なぜ農薬を使うの? : 今の農薬

今の農薬

ここまで、農薬がどのように進歩したのか歴史をさかのぼって見てきましたが、現在の農薬はどのような状況にあるのでしょうか。

まずは、農薬の必要量の変化を見てみましょう。

農薬必要量

味の素HPより引用

このグラフは面積あたりの十分な効果を得られる農薬の量を年ごとに示しています。 1960年代以降、次第に少ない農薬で効果を得られる傾向にあることが分かります。これは、農薬が強力になったためではなく選択性が高まったためなので、農薬が危険になったわけではありません。選択性とは標的にしたい生物のみに作用させることができるという性質です。

選択性が上がることで、人間や畜産動物など害を受けたくないものには影響を与えず、害虫や病原菌の発生を抑えられるようになりました。 

このように、環境や生態系への影響の正確な判断が難しいなかで、できるだけ安全なものが使えるよう、開発や基準の設定において努力が重ねられています。

元日本農薬学会会長の上路雅子氏は、「誤解していただきたくないのは、少ない量で効くこととは、非常に強力になり危険になったということではなく、人間以外の標的生物のみに選択的に効き、むしろ安全性が向上したということです。」と述べています。

選択性の例

鳥取県 農薬の選択性についてより作成


次に、環境中での農薬の残留期間の変化を見てみましょう。

土壌残留

味の素HPより引用


この表から農薬が分解されるスピードが年単位から日単位まで短くなっていることが分かります。(右の表は75-100%消失、左の表は半減期までの日数なので単純比較はできませんが)
つまり、農薬が環境中で残留しにくいものに変化したということです。

このように現在の農薬の性能は年々向上し、人間にも環境にも、より優しく効果の高いものが生み出されています。

環境や生態系への配慮

今まで、農薬の性能について見てきて、昔と比較すると今の農薬の性能は向上していることが分かりました。
しかし、昔よりはよくなっているとはいえ、農薬を使っていることには変わりがないので、環境や生態系を破壊していないか疑問に思う人もいると思います。そこで、ここでは環境、生態系への影響とそれを最小限にするための取り組みを紹介します。

まずは環境への影響について見ていきます。散布された農薬の多くは大気、水、土壌に拡散します。大気中に拡散した農薬は光によって分解されます。水に拡散するというのは、主に川に流れるということです。この場合も光分解や微生物による分解が行われます。土壌に拡散された農薬は主に土壌微生物に分解されます。

拡散する場所 拡散の仕方
大気光による分解
光による分解、微生物による分解
土壌土壌微生物による分解







このような分解が十分にされることが農薬の使用を許可する際の条件になっています(詳しい農薬の基準については次ページへ)。

そのため、許可された農薬が長期的に環境に残留し影響を与えるということはないと考えていいのではないでしょうか。

実際、「環境庁は農薬の成分を含め、750種類以上の化学物質について環境中での濃度を調査しているが、農薬が検出されるのはごく稀である。」(福田秀夫『農薬に対する誤解と偏見』より引用)と専門家は述べています。

生態系への影響はないのでしょうか。

残念ながら生態系への影響がないということをはっきり示すことはできません。
同時に、生態系への影響が明確にあるといえる証拠を示すことも難しいというのが現状です。なぜならば、すべての生物で検証するのは不可能で、特定の種を室内環境で調査する方法が中心に行われているからです。
このような方法で調査された結果は、実際の自然環境とは異なった状況下の結果であり、生態系全体への影響としてどこまで正確かを判断するのは難しいです。
他にも、実際の畑で調査する方法があります。こちらの方法は、実際の自然環境でできますが、一方で農薬の影響なのかその他の外部要因なのかの判断が難しいことや、全く同じ条件下での実験ができないので比較が難しいという問題点があります。
 そのため、できるだけ正確にリスクを把握するために様々な実験が行われています。

選択性の例

東京農業大学 農薬の環境影響についてより作成

上の表のような様々な動物、環境での実験を通して生態系への影響のリスクを最小限にできるよう、基準を定めています。
このように、環境や生態系への影響の正確な判断が難しいなかで、できるだけ安全なものが使えるよう、開発や基準の設定において努力が重ねられています。

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