中国の龍

中国では、龍は地上の水(海、湖、池、川)の支配者であり、また、地上に雨となって降る天の水、雲や風、稲妻や雷の支配者でもある。春になると龍達は、地上の水から天に昇っていき、互いに雲の中で戦い、稲妻を発し雷を轟かす。龍達の息は雲や火に変わる。風が轟音を轟かせて、豊富な雨を運んでくる。秋になると、龍達は再び地上に下りて行き、水中深く潜り込む。冬の間、龍達は眠り、雨は降らない。

中国を始めとした東洋では、龍は比較的肯定的な意味を持つ。
中国の人々にとって龍は大自然の化身であった。
中国の国土は広大で、雨が豊かな恵みをもたらす一方、長江の氾濫が辺り一帯を飲み込み破壊し尽くす。
圧倒的な大自然への感謝と恐怖、そして人間の力の及ばない広大さに、かつての中国の人々は畏怖を感じ、偉大な神の力を持つ生き物、つまり龍を生み出したのだろう。

また、中国神話には、伝説上の皇帝が何人か存在する。
その中でも、世界及び人間を作り出したとされ、中国における皇帝たちの祖先であり一番最初に出現した神とされるのが 伏義と女禍である。彼らは人間の如き上半身と蛇の如き下半身とを持っていたという。つまり龍神だったのである。また、この子孫である黄帝は龍に乗って天を駆けることができた、という。これらの話からも、中国では龍は神の力を持つ生物として崇められているという事が分かるだろう。

 

バビロンの竜

バビロンの竜といえば、ティアマトであろう。

バビロンの天地創造の叙事詩エヌマ・エリシュは、次のように告げている。

アプスー(男性神・淡水の化身)とティアマト(女性神・海水の化身)は最初の神々のペアであった。彼らは多くの神々を生んだ。しかしある時、若い神々の無秩序な行為によって眠れなくなったアプスーは、彼ら若い神々を殺そうとして逆にエア神によって打ち殺されてしまう。ティアマトは復讐を誓い、キングー神と結婚し、蛇、竜、赤竜、スフィンクス、巨大ライオン、ケンタロス等の多くの怪物を生んだ。

ティアマトが眷族を引き連れて天の神々に立ち向かったとき、最も若いが最も強く賢い神マルドゥクは、神々の集会で、全宇宙において比類ない権力と支配権を授けられ、ティアマトに戦いを挑んだ。彼はティアマトを網で捕らえ、彼女の大きく開いた喉に大風を吹き込み、鎌太刀を持って追跡し、彼女を殺した。そして、亡骸の上半分から天を創り、下半分で地球を創った。こうして彼はカオス(虚無の混沌における光と闇の戦い)を制し、秩序ある宇宙を創造した。そして、ティアマトに従う神々を冥界に閉じ込め、キングー神の血から人間を創造した。

この後マルドゥクは神々の王として宇宙に君臨し、バビロンに宮殿を建てた。

この話では、ティアマト、即ち竜は悪竜であり、善の神々によって倒され、その血肉から天地を創造している。世界にはこのように竜や蛇が神々に退治されて天地を生ずるという話は数多い。もともと蛇は神格化して竜とされ、地母神として崇められていた。しかし、新たな民族とともに新たな神話がその土地に入ってくる中で、悪の化身とされてしまったものが少なくない。この話も、時代の流れの中で、土着の神が悪竜とされてしまったのではないだろうか。

 

ギリシャの竜

ギリシャ神話には、テュポーンという竜が登場する。

テュポーンは、腰から上は人間で、腰から下はとぐろを巻いた蛇という強大な怪物で、母大地(ガイア)がその息子タルタロス(=冥界の淵)と交わって生まれた。テュポーンは大きさと強さの点でガイアのすべての子供に勝り、天を支配する神になろうとし、シュウシュウと吠えながら天に燃える石を投げ、口から炎を吐き出して攻撃した。神々は天における彼らの支配権を失うことを恐れ、逃げ出した。しかし天の主神ゼウスはこれに立ち向かった。ゼウスは稲妻を放ちながら地上に降り、鋼鉄の鎌を持ってテュポーンと戦った。テュポーンは傷を負って、

まずトラキアに、それからシチリアへと逃げた。そこでゼウスはテュポーンの上にエトナ山を落とし、永久に閉じ込めた。

他の版によれば、ゼウスは最初この怪物に打ち負かされたことになっている。テュポーンは蛇の触手を彼に巻きつけ、戦闘不能にし、彼が持っていた鎌で腱を切り取った。しかし、ヘルメスとパンが策略をめぐらせてゼウスの腱を取り戻し、それを再び彼に嵌め込んだ。かくして、ゼウスは最終的にテュポーンに勝つことができた。

この神話の二、三の版では、この男性竜のテュポーンに一頭の女性竜、エキドナが与えられた。エキドナは、半身が美しい顔をした若い女性であり、もう半身は恐ろしい大蛇であった。彼女は素早く動き、神大地の洞穴で全て生のまま飲み込んでしまう。このテュポーンとエキドナの間に地獄の番犬ケルベロス、九頭竜ヒュドラ、ライオンと山羊と竜の混合体キマイラ(キメラ)多頭竜ラドン等が生まれるのだが、それはそれぞれの項目で詳しく見てほしい。

また、ギリシャ神話とは別に、ギリシャには、バジリスクという竜も存在する。恐ろしい毒を持ち砂漠に棲むとされる。その名はギリシャ語で「小さな王」の意味を持つ。古代ギリシャ、ローマ時代から中世まで、長い年月に渡り人々に恐れられた。

 

インドの龍

インドの龍といえば、ヴリトラ、ナーガ辺りが有名であろうか。

彼らはインドの経典リグ・ヴェーダに登場する。まずはヴリトラとインドラ(雷雨と豊穣の神で、神々の王)の戦いについて話そう。

ヴリトラとは宇宙の雲龍と雨龍であり、アヒ(蛇)とも呼ばれ、最初に生まれた蛇である。世界が始まるとき、この蛇は世界の水に巻き付いて、水が流れるのを止めた。不老不死の水によって奮起をえて、インドラはヴリトラに対し稲妻を放ち、この雲龍を裂いて殺した。それによって、豊穣をもたらす雨が地上に降ったという。

一方のナーガについては、良い説話が見つからなかったが、一般にナーガは普通の蛇の姿で現れ、ときには人間の姿をする、と言われている。
ナーガは中国に伝わり、燭陰(しょくいん)という神として現在も語り継がれている。
曰く、自然の摂理である気候や季節を作りだす存在で、真紅の長い体を山に巻きつけ、食べず飲まず息すらせずに世界を見守っているという。

 

その他の竜

上記の竜以外にも、世界には多くの竜が存在する。

ここでは、詳しいデータは得られなかった、という竜について、ほんの少しだけ紹介しよう。

 

クエレプレ

海に棲み、海底や洞窟の財宝を守る翼竜。若いときには陸にある泉に棲み、人間や家畜を襲って血を吸っていたという。大麦とトウモロコシで作ったパンを供えると、襲われずにすむ。

 

パトリムパス

リトアニアの主要三神の一人。人の頭を持つ蛇神。

 

夜刀神(やとのかみ)

常陸風土記に登場する土着の蛇神。

トップページに戻る