日本の歴史をみると、様々な面で継体・欽明の大和政権あたりから日本が独立国家らしい姿を見せてきて、中国との交渉や朝鮮半島との密接な関係も目立ってきます。音楽の面でも、外来音楽が輸入されるようになったのはこの頃からです。

最初は朝鮮の音楽が渡来し、ついで中国の音楽が伝来しました。それぞれ新羅楽・高麗楽・百済楽・唐楽と呼ばれました。
名高いのは、推古天皇の時代(7世紀)に百済から帰化した味麻之によって伝えられた伎楽です。
8世紀の半ばに入ると、印度のバラモン僧によって林邑楽と仏教の声明が伝えられました。林邑楽というのは、今のヴェトナム南部地方の音楽です。平安時代初期には中国から渤海楽が伝来しています。

これらの音楽は鎌倉時代に滅亡した伎楽を除いて、宮廷を中心に雅楽のかたちで伝承されてきました。



●雅楽

「雅楽」という言葉は、俗楽に対する「雅正の楽」という意味をもっていて、大宝令(701)で創設された雅楽寮(うたまいのつかさ)で所管された外来の音楽と舞を指していました。現在、雅楽という言葉は狭義ではこれら外来の音楽と舞(管絃・舞楽)のみを指す場合が多いのですが、正式には日本古来の音楽や舞(国風歌舞)や平安時代に新しく作られた歌曲(催馬楽・朗詠)を含めた総称を「雅楽」と呼びます。雅楽寮に始まるこれら雅楽の伝承は、現在の宮内庁式部職楽部(くないちょうしきぶしょくがくぶ:重要無形文化財団体指定/総理府技官)に至るまで、1200年以上も形を変えることなく綿々と受け継がれています。また、現存する合奏音楽としては世界最古と言われており、その音楽的あるいは歴史的価値が高く評価されています。

@管弦

「管絃」というのはその言葉が示すとおり、管楽器と絃楽器(+打楽器)による合奏です。オーケストラの日本語である管弦楽という言葉はこの雅楽の「管絃」を引用して作られており、今日使われる音楽用語は雅楽用語から派生したものが多くあります。「管絃」は雅楽の中でも外来音楽を起源とするものに含まれています。この外来音楽には次のような種類があります。
 ○唐 楽(とうがく)…中国・ベトナム・インド・ペルシャなどの音楽を起源とするもの
 ○高麗楽(こまがく)…朝鮮・渤海(現中国の東北地方)の音楽を起源とするもの
この内、唐楽には合奏曲である「管絃」と舞を伴う伴奏曲である「舞楽」の両方がありますが、高麗楽には「管絃」はなく「舞楽」のみです。

管弦の演奏

A舞楽

楽器のみによる合奏である「管弦」に対して、舞を伴うものを「舞楽」と呼びます。「管弦」の所でも説明しましたが、「舞楽」には唐楽と高麗楽の2種類があります。唐楽による「舞楽」を左方(さほう)、高麗楽による「舞楽」を右方(うほう)と呼びます。また舞そのものをそれぞれ左舞(さまい)・右舞(うまい)とも呼んだりします。
舞楽の場合には曲のテンポなども管絃と比べてリズミカルに演奏され、管絃と同じ曲であっても舞楽の場合には拍子が違ったりします。
また、雅楽の舞は型の美しさを楽しむものが多く、ストーリー性のある舞はごく一部です。

←(右舞・環城楽)

B歌曲
外来音楽に起源をもつ管弦や舞楽と違い、歌曲と呼ばれる「催馬楽(さいばら)」・「朗詠(ろうえい)」は平安時代に日本で作られた流行歌です。「催馬楽」は和歌に曲を付けたもの、「朗詠」は漢詩に曲を付けたものです。
(朗詠・嘉辰の譜面)→

C国風歌舞
国風歌舞(くにぶりのうたまい)は他の雅楽曲と違い、外来音楽の影響をうける以前から日本にあった古来の歌舞(うたまい)です。「古事記」や「日本書紀」などの神話に基づくものが多く、神道や皇室に深く関わる歌や舞で構成されているのが特徴です。雅楽の中でも目にすることが少なく、なかには天皇の即位式でしか演奏されないといった特殊なものまであります。

←(東遊)




〜中国から伝わった楽器の紹介〜
●雅楽に使われる楽器

雅楽の楽器は西洋音楽と同じように管楽器・絃(弦)楽器・打楽器に大別されます。しかし西洋音楽とは各楽器の使い方などが違っており、各楽器の役割が明確に決められています。雅楽の合奏では、琵琶や箏といった絃楽器は洋楽のようにメロディーやアルペジオを奏でるのではなく、リズム楽器として位置付けられますし、主旋律は管楽器である篳篥が担当すると決まっています。これらは楽器や楽曲の構造や特性から次第に固定化していったものだと考えられています。
また、雅楽では管楽器を吹物(ふきもの)・弦楽器を弾物(ひきもの)・打楽器を打物(うちもの)と呼ぶこともあります。

@管楽器 A弦楽器

篳篥 竜笛 琵琶 和琴


B打楽器
太鼓 鞨鼓 鉦鼓 三ノ鼓 笏拍子

※これらの他にも、雅楽舞台で舞楽を演奏する時に使う、鼓面の直径が2m以上もある「大太鼓(だたいこ)」や「大鉦鼓(おうしょうこ)」、道楽(みちがく:行進しながら雅楽を演奏する形態)で使用する「荷太鼓(にないだいこ)」・「荷鉦鼓(にないしょうこ)」、船楽(ふながく:船に乗って演奏する形態)用太鼓、舞楽の小道具として登場する「壱鼓(いっこ)」・「鶏婁鼓(けいろうこ)」・「振鼓(ふりつづみ)」などがあります。この中で「釣太鼓」・「大太鼓」・「荷太鼓」・「船楽用太鼓」を総称して「楽太鼓(がくだいこ)」と呼びます。また、最もよく使う組み合わせである「釣太鼓」・「鉦鼓」・「鞨鼓」を総称して「三鼓(さんこ)」と呼んだりします。