5.変化するテトラコード

 

 ピタゴラス音律における「半音=全音=全音」という形をとるダイアトニックでは、リンマとトノスの音程が用いられ、「256/243=9/8=9/8」という比率になり、この2つの全音がつくるディトノス(81/64)がとても不協和な関係になってしまう。この耳障りなディトノスを、より協和する純正三度(5/4)に置き換えるような方法が模索された。二つあるトノスのひとつだけを81/80分の音程だけ減らして純正三度を導こうとしたのである。

 このような操作はディデュモス(後一世紀)によって行われたとプトレマイオスが伝えている。この補正によって、テトラコードを構成する音程は「16/15=10/9=9/8」となり、9/8の大全音と10/9の小全音という二つの全音が生み出された。この二つの音程の差は、補正のための微分音程に相当し、「ディデュモスのコンマ」、もしくは「シントニック・コンマ」と呼ばれている。

 プトレマイオスは、ディデュモスのダイアトニックの大全音と小全音を入れ替え、「16/15=9/8=10/9」という形にしている。また、アルキュタスはダイアトニックを「28/27=8/7=9/8」に分割する方法を考案した。

 クロマティックにおいては、テトラコードを全音と短三度の二種類の音程によって分割すると、「10/9,6/5」、「9/8,32/27」、「8/7,7/6」の三つの組み合わせが考えられる。この組み合わせからは、10/9,9/8,8/7という三種類の全音があらわれる。さらに、これらの全音をまた分割する。アルキュタスは9/8を分割して「28/27=243/224=32/27」のようなクロマティックを考え、プトレマイオスは、10/9を分割した「28/27=15/14=6/5」や、8/7を分割した「22/21=12/11=7/6」を考案した。

 エンハーモニックにおいてはアルキュタスが考案した16/15という半音を分割した「28/27=36/35=5/4」というものが知られている。

 このように、古代ギリシャではさまざまなテトラコード、そしてさまざまな微分音程があり、現代の平均律になれている私たちよりはるかに繊細で多様な音楽表現をしていたのだろう。