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  • 世界の水問題を可視化する(3)

    GISを用いた各国の考察を見てみましょう。
    項目をクリックすると考察が出てきます。
    サイドメニューから指定した国の考察に飛ぶこともできます。

    考察をするための必要なデータが揃っている9カ国を選びました。

  • アメリカ

    一人当たりの再生可能な水資源量が多いも関わらず、水ストレスが生じている国としてアメリカ合衆国を挙げました。

  • メキシコ

    一人当たりの再生可能な水資源量が偏在し、安全な飲料水を利用していない人の割合も高い国としてメキシコを挙げました。

  • ブラジル

    豊富な水資源を活かして農業大国となり、経済を支えている国としてブラジルを挙げました。

  • シンガポール

    降水量は多いも関わらず、一人当たりの再生可能な水資源量は非常に少なく、隣国から水を買っている国としてシンガポールを挙げました。

  • インド

    水資源は豊富にあるものの、人間の活動によって使うことのできる水資源が減り、水問題が生じている国としてインドを挙げました。

  • サウジアラビア

    一人当たりの再生可能な水資源量は少ないものの、経済力を活かして水不足をおぎなう国としてサウジアラビアを挙げました。

  • フランス

    農業が発達しており、食物自給率が高い国にも関わらず、バーチャルウォーターの輸入量が多い国としてフランスを挙げました。

  • イタリア

    バーチャルウォーターの輸入国としてイタリアを挙げました。

  • コンゴ共和国

    一人当たりの再生可能な水資源量が多いにもかかわらず、安全な飲料水を得ることができない人の割合が高い国としてコンゴ共和国を挙げました。

  • アメリカ

    局地的な水不足に悩むアメリカ合衆国

    地図1

    地図2

    地図3

    アメリカの気候

    アメリカの気候は、国土の中央付近にあたる西経100度付近を境として、東側と西側とで大きく異なります。東側は年間降水量が500mmを超えますが、西側は年降水量が500mmに満たない乾燥地帯となっています。
    例えば、東海岸に位置し、温暖湿潤気候に属している都市、ニューヨークは年間降水量が1145.4mm(*1)と、雨が多く降りますが、西部に位置し、砂漠気候に属している都市、ネヴァダ州のウィネマッカの年間降水量は212.1mm(*1)と、ほとんど雨が降りません。

    気象庁HP(*1)より作成

    アメリカの1人当たりの再生可能な水資源の総量は、国全体で見ると9538㎥/年・人(*2)で水資源は豊富にあり、水ストレス(用語辞典)の値も低くなっています。(地図1)

    では、アメリカ全土において水をめぐる問題は発生していないのでしょうか?

    下の地図は地域別に水ストレスを表した地図です。この地図を見ると、アメリカの西側で深刻な水ストレスが生じていることがわかります。
    黄色い地域と、より深刻な水ストレスが生じている赤い地域との境目はおおよそ西経100度であり、年間降水量が500mmのラインとほぼ一致しています。

    WRI(World Resources Institute)「AQUEDUCT GLOBAL MAPS 2.1」1950~2010年のデータ より引用

    アメリカのかんがい農業

    年間降水量が500mm以下であるアメリカの西側の乾燥地帯では、放牧やかんがい農業による小麦やトウモロコシの栽培が盛んです。
    降水だけでは農業のための水が足りないため、センターピボット方式でのスプリンクラーを用いた大規模なかんがいが行われています。
    センターピボットとは、円の中心から伸びる散水パイプを時計の針のように回転させて散水を行う方法です。

    散水のための水は、主に地下水が使われているため、アメリカの取水量は4856億㎥/年(*3)と、インドに次いで世界第2位となっています。(地図2)
    最近では地下水のくみ上げが過剰であることによって、総面積450,000㎢と世界最大級の地下水層であるオガララ帯水層の地下水位の低下が問題になっています。
    センターピボット方式のかんがい農業は、少ない人手で大規模農業が可能で効率的であるというメリットがありますが、必要以上に多くの水を地下から取水してしまうというデメリットもあるのです。

    写真提供:帝国書院

    アメリカのバーチャルウォーター貿易

    アメリカの食肉輸入額は843万ドル/年(*4)と、日本に次いで世界2位である一方で、食肉輸出額も1757万ドル/年(*4)と多く、穀物自給率が100%を超えるなど、多くの農畜産物を輸出しています。
    そのため、バーチャルウォーターの輸出の矢印が顕著です。

    バーチャルウォーター貿易とバーチャルウォーター輸入量
    「National Water Footprint Accounts 2011」1996~2005年のデータ より引用

    以上のように、アメリカは国全体で見ると水資源が豊富であり水ストレスも低いですが、地域別にみると西部では深刻な水資源の減少が起きており、農作物などによるバーチャルウォーターの輸出量が多い国なのです。

    *1:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *2: FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *3: FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2017年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *4: ITC(International Trade Centre)2017年のデータ
    参考文献
    『日本は世界一の「水資源・水技術」大国』著/柴田明夫 講談社 2011年発行

    メキシコ

    偏在する水資源

    メキシコの気候

    メキシコは、北部と南部で降水量に大きな差がある点が特徴です。メキシコの平均年間降水量は758mm(*1)ですが、メキシコ北西部のバハカリフォルニア半島の都市、シウダーコンスティチュシオンでは、降水量が最も多い月でも100mmに達しません。
    一方、東南部に位置するメキシコシティでは、最も多い月で250mm以上にもなります。
    つまり、メキシコの水資源は東南部に偏在しているのです。しかし、人口や産業は水資源の少ない北部に集中しています。
    そのため、日本水フォーラムによると、東南部の1人あたり水資源量は13,556㎥/人・年であるのに対して、北部は1,897㎥/人・年しかありません。

    気象庁HP(*1)より作成

    メキシコの水問題

    水の衛生

    メキシコでは安全な飲料水を飲めない人の割合が57%(*2)と、人口の半数以上にも上っています。(地図3)
    その原因としてインフラの未整備や水道管の老朽化が挙げられます。日本水フォーラムによると、総人口約1億人のうち11%が上水道を利用できず、22%が下水処理を利用できていません。
    また、水道管の老朽化も進んでおり、もろくなった水道管は地盤沈下や地震などの被害を受けると水を供給することが出来なくなってしまうのです。
    安全な水を供給することができないために、病気も流行っています。

    地下水の過剰なくみ上げ

    メキシコには653の帯水層がありますが、2015年12月時点では105の帯水層がくみ上げ過ぎだとされています(*3)。使用されている水のうち38.9%は地下水ですが、そのうちの55.2%はくみ上げ過ぎの帯水層から採取されています(*3)。
    特にメキシコの首都、メキシコシティ付近の帯水層からは多くの水が取水され、地盤沈下の被害も出ています。
    また、メキシコは世界で最も多くのかんがい設備を持つ国の1つであり、「CONAGUA(メキシコの国家水委員会)」によると、1年に供給される水資源量789億㎥のうち77%に当たる612億㎥は農業・牧畜用に使用されています。

    以上のように、メキシコは北部と南東部とで1人当たりの水資源量が大きく異なっており、インフラの未整備や老朽化によって安全な飲料水を利用していない人の割合が50%以上にものぼっているのです。

    *1:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *2: WHO(世界保健機関)2015年のデータ 2018年11月8日閲覧
    *3: メキシコの水に関する統計 国家水委員会 2017年 2018年11月8日閲覧
    参考文献
    BuzzFeed News 2018年11月8日閲覧

    地図1

    ブラジル

    降水量は多くても…?

    ブラジルの気候

    ブラジルは熱帯雨林気候に属しており,世界の森林面積の12%(*3)はブラジルが占めています。
    地図1からもわかるように一人当たりの再生可能な水資源量も他の国に比べて何倍も多く、年間降水量も約1,800㎜(*1)と世界平均の814㎜(*1)の2倍以上もあります。
    下の雨温図からもわかるように、サンパウロは年間降水量が1,619mmであり、特に12月から3月にかけて降水量が多くなっています。また、熱帯雨林が多いマナウスでは年間降水量が2,324mmと、サンパウロに比べて降水量がより多く、月平均気温も高いことからブラジルの降水量が多いことがわかります。

    気象庁HP(*2)より作成

    しかし熱帯雨林は破壊されつつあります。ブラジルの熱帯雨林は2010年から2015年までに0.2%(*3)減少しました。このように聞くと意外と少ないと思う人もいるかもしれません。
    しかし、右の図からわかるように、減少面積では世界で1番大きく、減少は現在でも続いています。これは農地や牧場を新たに切り開くために大規模な伐採が行われるためです。

    FRA(世界森林評価)2015年のデータ(*3)より作成

    ブラジルの農業

    ブラジルは牛の飼育頭数が世界1位(*1)、牛肉の生産量が世界2位(*4)、そして牛肉の輸出量が世界1位(*4)です。

    食肉の中でも、その生産過程で多くの水を必要とするのが牛肉です。牛肉は豚肉の約3.5倍、鶏肉の約4.5倍の水を必要とします。
    また、コーヒー豆(*4)やトウモロコシ(*4)、大豆の輸出量も世界1位(*1)と、農業生産物の輸出が多い国です。 そのため、ブラジルにおけるバーチャルウォーターの輸出量は多くなっています。

    豊富な水資源がブラジルの農業や経済を支えているということがわかります。

    *1:FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *2:気象庁HP 世界の天候 2018年11月12日閲覧
    *3:FRA(世界森林資源評価)2015年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *4:FAO(国連食糧農業機関)2013年のデータ 2018年11月12日閲覧

    FAO(国連食糧農業機関)のデータ(*1,4)より作成

    地図1

    地図2

    地図3

    シンガポール

    お金で水を買う!!

    シンガポールの気候

    シンガポールはマレー半島南東に位置する島国で、面積は東京23区と同じくらいの、とても小さな国です。熱帯気候に属しており下の図のように一年を通して高温多湿な気候であるため、世界の年平均降水量814mm(*2)に比べ、シンガポールの年平均降水量は2,497mm(*2)と雨が多く降ります。
    このことから一見シンガポールは水が豊かな国のように見えます。しかし実際には1人あたりの再生可能な水資源量は107㎥/年・人(*3)と、水が不足している地域なのです。

    気象庁HP(*1)より作成

    なぜシンガポールは降水量が多いのにもかかわらず1人あたりの再生可能な水資源量は少ないのでしょうか?

    その理由として水の保存能力が低いということが挙げられます。シンガポールはもともと国土が狭く、最も標高の高い高地でも163mしかない平坦な地形であるため、水が保存されにくくなっています。
    さらに国民総所得(GNI)が5,1880ドル/人(*4)と経済力が高く、都市国家であるため、アスファルトやコンクリートによる道路も整備されていることも保水能力が低い原因の一つと言えます。

    水源として使用できる大きな河川もないため、雨が多く降っても使用できる水の量は少ない一方で、人口密度が7,794人/㎢(*5)と世界有数の人口密度が高く、水資源量に対して水の需要が多いので、一人あたりの再生可能な水資源量は少ないのです。

    それではどのようにして国内で不足する分の水を、補っているのでしょうか?

    シンガポールの輸入水

    シンガポールは世界有数の高い経済力を用いて、隣国マレーシアから水を輸入して水資源を確保しています。
     シンガポールは1962年に協定を締結して以降マレーシア・ジョホール州から一日当たり最大で2億5,000万ガロン(約11億リットル)(*6)の原水を購入することができることになりました。
    これはシンガポールが1日に必要とする水の約58%(*6)に相当します。現在マレーシアから輸入される水の量は、総供給量の25%(*6)を占めています。

    しかしこの二か国間の協定は2061年までの有効期間が設けられています。またこれまでにも価格などに関して水をめぐる二か国間の対立が何度か起こっていることから、できるだけ安定的に水資源を自国で確保することは、シンガポールにとって解決すべき課題となっています。

    シンガポールのバーチャルウォーター

    シンガポールは、国土が狭いため、農地が極めて小さく、農業が盛んではありません。下の表から日本と比べても国民総所得(GNI)に対する農林水産業額の割合も低いことがわかります。
    そのため、食料供給の大半は周辺国等からの輸入に依存しています。人口が少ないので、食料輸入量も少なくて済むため、国全体のバーチャルウォーター輸入量は高くありませんが、人口に対するバーチャルウォーター輸入量は多いと推測されます。

    各機関が公表したデータ(*4,5,8,9)より作成

    シンガポールのように、利用できる水資源が限られていても、経済力でそれを補うことも可能だということです。

    しかし、水資源の他国への依存は、依存できなくなったときなどの緊急時に水不足に陥るという課題があります。
    そのため現在、シンガポールでは新たな水源確保に向けた主に3つの取組みが始まっています。

    シンガポールの3つの取り組み

    貯水池

    平坦な土地であるシンガポールでは河川や運河、排水路を通じて雨水を集めて国内に17か所設けられている貯水池に貯められます。現在、集水地域は国土面積の3分の2(*6)に相当し、シンガポールの水の総供給量の約10%(*6)を占めています。

    下水再生水「NEWater」

    シンガポールでは下水を高度処理して再利用する計画が進められ、2003年2月から原水として実用化されています。
    「NEWater」と名付けられたこの水は、下水処理場で通常の処理が終了した水に、更に3段階の浄化処理を施し、飲用可能な水準まで高度処理し、再利用する水の事です。
    1998年から研究が開始され、2002年にはニューウォーターがシンガポール及びWHO(世界保健機関)の飲料水水質基準を満たしていることが発表され、現在国内で5か所のニューウォーター工場が稼働し、総供給量の約40%(*6)を供給しています。

    海水淡水化

    海水淡水化プラントで3段階の水処理により海水を真水に変え、供給しています。2005年9月、シンガポールで初めて海水淡水化プラントが、操業を開始しました。
    現在、シンガポールの水の総供給量の25%(*6)を占め、2060年までに総供給量の30%(*6)を占めると見込まれています。

    *1:気象庁「世界の天候」 2018年11月12日 閲覧
    *2:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2014年のデータ
    *3:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2018年のデータ
    *4:帝国書院「統計資料 世界編」 2016年のデータ
    *5:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2015年のデータ
    *6:PUB(Public Utilities Board)「Water Supply」 2018年10月29日 閲覧
    *7:帝国書院「統計資料 世界編」 2011年のデータ
    *8:国際連合(UN)2016年のデータ
    *9:国際連合(UN)の公表データをもとに農林水産省が算出

    インド

    水はあっても使えない!

    インドの気候

    インドは南アジアに位置し世界第7位の広い国土を持っています。熱帯雨林気候に属している東部にある都市、コルカタでは年間降水量が1,841㎜(*1)と、雨が多く降るのに対して、砂漠気候やステップ気候に属している北西部にある都市、ビカネルでは年間降水量が310㎜(*1)と、ほとんど雨が降りません。
    このようにインドの気候は都市によって大きく異なります。また1年に乾季、暑季、雨季という3つの季節があり、季節によっても気候が大きく異なりますが、国全体の年平均降水量は768(*2)㎥で、一人あたりの再生可能な水資源量は1,458㎥/人・年(*3)で水資源が豊富な日本の一人あたりの再生可能な水資源量3,397㎡/人・年(*3)と比べてもそこまで低くないといえます。

    気象庁HP(*1)より作成

    ではインドでは水をめぐる問題は起こっていないのでしょうか?

    インドのかんがい農業

    地図1を見ると安全な水を利用できていない人が多いことがわかります。これはアメリカの西部同様、かんがい農業による地下水の過剰なくみ上げが原因だと考えられます。
    インドの国土の約45%(*4)はかんがい農業に使われています。 年間を通して降水量が少ないインド北西部では、雨水だけでは農業ができないためかんがい農業を盛んに行われています。地中深くまで掘られた2,300万の井戸が24時間体制で稼働しており、帯水層から水をくみ上げています。

    地図2を見るとインドの地下水の取水量はとても多いことが分かります。インドでは雨水によって補給される水の量よりはるかに多い量の水をくみ出しているため、地下水の水位が年々低下しています。
    インド科学環境センターによると、国内の主要21都市が2020年までに地下水枯渇の事態に直面すると予想されています。

    また、インドでは、安全な水を利用できていない人の割合が51%(*4)にのぼるほど、深刻な水汚染が問題となっています。
    下水道普及率が15%(*5)と衛生施設は農村部を中心に普及が遅れているため、下水のわずか20%(*6)しか排水前に処理されず、河川や湖沼をひどく汚染してしまっています。
    さらに農薬による水汚染も深刻な問題で、2003年にはインド科学環境センターによってインド全域で製造販売されている炭酸飲料に、高濃度の農薬残留物が含まれている証拠が示されました。

    インド科学環境センターによると、このような不十分な水供給や汚染水が原因となって、平均で住民20万人が毎年命を落としています。インドの総人口の4分の3が汚染水の影響を受け、国内の疾病のうち2割の起因になっています。

    インドの水紛争

    インドは1795年にガンジス川が下流国バングラデシュに流れ込む手前に、ファラッカ堰(せき)を建設しました。乾季にはこの堰を閉じてインド国内向けに大量に取水するため、同様に水を必要とするバングラデシュには十分な水が供給されません。
    一方、雨季になると堰(せき)が開けられて洪水が流下し、低平なバングラデシュは氾濫浸水します。国力が勝るインドが上流国であるため、下流国バングラデシュは不都合な状況を余儀なくされています。

    そのため1975年以降、この2カ国間はガンジス川の水利権をめぐって争ってきました。水利権の分配について両国間で協定が結ばれたのは1975年、77~84年だけであり、協定のない現在、バングラデシュはインドの一方的な取水によって大きな損害を受けていると抗議しています。

    加盟国相互の紛争を平和的に調整するという国際連合の目的や下流国に水利権を認める国際法に訴えて問題を解決しようとするバングラデシュの方針に対して、インドは、ファラッカ堰(せき)問題は2カ国の問題であるから、あくまで2カ国の交渉で解決するべきであるとの立場を取っており、この争いは未だ解決していません。

    インドのように水資源は不足していなくても衛生環境や人間の活動によって利用可能な水が不足する国も存在します。

    *1:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *2: 総務省「世界の統計2018」
    *3:FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ
    *4: FAO(国連食糧農業機関)2013年のデータ
    *5:WHO(世界保健機関)2015年のデータ
    *6:『水の世界地図 第2版』著/Maggie Black・Junnet King 翻訳/沖大幹・沖明 丸善株式会社 2010年発行
    参考文献
    ・『水の世界地図 第2版』著/Maggie Black・Junnet King 翻訳/沖大幹・沖明 丸善株式会社 2010年発行
    ・『ウォーター・ビジネス』著/モード・バロウ 作品社 2008年発行

    サウジアラビア

    原油が命!

    サウジアラビアの気候

    サウジアラビアは北部にネフド砂漠、南部にルブアルハリ砂漠があり、国土のほとんどは乾燥帯の砂漠気候に属しています。 そのため、地図3が示すように水ストレスが1243%(*1)と高く、1人当たりの再生可能な水資源量も76.09㎥(*2)と圧倒的に微量です。

    気象庁HP(*3)より作成

    サウジアラビアの農業

    サウジアラビアは地下水をくみ上げることで水資源を確保しており、ナツメヤシの生産が盛んです。かつては小麦の生産が盛んで、1980年代には自給を達成することができましたが、地下水の枯渇という問題が浮上し、2016年までに地下水を使った小麦の生産を中止しました。
    砂漠が多いサウジアラビアは食料需要の80%(*4)を輸入に頼っているため、それに伴いバーチャルウォーターの輸入量も多くなっています。 これだけの食料を輸入できるのは、サウジアラビアの経済が豊かであるからです。
    その経済を支えているのは原油にあります。

    しかし、原油の可採埋蔵量は423.9億klと圧倒的に多いのに対し、可採年数は71.9年とイラクやカナダよりも短いことが上の図からわかります。 このような状況を懸念して「脱石油依存」という言葉も唱えられるようになりましたが、未だに抜け出すことはできていません。
    近年では豊かな経済力を活用して海水を淡水化する技術を使った水の確保も行われています。

    サウジアラビアは原油の輸出によって経済を豊かにし、食料や水資源を補っています。

    *1:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2018年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *2:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *3:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *4:農林水産省「サウジアラビアの農業水産業概況」のデータ 2018年11月12日閲覧
    *5:『世界国勢図会2016/2017年版』のデータ

    『世界国勢図会2016/2017年版』のデータ(*5)より作成

    『世界国勢図会2016/2017年版』のデータ(*5)より作成

    地図1

    地図2

    地図3

    フランス

    農業大国でも輸入!

    フランスの気候

    フランスは、偏西風と暖流の影響で夏は比較的涼しく、冬は暖かい西岸海洋性気候です。最高気温が30℃を超える日は滅多にありません。
    年間を通して降水量に大きな変化はなく、年間降水量も867㎜(*1)と極めて平均的で、地図1が示すように1人当たりの再生可能な水資源量も3,277㎥(*2)と特別多いわけではありません。

    この涼しく過ごしやすい気候がフランスの農業に大きく関係しています。

    気象庁HP(*3)より作成

    フランスの農業

    フランスは西ヨーロッパの中でも農業がとても盛んです。

    混合農業とは?

    フランスでは混合農業が盛んに行われています。混合農業は主にヨーロッパの内陸部でみられます。
    夏は大麦やえん麦を、冬は小麦やライ麦を生産し、同時にトウモロコシや牧草などの飼料作物を生産して、それを牛に与えて育てるという農法で、家畜の糞を肥料として使用できるという利点もあります。
    さらに混合農業から、小麦を専門とする農家に発展するという事例も多くみられます。実際、小麦の生産量は世界5位(*4)、そして1ha当たりの収穫量では世界2位(*2)を誇っています。

    FAO(国連食糧農業機関)2013年のデータ(*4)より作成

    また、フランスはワインの生産量が世界1位(*4)です。その大きな理由とされているのが、
    「フランスの年平均温度がブドウの生産に適した温度(10℃~20℃)」であることです。
    フランスの穀物自給率は176%(*5)と高く、さらに混合農業が整っているため、自国の食料を容易にまかなうことができているように思いますが、同時にオレンジ類の輸入は世界3位(*4)、そしてカカオ豆の輸入が世界5位(*4)など輸入面においても目立つ品目が存在します。

    自国内で生産していない食料は輸入に頼るしかないため、バーチャルウォーターの輸入量は輸出分の総量を超えてしまいます。

    フランスのように、農業が盛んであってもバーチャルウォーターの輸入量が大きい国も存在します。

    *1:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *2:FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *3:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *4:FAO(国連食糧農業機関)2013年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *5:帝国書院編集部(2017)『新詳高等地図』帝国書院 2014年のデータ

    イタリア

    気候をどう生かす?

    イタリアの気候

    イタリアは地中海性気候で、夏は気温が高く乾燥し、冬は偏西風や温帯低気圧の影響を受けるため降水量が多くなります。年間降水量は832㎜(*1)で、1人当たりの再生可能な水資源量は3,199㎥(*2)と、わずかな差ですが同じヨーロッパにあるフランスよりも水資源が少ないことがわかります。
    しかし、イタリアは地図2が示すようにヨーロッパの中でも総水使用量(生活・農業・工業)(㎥/人・年)も多く、水ストレスも45%(*4)となっています。

    気象庁HP(*3)より作成

    イタリアの農業

    イタリアでは地中海式農業が行われています。地中海式農業とは平地では小麦を育て、高地ではブドウやオレンジ、そしてオリーブなどを育てる農法です。
    これらは乾燥に強い作物で、乾燥が激しい夏でも生産できることから発達しました。ワインの生産は世界2位(*5)、オリーブの生産量は世界3位(*2)です。
    農用地の割合は国土の45%(*6)にものぼります。これは山の斜面などの平地以外の土地も活用しているためです。
    しかし、穀物自給率は76%(*7)と低いのが現状です。

    農林水産省「イタリアの農林水産概況」のデータ(*5)より作成

    また右の図からわかるように、食肉の生産量、特に豚肉と牛肉が近年減少しています。 牛肉の生産量が減少しているのに対して、牛肉の輸入量は世界5位(*5)という位置に立っています。
    肉類はバーチャルウォーター量が多いため、食肉を輸入で補おうとすればするほど同時にバーチャルウォーターの輸入量も増えていきます。
    また、イタリアは茶の輸入が世界2位(*5)、コーヒー豆の輸入量が世界3位(*5)でもあります。

    イタリアは恵まれた気候をどのように生かして穀物自給率を上げるのかが課題となっています。

    *1:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *2:FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *3:気象庁HP 世界の天候2018年11月12日閲覧
    *4:FAO(国連食糧農業機関)「AQUASTAT」 2018年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *5:FAO(国連食糧農業機関)2013年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *6:農林水産省「イタリアの農林水産概況」のデータ 2018年11月12日閲覧
    *7:帝国書院編集部(2017)『新詳高等地図』帝国書院 2014年のデータ

    地図1

    地図2

    コンゴ共和国

    水資源は豊富なのに…

    コンゴ共和国の気候

    コンゴ共和国はアフリカ大陸中部に位置する国です。国土の大部分がサバナ気候で、雨季と乾季がはっきりとわかれています。
    コンゴ共和国の 1人あたり再生可能な水資源の総量は180,087㎥/年・人(*1)と豊富にあります。(地図1)これは雨季に雨が多く降ることや、コンゴ共和国とコンゴ民主共和国との国境には、流域面積3,700,000㎢(*2)、長さ4,667m(*2)のコンゴ川が流れていることが要因です。
    また、人口密度が14人/㎢(*3)と低いため、水資源量に対して需要が少ないことも1人当たり水資源量が多い理由の1つです。

    気象庁HP(*4)より作成

    一方で、安全な飲料水を利用していない人の割合は国全体で32%であり、地域別で見ると都市部では15%、地方では63%(*5)です。
    また、非識字率男女計は20.7%と、人口の5人に1人が文字の読み書きができません。男女別にみると男子が13.6%、女子が27.1%(*6)と、男子に比べて女子の非識字率が高くなっています。
    発展途上国の多くの国では、水くみは女性や子どもたちが担っています。そのため学校に行ったり、働いたりすることが出来ず、非識字率も高くなってしまうのです。(地図2)

    インフラが整っていなければ、どんなに水資源に恵まれていても安全な水を得ることはできません。
    水不足には、降水量などの自然条件だけでなく、インフラの整備も関係しているのです。

    *1:FAO(国連食糧農業機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *2:『理科年表』平成28年
    *3:UN(国際連合)「Demographic Yearbook 2017」2017年のデータ 2019年1月8日閲覧
    *4:気象庁HP 世界の天候 2018年11月12日閲覧
    *5:WHO(世界保健機関)2015年のデータ 2018年11月12日閲覧
    *6:UNESCO(国連教育科学文化機関)2014年のデータ 2018年11月12日閲覧