( がくねん ） らしさを 持 ( も ） っているのはほんの 百数十人 ( ひゃくすうじゅうにん ） だけじゃないですか。さらに 他人 ( たにん ） が 持 ( も ） っていないものを 考 ( かんが ） えれば、 自分 ( じぶん ） の 家 ( いえ ） に 兄弟 ( きょうだい ） がいればその 人数分 ( にんずうぶん ） 、 一人 ( ひとり ） っ 子 ( こ ） なら 世界中 ( せかいじゅう ） で 一人 ( ひとり ） しか 持 ( も ） っていない「らしさ」ですよね。だから、この 家 ( いえ ） で 育 ( そだ ） った 自分 ( じぶん ） だけが 持 ( も ） っているものや 自分 ( じぶん ） が 置 ( お ） かれた 環境 ( かんきょう ） で 得 ( え ） られることを 早 ( はや ） いうちから 意識 ( いしき ） しておくと、 何 ( なに ） かのときに 自分 ( じぶん ） だからやれること、 自分 ( じぶん ） にしかできない 判断 ( はんだん ） を 見 ( み ） つけていけると 思 ( おも ） うのです。できることってなんだろうと 悩 ( なや ） んだら、 自分 ( じぶん ） の「 家 ( いえ ） 」に 立 ( た ） ち 戻 ( もど ） ればいいんです。こんなに 太 ( ふと ） くて 他 ( ほか ） に 誰 ( だれ ） も 持 ( も ） っていない 柱 ( はしら ） はないと 思 ( おも ） います。

今 ( いま ） までに 話 ( はな ） したことをメッセージとしてまとめれば、 外 ( そと ） の 刺激 ( しげき ） に 目 ( め ） を 向 ( む ） けつつ、 自分 ( じぶん ） らしさというものも 意識 ( いしき ） してください、ということです。

そして、「 日本 ( にほん ） らしさ」というものを 考 ( かんが ） えたときに、この 国 ( くに ） には 狂言 ( きょうげん ） という600 年 ( ねん ） も 前 ( まえ ） から 続 ( つづ ） いている 世界 ( せかい ） に 通用 ( つうよう ） する 喜劇 ( きげき ） があることを 思 ( おも ） い 出 ( だ ） して、 日本 ( にほん ） の 誇 ( ほこ ） れるものの 一 ( ひと ） つとして、 狂言 ( きょうげん ） も「 日本 ( にほん ） らしさ」に 入 ( い ） れてほしいなと 思 ( おも ） います。

ありがとうございました。

これからの 末永 ( すえなが ) いご 活躍 ( かつやく ) をお 祈 ( いの ) りしております。

 

 

---

和泉元彌（いずみ・もとや）さん

狂言師 ( きょうげんし ） ・ 和泉流二十世宗家 ( いずみりゅうにじゅっせそうけ ） 。 十九世宗家和泉元秀 ( じゅうきゅうせそうけいずみもとひで ） の 嫡男 ( ちゃくなん ） 。 祖父 ( そふ ） は 人間国宝九世三宅藤九郎 ( にんげんこくほうきゅうせみやけとうくろう ） 。 修行 ( しゅぎょう ） は1 歳半 ( さいはん ） から 始 ( はじ ） まり、 4 歳 ( さい ） で 初舞台 ( はつぶたい ） 。 以降 ( いこう ） 、 大曲 ( たいきょく ） ・ 秘曲 ( ひきょく ） を 若 ( わか ） くして 披 ( ひら ） き、 24 歳 ( さい ） で 一子相伝 ( いっしそうでん ） 「 狸腹鼓 ( たぬきのはらつづみ ） 」 初演 ( しょえん ） 。 国内外 ( こくないがい ） で 狂言 ( きょうげん ） の 普及 ( ふきゅう ） につとめている。 紅白歌合戦司会 ( こうはくうたがっせんしかい ） や 大河 ( たいが ） ドラマ 「 北条時宗 ( ほうじょうときむね ） 」 主演 ( しゅえん ） 、 ネスカフェCM 出演 ( しゅつえん ） 。 本年 ( ほんねん ） は 最奥秘曲 ( さいおうひきょく ） 「 比丘貞 ( びくさだ ） 」を 披 ( ひら ） き 新 ( あら ） たな 境地 ( きょうち ） へ。 主演映画 ( しゅえんえいが ） 「さつまおごじょ」 でベルリン 国際 ( こくさい ） フィルムメーカー 映画祭短編部門最優秀主演男優賞 ( えいがさいたんぺんぶもんさいゆうしゅうしゅえんだんゆうしょう ） 、 マドリード 国際映画祭短編映画部門最優秀作品賞 ( こくさいえいがさいたんぺんえいがぶもんさいゆうしゅうさくひんしょう ） を 受賞 ( じゅしょう ） 。 今秋 ( こんしゅう ） 、 主演映画 ( しゅえんえいが ） 「 忍性 ( にんしょう ） 」 上映 ( じょうえい ） 。

中学生・和泉采明（いずみ・あやめ）さんにもインタビュー！

同世代(どうせだい)の 人(ひと)へのメッセージをお 願(ねが)いします。

友達(ともだち)や 知(し)り 合(あ)いが 狂言(きょうげん)の 公演(こうえん)を 見(み)に 来(き)てくれたとき、「～がおもしろかった！」「～で 笑(わら)っちゃった！」とたくさんの 感想(かんそう)を 聞(き)かせてくれます。そのような 言葉(ことば)を 聞(き)くたびに、 日本(にほん)の 伝統文化(でんとうぶんか)に 自然(しぜん)と 親(したしみ)しみをもって 楽(たの)しむことができるのは 本当(ほんとう)にすばらしいことだと 思(おも)います。

また、狂言(きょうげん)は、 今(いま)のお 笑(わら)いの 原点(げんてん) とも言(い) われます！ 知識(ちしき)がなくても 気軽(きがる)に 楽(たの)しめるのは 大(おお)きな 魅力(みりょく)の1つなので、ぜひおもしろい 演目(えんもく)をたくさん 見(み)てほしいです。

どうして狂言(きょうげん)をやっているのですか？

私(わたし)の 生(う)まれた 家(いえ)が 狂言(きょうげん)をやっていたからです。 今(いま)では、 狂言(きょうげん)というものが 自分(じぶん)にとってあたりまえの 生活(せいかつ)の 一部(いちぶ)になっています。

狂言(きょうげん)をやっているとほぼ 毎日(まいにち)の 稽古(けいこ)や 勉強(べんきょう)、 部活(ぶかつ)との 両立(りょうりつ)など 大変(たいへん)なときもありますが、 自分(じぶん)にしかできない 日本(にほん)の 文化(ぶんか)を 守(まも)る 使命(しめい)だと 思(おも)っています。