第五回〜静電誘導


はい、いよいよ今回は静電誘導を学びます。
前回までは基礎の基礎です。
五回、六回でようやく実際に起こる静電気のしくみがぼちぼち理解できてくると思います。
ではがんばっていきましょう。
早速ですが誰でも

「金属に触れようとしたら、静電気が発生していやな思いをした」

なんて経験をしたことがあるのではないでしょうか?
特に冬になるとそういったことがしばしばあるみたいです。
実はそれは静電誘導という現象によって起こっています。
では、その静電誘導とは何なんでしょうか?
静電誘導とは、

「帯電していない導体に帯電している物体が近づくと、導体の帯電している物体に近い側に帯電している物体と違う種類の電気が、遠い側に帯電している物体と同じ種類の電気がそれぞれ現われる現象」 です。

ちょっとわかりにくいでしょうか。図で確認しましょう。
まず中身がこうなっている物体があります。これは帯電していない導体です。



これに帯電している物体を近づけます。



すると帯電体(帯電している物体)と違う種類の電気が帯電体に近い側に集まり、逆側に同じ種類の電気が集まります。



これは帯電体と導体の間に静電気力が働くためで、既に学習した「同種の電気は反発し合い、異種の電気は引き合う」という性質が関係しています。
そのため、帯電体を遠ざけると、導体は元に戻ります。



とまあ、こんな感じです。
こういった現象のことを静電誘導というんです。
では、この現象でひとつ実験をしてみましょう。
今回の実験では第二回で使った『はく検電器』が登場します。
覚えてますか〜?
『物体が帯電しているかどうか、プラスとマイナスどちらの電気を帯びているのか』を調べる器具でしたね。
第二回ではこのはく検電器に帯電した物体を近づけることではくが開きました。
今回は

「なぜはくが開くのか?」

「帯電している物体がプラスとマイナスのどちらの電気を帯びているのかはどうやって知るのか?」

ということも説明していきながら実験したいと思います。
今回ははく検電器とエボナイト棒、ガラス棒、毛皮、絹布を用意してください。

 実験6

まずエボナイト棒と毛皮、ガラス棒と絹布をこすり合わせ、それぞれを帯電させます。
このときエボナイト棒はマイナスに帯電しています。
さて、この帯電したエボナイト棒をはく検電器に近づけてみます。
以前と同様にはくが開きます。
これは実は静電誘導が関係しています。
エボナイト棒をはく検電器に近づけることで静電誘導が起こり、 表面にエボナイト棒と違う種類のプラスの電気が、はくには帯電したものと同じ種類のマイナスの電気が集まるのです。
するとこういう状況↓になるわけですから、はくは反発しあって開きます。

<表面に異種の電気、はくに同種の電気が集まってはくが開く>

さて、これでエボナイト棒がちゃんと帯電していることはわかりました。
しかし、困ったことがひとつあります。
実はエボナイト棒がマイナスに帯電している事はわかっているのですが、 もうひとつのガラス棒はプラスとマイナスのどちらに帯電しているのかがわからないのです。
そこで以下の手順で実験を続行します。
まずははくをマイナスに帯電させているはく検電器に手を触れます。
するとはくを開かせていたマイナスの電気は手を通って逃げます。


<はくの電気は手を通って逃げ、表面の電気はエボナイト棒に引かれて残る>

その後はくから電気が移動したので、はくは閉じます。


<はくが閉じる>

そしてエボナイト棒を遠ざけるとはくの表面のプラスの電気がはくに移動します。
これで準備完了です。


<現在のはく検電器の様子>

さあ、このはく検電器にさっき絹布でこすって帯電させたガラス棒を近づけてみると、どうなるでしょうか。


<プラスに帯電したはく検電器にガラス棒を近づける>

すると、はくがさらに開いていくのがわかるはずです。
つまり、はく検電器の表面に残っていたプラスの電気が近づけたガラス棒と反発してはくに移動したということです。


<プラスの電気がはくに逃げていって、はくがさらに開く>

さらにこのとき、マイナスの電気もガラス棒に引かれるので、はくがもっとプラスになってもっと開きます。
よってガラス棒はプラスに帯電していた、ということがわかります。
ついでなので、ガラス棒ではなくプラスに帯電したエボナイト棒を近づけたらどうなるのか、やってみたいと思います。


<現在のはく検電器はこうなっている>

さっきの状態です。
ここで今度はエボナイト棒を近づけてみましょう。
するとはくが今度は完全に閉じます。
はくにあったプラスの電気はエボナイト棒のマイナスの電気に引かれて移動した、ということになります。


<プラスの電気が表面に集まってはくが閉じる>

しかし、はくはその後少し開きます。
これはなぜでしょう?
実はエボナイト棒のマイナスの電気を近づけたおかげでプラスの電気が表面に集まり、 はくがマイナスに帯電していくのでまたしてもはくが開くのです。


<プラスの電気は表面に集まり、マイナスの電気がはくにのこるので再びはくが開く>

さて、いろいろごちゃごちゃとしていてわかりにくいのでここでまとめておきましょう。

・帯電していないはく検電器に帯電している物体を近づけるとはくが開く。
・近づける物体とはく検電器が同じ種類の電気を帯びているとき、はくはさらに開く。
・近づける物体とはく検電器がちがう種類の電気を帯びているとき、はくは一度閉じてからまた開く。

長い実験でしたが、これで大体わかってもらえたと思います。
今回の実験は『実験編』『実験6 はく検電器と静電気2』にも載せられているので、あとで参照してみてください。
次にこれに似ている現象も紹介しておきましょう。
静電誘導は導体と帯電体との間に起こる現象でした。
今度は不導体と帯電体の間に起こる現象です。
ではまた簡単な実験をしてみましょう。
用意するものはアクリル定規と紙です。
紙は二枚用意して、その内の一枚は細かくちぎって机の上に置いておいてください。

 実験7

まずちぎっていない方の紙とアクリル定規をこすり合わせます。
今まで何度も出てきたのでもうわかると思いますが、アクリル定規は帯電します。
さて、ここで問題です。
このアクリル定規を紙片に近づけたら、紙片はどうなるでしょうか。

@アクリル定規にくっつく
Aアクリル定規から遠ざかる
B動かない
C爆発する
Dモンスターが現れる
Eバナナはおやつに含まれない

・・ではやってみましょう。


<アクリル定規を紙片に近づけると・・>               <こうなる!>

答えは・・@です!
さて、ここで『はじめに〜静電気とは?』でやってみた実験1を思い出した人もいるのではないでしょうか。
確かに二つの実験は似ていますが、ひとつだけ違うことがあります。
なんだかわかりますか?
そうです。実験1では、アクリル定規を近づけたのは紙片ではなくアルミホイルを細かくちぎったものでしたね。
ではなぜあの時アルミホイルがアクリル定規に引き寄せられたのでしょう?
あの時はわからなかった理由が今ではわかると思います。
そう、静電誘導!
アルミホイルがアクリル定規に引き寄せられたのは、アクリル定規を近づけることでアルミホイルに静電誘導が起こったためですね。


<静電誘導が起こる>

それでは今回の場合はどうでしょう?
やはり今回もアクリル定規を近づけることで紙片に静電誘導が起こったのでしょうか?
しかし、これは何かおかしいと思いませんか?
まず紙片は導体ではありません。
つまりこのとき起こった現象は帯電体と導体との間に起こる静電誘導ではありません。
静電誘導で電気が移動できるのは導体が電気を流すためであり、不導体に帯電体を近づけても電気が移動できないからです。
しかし今回の実験では不導体の物体である紙片に帯電したアクリル定規を近づけてみると、紙片がアクリル定規に引き寄せられました。
このような現象が起こるのはなぜなのでしょうか。
実は不導体であっても帯電体を近づけると物体の中の電気の位置がほんの少しだけずれるんです。
これは"分極"と呼ばれる現象です。
これによって帯電体を近づけた不導体の中では、
帯電体に近い側に帯電体と同じ種類の電気が、遠い側に同じ種類の電気がそれぞれ生じて紙片は帯電体に引き寄せられたというわけです。
この現象は"誘電分極"と呼ばれています。
また、誘電分極によって不導体の表面に現われた電荷を分極電荷といいます。


<誘電分極>

ここで注意しておきたいのは誘電分極と静電誘導は違う現象であるということです。
静電誘導は導体による現象で、誘電分極は不導体による現象です。
混同して覚えない様に注意して下さい。 (ちなみに実験2の水流も導体です)

この実験も一応『実験編』『実験7 不導体にはたらく静電気力』に紹介されています。
では要約です。

<POINT>
 静電誘導・・・導体に帯電体が近づくと、導体の帯電体に近い側に帯電体と
           異種の電気が、遠い側に帯電体と同種の電気がそれぞれ現われる現象

 誘電分極・・・不導体に帯電体が近づくと、不導体の帯電体に近い側に帯電体と異種の電
           気が、遠い側に帯電体と同種の電気がそれぞれ現われる現象

さて、次回は第六回ですね。
今回、金属に触れようとするときなどに静電誘導が起こっていると言いました。
第六回ではその詳しい説明にいきたいと思います。

第四回      学習編      第六回