錬 金 術 と は  第一講


1−3 化学と錬金術
 まず結論から言うと、化学が「この世の現象が全て化学物質の化学的作用によるものだ。」とするのに対し、錬金術は「有機無機を問わず全て生物的な活動に近い。」としている。

 学校でも習うだろうが、現在の化学では「全ての物質は元素からできており、その元素は陽子・中性子・電子の組み合わせで成り立っている。」という理論が主流、というか根源となっている。この理論は「物質を極限まで分割すると,最終的にはさまざまな形質・性質の粒子になる。」というフランスの化学者ボイルが十七世紀前半に提唱した理論が基礎とっており、以後幾人もの反錬金術的な科学者達が研究を重ね、二十世紀にデンマークの化学者ボーアが最終的に証明した。
 この理論の陽子や中性子の概念は錬金術における物質の原一性と非常に似通った理論であると同時に、元素の存在は錬金術を否定するという奇妙な理論となってしまった。
 錬金術衰退の原因となった理論はもう一つある。直接的に錬金術理論とはあまり関係が無いが、フロギストン説である。これは十七世紀にドイツの科学者ベッヒャーが提唱し、十八世紀にドイツの医者シュタールが証明しようとした理論であり、最終的にはフランスの科学者ラボアジェによって証明された。これは「『燃焼』という過程において、物質を燃やす燃素(フロギストン)という物質が介在する。」という説である。この説によると、燃えやすい物質ほど燃素をより多く含み、燃素を消費することで物質は燃焼する、となっている。
 しかし、この理論もまたラボアジェにより否定された。ラボアジェは質量保存の法則の証明過程で、物質の燃焼前と後の質量を比べ、燃焼後の方が質量が大きいことを発見した。このことにより、燃焼では「何かが消失する」のではなく「何かが結合する」という事が証明され、フロギストン説は否定された。
 よって、物質の変成にはその物質以外の物が関わっている事も間接的に証明されたため、錬金術の原一性理論も否定されてしまった。

 錬金術師達は三原質・四元素論の否定を跳ね除けることが出来ず、その後徐々に衰退して行き現代に至るのだが、錬金術師側の化学への見解もここで紹介しておく。化学者達が錬金術を否定しようとしたのに対し、錬金術師たちはあくまでも化学と錬金術を別物であるとして区別をしようとしていた。
 ヘルメス哲学者のペルヌティは「化学は自然が作り上げた物質を破壊するものであり、ヘルメス的化学(=錬金術)は自然を完成させるための術である。」と自身の論文中で語っている。また、別の錬金術師の言ったことを要約すると「化学とは物質の外見上の性質のみ特化した学問であり、複数の物質を化合・分解するのみであり、概念的に最初に用いた物質以上の組み合わせは無い。しかし錬金術は物質の在り様を変質させるだけなので、あらゆる物質からあらゆる物質を得る事が出来る。」と、なる。

 現代の化学と錬金術とは完全に別物でありながら、化学的作用によるものか、それとも霊的な作用によるものかの違いだけで、非常に近い部分も存在するのだと分かるだろう。

 次は現代における錬金術について考察する。

<前ページ  トップへ  次ページ>