第三幕 歌舞伎のみどころ



壱.歌舞伎の舞台

<1>花道(はなみち)
 
役者、特に主役の登・退場に使用される、歌舞伎ならではの舞台装置です。観客席の中をつらぬいて、
舞台への役者の通り道となる道である。しかし、歌舞伎の歴史の最初から花道が存在したわけではない。
観客席の整備に伴って、この花道ができたと思われる。この花道は「勧進帳」のなかで多用され、登場人
物の芸を最大限生かしたものにする役割を持つ。幕が閉まっても、ここで芝居が展開する作品もある。



<2>回り舞台(まわりぶたい)
 
歌舞伎劇場の中心に位置し、円形にかたちどられたもの。これが、回ることによって、
舞台の転換が早く行われるようになる。



<3>セリ(せり)
 
舞台の床を切り抜いた昇降装置のこと。


<4>揚幕(あげまく)
 
花道の出入り口に下げてある幕のこと。


<5>引幕(ひきまく)
 
一幕のはじめと終わりに引いて開閉する幕をいう。定式幕(じょうしきまく)といって、
緑・柿・黒の三色の布を合わせたものが使われる。



<6>浅葱幕(あさぎまく)
 
舞台の幕の内側にもう一枚吊る水色一色の幕。豪華な舞台面を一瞬にして見せる効果を狙うときなどに
使う。



<7>緞帳(どんちょう)
 
引幕のかわりに、舞台上部から上げ下ろしする幕のこと。


<8>切穴(すっぽん)
 
花道の舞台から三分、揚幕から七分のあたりに四角く切ったセリのこと。スッポンのように俳優の首が
出たり入ったりすることがことが由来である。



<9>下座(げざ)
 
舞台下手にある鳴物囃子(なりものはやし)部屋のこと。


<10>奈落(ならく)
 
すっぽんのある花道の下や舞台の地下室のこと。奈落(地獄)の底のようであることが由来している。


<11>床(ゆか)
 竹本の演奏する場所。


<12>すっぽん
 
セリの中でも、花道にあるものを特に「すっぽん」と呼びます。妖術使い、狐の化身、流星等、超人間的な
存在の登場で使用されます。



<13>平舞台(ひらぶたい)
 
舞台上に、屋台や土手など高さのあるものを何も置かない状態。


<14>ひのき舞台(ひのきぶたい)
 
ヒノキの板を張った能や歌舞伎の舞台のことで、とくに歌舞伎の大舞台という意味で用いられる。


<15>楽屋(がくや)
 
歌舞伎の出演者の扮装(ふんそう)をする部屋のこと。転じて、物事の内情の意となった。


<16>開帳場
 
二重から舞台にかけて斜面を作る形式。



弐.歌舞伎の音
 江戸時代いい役者の条件は一に声、二に姿、三に顔であった。歌舞伎は音楽劇とも言えるほど音と音楽を
大事にしたものである。「音は音にして音にあらず。」ここでは歌舞伎においてきわめて重要な音について説
明していくことにします。


下座(げざ)音楽
 歌舞伎のバック・グラウンド・ミュージック。音楽劇とも言われるほど演出に
占める音楽の役割が、重要なことは事実であり、その過半は下座音楽によって
いる。舞台に向かって左側、下手(しもて)に位置する簾(すだれ)かかった黒い
ボックスが歌舞伎の音楽を担当する部屋で、長唄の三味線・唄を中心に大太
鼓・太鼓・鼓・笛といった鳴り物楽器によって構成されている。










三味線のルーツ
 楽器分類の中で弦をはじいて音を出す楽器・・・三味線をご存
知だろうか。以下の写真が下座音楽に使われる代表的な三味
線である。この三味線は日本人の心を和ませる伝統的な古来
の楽器であり、今でも日本人の心のよりどころである。





















義太夫狂言
 人形浄瑠璃のために書き下ろされた作品を、歌舞伎に移して上演しているもの。

効果音の工夫
 舞台の裏で石を詰めて波の音を出したり、鳥の鳴き声を表現したりしている裏方的役割がある。この
リアルな効果音が俳優の演技や芝居の演出をより盛り上げるものである。



セリフ
 歌舞伎の音楽性は下座音楽など専門の音楽担当者だけに委ねられるものではない。「一に声・二に
顔・三に姿」であり役者の声を聞き分けるのも楽しみのひとつである。


客席の音
 歌舞伎では見ているお客さんが登場シーンや見せ場で役者に向かって掛け声をかけることがある。
これも重要な効果音であって舞台と観客のコミュニケーションの一手段でもあるのだ。掛け声には「成田
屋(なりたや)」「紀伊国屋(きのくにや)」などがある。



柝(たく)とツケ
 上演中に役者の動きを見ながら、駆け出す様子を見てバタバタと音を出し動作を強調させたいところで
ツケ板に柝を打ち付けて効果をあげる。


竹本(たけもと)
 義太夫狂言で、浄瑠璃の原文のうち、俳優がせりふでいう部分を除く残りの部分を語る演奏者。



参.歌舞伎の色

 女形、立役など役者にとって色気ほど大切なものはないといわれてきたが、今でも変わることなくそうであ
る。輝かしい装飾性を持つ歌舞伎には、各種各様の色はつきものである。「歌舞伎は色のオンパレード」
多様な色彩をご覧ください。



隈取り
 顔に彩色を施し化粧をするものである。


裃の色とデザイン
 裃と書いて「かみしも」と読ませる。


定式幕
 歌舞伎を象徴するどん帳のこと。


衣装
 役者の着る衣装は鮮やかであり、そしてあでやかなものであり、初めてご覧になった方はそのきれいさに
驚くものである。



色と役柄
 歌舞伎は一目でどんな役柄の人物かわからなくてはならない。
   @立役(善玉の男性)・・・・白を基調としその上から少し紅を混ぜる。
   A敵役(悪人の男性)・・・・口を墨で強く書く。
   B女形(女性役)・・・・・・・・男の役に比べシンプル。お歯黒をつける。



櫛など
 歌舞伎ではかつらをかぶって役柄に似合う形に縫い上げる。


刺青(いれずみ)
 刺青を見ることによって観客は目を見張り、江戸風の悪の華に酔いしれる。
















三角の雪
 歌舞伎の雪はクライマックスに降り注ぎその細やかな和紙の雪は深い悲しみを
強調するものである。また闇の世界を純白に覆って観客に大きな感動を与えて
くれるのである。









 


四.歌舞伎の俳優

<1>立役(たちやく)
 
「たてやく」ではない。女形に対する男役の意味、悪人に対する善人の意味がある。


<2>座頭(ざがしら)
 
「ざとう」ではなく「ざがしら」と読む。座頭は一座の頭領で、立役から出る。


<3>立女形(たておやま)
 立女形は女形の座頭。座頭役者の相手役にまわる。


<4>書出し(かきだし)
 立役のうちで、座頭に次ぐ重鎮である。


<5>二枚目(にまいめ)
 
劇場の表に飾る八枚看板の、二枚目に書き出される役者の意味で、新進の若手。


<6>三枚目(さんまいめ)
 
同じく表八枚の看板の三枚目に載せられたことが起源。道化役(滑稽な役)を意味している。


<7>名題(なだい)
 
劇場の表に飾る名題看板に名前を連ねる俳優の資格。幹部という意味がある。