〜漢字の歴史〜


●日本で使われている文字

現在日本で使われている文字には漢字とかなとがあります。漢字には中国から伝来したものと、それを真似て日本で作ったものとがあり、かなには漢字をくずしたひらがなと、漢字のヘンやツクリからとったカタカナとがあります。ちなみに漢字は、エジプトの象形文字、メゾ歩民阿のくさび形文字とともに古代の文字でありますが、他の二者が滅びてしまったのに対して今でも使用され続けています。

●漢字の起源

漢字の起源は今でもはっきりとしていなく、それほど古いものです。現在わかる範囲で一番古いとされているのは、古代殷帝国の都跡(河南省)から出土した亀の甲や獣骨(いずれも占いに使用していた)に刻まれた文字で、だいたい紀元前1500年頃のものといわれています。これは絵か文字かもわからないようなものでしたが、次第に改良され、秦の始皇帝は中国を統一(紀元前3世紀)して篆書(てんしょ)という書体を制定し公布しました。それからさらに篆は実用的に変えられ、前漢代(紀元前2,1世紀)には隷(れい)書体が生まれましたが、漢末には楷書がとってかわり、現代に及んでいます。
日本で漢字というのは、漢末に固定した字体だからです。

●日本伝来時期

では漢字はいつ日本に伝来したかというと、270〜310年頃に『論語』、『千字文』が百済から到来したことが公式的に初めてとされています。しかし実際はもっと早く、1世紀ごろにはもう朝鮮半島を経て入ってきたともいわれています。それまでには日本に文字はなかったとされていますが、江戸時代の学者や戦前の右津朝、軍人の中には、大昔の日本には文字があったとして神代文字なるものの存在を、まことしなやかに主張しています。

●神代文字

神代文字には色々な種類がありますが、有力とされているのは日文(ひふみ)と呼ばれる種類のものです。これは1446年に公布された朝鮮の諺文(おんもん)にならってつくられたものです。日本の文献には“上古に文字はなかった”と明記されている上に、神代文字で書かれた文献や碑は全く残っていません。そして、

・固有の文字があったのならわざわざ漢字を輸入してさらにかなを作り出す必要はない
・構成上から神代文字はかなよりも進歩した文字である
・神代文字は四十七なく、五十音しかないが、奈良時代以前の日本語のは万葉などの書き分けがあるはずで、もじ神代文字が太古のものならならその書き分けがあるはずである

との理由から神代文字の存在は完全に否定されています。神代文字は、室町時代(15,6世紀)に復古主義、国粋主義を衝動した神道家の手による偽作であることがわかります。

●漢字はなかなか受け入れられなかった・・・?

日本に入ってきた漢字は、なかなか日本人のものにはならなかったそうです。その証拠に、奈良時代に入っても史部をはじめ文字に関する公務の大半は、渡来人あるいはその子孫の手にゆだねられていました。
しかし兵味代の中期になると、貴族の間に“偏つぎ”という遊びが生まれました。これは、一つの漢字を出して、その字と同じ偏を持つ字を順々に書いて争う、というものでした。これを見ると上流階級の間には文字はかなり浸透していたことがわかります。

漢字や漢語が一般民衆の間に入ってきたのは、明治も中期以降、教育が普及してからです。江戸末期までの庶民にとっては、漢語というものは、いま巷(ちまた)にあふれている外国語以上にむずかしい、抵抗感のある言葉だったのです。けれども、知識階級の間にあっては、漢語は次第にかつ着実に己のものになっていきました。

〜漢字の日本化〜


漢字の日本化の一つとして、「百姓読み」、「湯桶(ゆとう)読み」が起こりました。

●百姓読み

「百姓読み」は漢字の字面だけをみて、中国の原音にない音をつけるものです。現在では百姓読みのほうが正しいとさえ思われています。「慣用読み」はこれも含んでいます。百姓読みにはこのようなものがあります。

 

百姓読み

正しい音

洗浄

せんじょう

せいでき

消耗

しょうもう

しょうこう

耗弱

もうじゃく

こうじゃく

膏肓

こうもう

こうこう

真諦

しんてい

しんたい

残滓

ざんさい

ざんし

矜持

きんじ

きょうじ

莫逆

ばくぎゃく

ばくげき

堪能

たんのう

かんのう

輸出

ゆしゅつ

しゅしゅつ

齷齪

あくせく

あくさく

攪乱

かくらん

こうらん

懶惰

らいだ

らんだ

垂涎

すいえん

すいぜん

直截

ちょくさい

ちょくせつ



●湯桶読み

「湯桶読み」は湯と桶のように、音と訓を混ぜて読む方法で、「重箱読み」ともいいます。(正確にいうと、訓+音が湯桶読みで、音+訓が重箱読みです。)これの例は、茶筒、派手、雑煮、場所、台所、手本、泥棒、馬鹿、小僧、手数、株式、などです。また福岡、札幌、新橋、徳川、土手、などの固有名詞もそうです。


〜国字・当て字・俗字・略字〜


日本語を表現するのに、特殊な漢字の使い方が生まれました。それが「国字」、「当て字」、「俗字」で、「略字」もその一つとして考えて良いと思われます。

●国字

国字とは日本で作られた漢字のことです。
国字の例:凪、働、畑、搾、込、峠、呎、喰、楯、畠、浬など。
これらの漢字は働と搾を除いて訓読みだけで音読みがありません。
この反対に音読みだけで訓読みがないものもあります(例:菊、京、貨、気、福、区、客、症、腺、肛、胃、臓、腑、脈、など)これらは学術語や医学用語として伝来した字の中に多いとみられます。字国字はかなり古くからたくさん作られたことがわかります。
●当て字

当て字も中国人にはわからない和製漢語のことです。これらはすぐに聞き覚えのあるものばかりではないでしょうか。
当て字の例:丁度(ちょうど)、一寸(ちょっと)、無闇矢鱈(むやみやたら)、天晴(あっぱれ)、煙草(たばこ)、型録(カタログ)、燐寸(マッチ)、麦酒(ビール)などです。
●俗字

俗字とは、正確な文字ではないですが、通俗的に使用されている漢字のことをいいます。俗字にはこんな例があります:俗字→耻(正字→恥)、並(竝)、群(羣)、燃(然)、灯(燈)、氷(冰)、菓(果)、机(几)などです。この中には俗字の方が正しかったり、また、正しい略字とされて、当用漢字に採用されているものもあります。
●略字

略字とは、字画の複雑な漢字について、その画を省いて簡略にした文字、また、その漢字に代用される字形の簡略な文字のことをいいます。この例には:應と応、歳と才、蟲と虫、預と予、言と云などがあり、これらは本来は別の字です。

〜故事成語〜


故事成語は中国から伝来したものなので、大体は日中共通と思われます。しかし、その中には現在日本と中国で一部分の表現の違う成語や、日本ではともかく中国ではほとんど使わない成語や和製成語もあります。
○日中で一部分の表現が違う成語:

合従連衡(合従連横)、粉骨砕身(粉身砕骨)、日進月歩(日新月歩)、半死半生(半死半活)、不老不死(長生不老)、間一髪(一髪之間)、優柔不断(優柔寡断)、大胆不敵(胆大肓為)、古今東西(古今中外)、一心同体(同心同徳)、自画自賛(自吹自擂)、矛盾(自相矛盾)、極悪非道(罪大悪極)、など
○日本で使うが、現代中国ではほとんど使わない成語:

一生懸命、一切合切・財、絶体絶命、無我夢中、正々堂々、是々非々、五里霧中、言語道断、一心不乱、など
○和製成語

一石二鳥、事後承諾、一目散、不言実行、無理難題、無理矢理、無理無体、縦横無尽、理路整然、など