肺のしくみ1〜肺の血管の特徴〜
人間の内臓で、もっとも大切なものは、何だと思いますか? それはもちろん心臓でしょう。では、その次に大切な内臓は何ですか? たいていの人が思いつくのは、肝臓や腎臓です。「肝腎要」という言葉もあるくらいですから。肝臓も腎臓も、ともに生命にとって不可欠です。血液の流量の非常に大きな臓器でもあります。
でも、心臓と同じように大切な肺のことは忘れがちです。肺が呼吸の働きをしなくなると、人間は数分のうちに死んでしまいます。それに肺の血管を流れる血液の量は、全身の血管を通る血液とほぼ同じなのです。
肺の血管には、全身の血液と異なる不思議な性質がいくつもあります。
その1
その第一は、肺の動脈の血圧がとても低いことです。血圧の高さは、ミリメートル水銀柱という単位で測ります。全身の動脈の血圧は120ほどですが、肺の動脈では25ほどです。
ただし、肺の血圧が低いのには、わけがあります。まず第一に肺の動脈は毛細血管になるまでの距離が短いので、血圧を十分に下げることができません。動脈の血圧を低くしておかないと、毛細血管に高い血圧がかかって、血管から出血したり液がしみでたりして、肺の機能を妨げてしまうのです。
その2
第二に、肺のいろいろな部分を流れる血液の量は、身体の姿勢により変わります。寝ているときには、血液は肺の中を均等に流れますが、上体を起こすと血液が肺の下部に偏ります。もともと肺動脈の血圧が低いので、肺の上部の血圧が特に低くなり、毛細血管がつぶれてしまいます。そのため血液が流れにくくなるのです。
心臓病の患者などで左心房の血圧が高い人は、横になると呼吸が苦しくなるので、上半身を起こした姿勢をとるようになります。上半身を起こすと肺の上部の血圧が下がり、毛細血管から余分な水分がしみでてこないので、呼吸が楽になるのです。これを起坐呼吸といいます。
その3
肺の血管系の第三の特徴は、肺胞の酸素の濃度が低くなると、その部分に血液を送る動脈が収縮して、血流量を減らすことです。これは、きわめて好都合な性質です。気管支などが詰まるなどして肺の一部の換気が悪くなったときに、その部分に送る血液を減らし、肺のほかの部分で十分に酸素をもらった血液だけを心臓に戻すのです。こうして全身に送るための酸素が、いつでも十分に確保されるのです。