登場人物別 せりふ

鳥を捕る人

鳥を捕る人

「ここへかけてもようございますか。」
「あなた方は、どちらへいらっしゃるんですか。」
「それはいいね。この汽車は、じっさい、どこまででも行きますぜ。」
「わっしはすぐそこで降ります。わっしは、鳥をつかまえる商売でね。」
「鶴や雁です。さぎも白鳥もです。」
「居ますとも、さっきから鳴いてまさあ。聞かなかったのですか。」
「いまでも聞えるじゃありませんか。そら、耳をすまして聴いてごらんなさい。」
「鶴ですか、それとも鷺ですか。」
「そいつはな、雑作ない。さぎというものは、みんな天の川の砂が凝って、ぼおっとできるもんですからね、そして始終川へ帰りますからね、川原で待っていて、鷺がみんな、脚をこういう風にして下りてくるところを、そいつが地べたへつくかつかないうちに、ぴたっと押えちまうんです。するともう鷺は、かたまって安心して死んじまいます。あとはもう、わかり切ってまさあ。押し葉にするだけです。」
「標本じゃありません。みんなたべるじゃありませんか。」
「おかしいも不審もありませんや。そら。」
「さあ、ごらんなさい。[#ちくま文庫「宮沢賢治全集7」では「、(読点)」]いまとって来たばかりです。」
「ね、そうでしょう。」
「ええ、毎日注文があります。しかし雁の方が、もっと売れます。雁の方がずっと柄がいいし、第一手数がありませんからな。そら。」
「こっちはすぐ喰べられます。どうです、少しおあがりなさい。」
「どうです。すこしたべてごらんなさい。」
「も少しおあがりなさい。」
「いや、すてきなもんですよ。一昨日の第二限ころなんか、なぜ燈台の灯を、規則以外に間〔一字分空白〕させるかって、あっちからもこっちからも、電話で故障が来ましたが、なあに、こっちがやるんじゃなくて、渡り鳥どもが、まっ黒にかたまって、あかしの前を通るのですから仕方ありませんや。わたしぁ、べらぼうめ、そんな苦情は、おれのとこへ持って来たって仕方がねえや、ばさばさのマントを着て脚と口との途方もなく細い大将へやれって、斯う云ってやりましたがね、はっは。」
「それはね、鷺を喰べるには、」
「天の川の水あかりに、十日もつるして置くかね、そうでなけぁ、砂に三四日うずめなけぁいけないんだ。そうすると、水銀がみんな蒸発して、喰べられるようになるよ。」
「そうそう、ここで降りなけぁ。」
「ああせいせいした。どうもからだに恰度合うほど稼いでいるくらい、いいことはありませんな。」
「どうしてって、来ようとしたから来たんです。ぜんたいあなた方は、どちらからおいでですか。」
「ああ、遠くからですね。」

ジョバンニの切符

「もうここらは白鳥区のおしまいです。ごらんなさい。あれが名高いアルビレオの観測所です。」
「あれは、水の速さをはかる器械です。水も……。」
「おや、こいつは大したもんですぜ。こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。天上どこじゃない、どこでも勝手にあるける通行券です。こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、どこまででも行ける筈でさあ、あなた方大したもんですね。」