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コスモス南総

千葉県市原市内で地域住民が主体となって運営されている、地域住民主導型コミュニティバス「コスモス南総」の実地調査を行いました。
「コスモス南総」は、市原市内の交通空白地域解消を目的として、地域の交通事情に精通した地元住民が主体となった運営協議会を、市原市が財政的な面から支援しています。小湊鐵道などの既存の交通機関を有効活用し、地域の特性を考慮した運行形態を構築しています。
また、市からの補助金は運行経費の2分の1までとして不足分は地域側が負担することや、行政職員・交通事業者などはあくまでアドバイザーにとどまるとして、あくまで地域住民主体型の運営であることを明確化しています。さらに、住民の当事者意識の育成を目的として、1世帯あたりの負担金や登録料の徴収・寄付などの獲得を行っています。

乗車レポート

バス自体はそれほど大きくない小型バスで定員は約36名、ノンステップ仕様ではありませんでした。車体の背部には、このコミュニティバスの出資者と思われる商店や会社の名前がありました。

バスの外観 バスの外観
車いす対応のツーステップバスです。

バスの車内(後方)
バスの車内(前方)

バスの後部
出資者の商店や会社の名前があります。

小湊鉄道光風台駅
今回は、小湊鐵道「光風台駅」前から出発する始発便(6:40発)に乗車しましたが、少し前に到着した路線バスは7~8割程度の乗車率だったのに対し、早朝であることもあってかコスモス南総の乗客は私のみでした。そのため、普段の運行事情について運転手の方にお話を伺いました。

まず、普段の客層については、運行ルートの終着点が病院だったので高齢者が大半なのではないかという予想に反し、運行経路の途中にあるスーパーマーケットに向かう買い物客が多いという回答が得られました。確かに、車内には途中にあるスーパーマーケットのチラシが貼られていました。

また、今回私が乗車した便は本来の終着点である「循環器病センター」ではなく、一つ前のバス停である「南総中学校」に変更されていました。その理由として、上述したように利用客は買い物客が中心であり必ずしも高齢者ばかりではないため、日によっては終着点まで行かずルートを短縮することもあるとおっしゃっていました。

さらに、運賃についてです。このコミュニティバスの運賃は、終着点の「循環器病センター」まで乗車すると280円ですが、それ以外のバス停までの乗車なら210円や170円であり、運賃は一律ではないようです。
また、コスモス南総を含む市原市内で運行されている路線バスやタクシーでは、運転免許証を自主返納した高齢者に対して、運賃が割引になる優待券を発行しているそうです。

運行形態


時刻表の写真

コスモス南総は、光風台駅→循環器病センターの下り便・循環器病センター→光風台駅の上り便共に、1日5便運行されています。また、土日・祝日は運行されていません。

考察

まず、利用者層とその需要への対応についてです。乗車レポートで前述したように、コスモス南総では高齢者のみならず、買い物客が利用者の中心となっています。運行ルート内には主婦層が利用する数カ所のスーパーマーケットが存在しており、出資者となっているそれらのスーパーマーケットのチラシが貼られていました。利用者は目的地のスーパーマーケットのお得な情報を手に入れることができるので、買い物客の利用促進に一役買っているのではないかと思いました。
また、スーパーマーケット側にとっても、安売りの情報などが掲載されたチラシを見た利用者が積極的に買い物に訪れる可能性があり、利用者・利益の増加に繋がるなどのメリットが考えられます。
よって、スーパーマーケットがコミュニティバスに出資しチラシなどを用いた宣伝を行うことは、利用者の大半を占める買い物客の利用促進と、スーパーマーケットの利益増加に繋がる有効的な施策だと考えました。

次に、一律な運賃で運行せず、出発地点からの距離によって運賃が変わるシステムについてです。このバスでは、終着点の「循環器病センター」まで行く場合のみ280円かかり、他のバス停では170円または210円かかります。一般的なコミュニティバスでは、成功例として名高い「ムーバス」にならって100円均一の運賃で運行する場合が多く、170~280円という運賃は他のコミュニティバスよりも高いと言えます。
それにもかかわらず、利用者数が安定しているということは、持病による通院などにより280円に増額される循環器病センターまで乗車する必要があり、かつ自家用車を運転できない高齢者も一定数存在するか、買い物が出来るスーパーマーケットまでは安い運賃で済むため買い物客も敬遠しないなどの背景があるのではないかと予想しました。

そして、日によっては必ずしも終着点までバスを運行せず、途中のバス停までの運行を行うシステムについてです。上記のようにコミュニティバスの中で決して安いと言えない運賃にもかかわらず利益を上げるためには、充分な利用者数を確保することに加え、燃料代などの運行に費やす資金と利用者数の費用対効果が重要なのではないかと考えます。
つまり、需要がないのに長距離運行を行えば行うほど燃料代はかさんでしまうので、利用者数に対してコストパフォーマンスが悪く費用対効果も低くなります。そこで、一定数以上の利用者が見込めない日には短距離運行を実施することで、運行にかかる費用に対して高いコストパフォーマンスを維持していると考えました。

最後に、運転免許証を自主返納した高齢者に運賃割引券を発行しているサービスについてです。このサービスは、自力での自家用車の運転が困難な高齢者は無理に車を運転して事故を引き起こす危険性があるので、高齢者の事故を防止するために導入された「免許証の自主返納」という仕組みを有効活用していると言えます。
なぜなら、高齢者の事故を防ぐだけでなく、免許証を返納したことで交通手段が減ってしまった高齢者の新たな生活の足として活躍しうるのに加え、病院や鉄道の駅など日常的に利用する施設まで行く上に元々高い運賃が安く済むので、地域の安全性向上と高齢者の生活の質を一定以上に保つことに効果的だと考えられるからです。

まとめ

「コスモス南総」では、地域住民主導型のコミュニティバスであるが故に、地域事情に合わせ、かつ利益を確保できるような柔軟な運行が成されていると考えられます。また、高齢者の事故防止など、地域の安全性にも配慮した対策が講じられています。

感想

コミュニティバスにしては高い運賃ながらも、地元住民のニーズや利用者層の内訳をしっかりと考慮することで、高い費用対効果を保ち充分に利益を上げるための様々な施策がなされていることを実感しました。よって、100円均一などの安い運賃で運行しているにもかかわらず利用者数が伸びず経営が苦しい他の地域でも、必ずしも100円均一にこだわらず、人口の多少などの地域事情にも目を向けてその地域に最適な運行形態を構築するなどの工夫をすれば、利用者数が増加し安定した経営が行えるのではないかと思いました。

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