核移植とは何か

 核移植には移植する核とその受け皿が必要である。前者をドナー細胞、レシピエント細胞と呼ぶ。ドナー細胞としては、これまで30〜50個に分裂した未受精卵由来の胚細胞を用いていた。「ドリ−」の誕生によって、ドナー細胞は成熟した動物の体細胞まで可能になった。
 レシピエント細胞には、成熟した未受精卵を用いる。この卵子の中には、全能性細胞である受精卵が発生を開始し、個体を形成するために必要な物質が全て備えられていると考えられるからである。しかし、同時に、卵子も母親に由来する細胞核(染色体)を持っている。核移植によってドナー細胞の核卵子内に入ってくるので、染色体の倍数性を維持するために卵子由来の核はあらかじめ取り除かれる。これを「除核」と呼ぶ。
 まず、除核した未受精卵に2種類のガラスピペットを用いてドナー細胞を入れていく。この2種類というのは、1つ目のピペットは卵子を支えるため、そして、もう1つのピペットでドナー細胞を卵子内に導入する。ここで良く誤解されるのは、導入するのは細胞全体であり、遺伝情報の本体であるDNAを含む核のみでないことである。したがって、化石に含まれるDNA片から恐竜を蘇らせることはできない。同じように、死んだ細胞からクローンを作り出すことも現在の技術では対応できない。核移植には生きた細胞の細胞膜が必要不可欠なのだ。その理由は、導入したドナー細胞をレシピエント卵子に入れて、核移植という技術を完了させるためには、電気的細胞融合と呼ばれる過程が必要で、そのためには細胞膜が生きたままでなくてはならないからである。同時に、この電気融合は精子による受精現象が伴わない核移植の過程で精子の機能を代用している。受精がおこらなければ、卵子は発生のプログラムが開始できない。それを電気によって人為的に生じさせているのである。
 ドナー細胞を受け入れた未受精卵子は、電気刺激によって目覚め、分裂を開始する。うまくゆけば、約24時間ごとに分裂をくり返し、7日目には「胚盤胞期」と呼ばれる時期にまで発生する。胚盤胞期にまで発生した卵子は、仮親の子宮に移植することができる。うまく妊娠が継続すれば、羊で150日、牛で280日の妊娠期間を経てクローン動物が生まれてくる。

 ちなみに、核移植の全ての操作は顕微鏡下で、また、人間の手の代わりにマイクロマニュピュレイタ−という装置を使う。なぜならば、ドナー細胞、レシピエント細胞ともにとても小さいからである。