私たちの提案

私たちは「法律図鑑」「労働の現状」「未来への変化」「私の働き方」の4つの観点から、労働について模索してきました。 まず、「法律図鑑」では日本で制定されている労働に関する法律の内容をまとめ、各法律の特徴や現状との関連性を探りました。「労働の現状」では、現在の日本に存在する労働関連の問題や制度を取り上げました。

そして、様々な観点から文献調査やインタビュー・アンケートを行った過程で、私たち自身が特に議論したいと考えた日本の労働に関する現状についてディスカッションを行いました。さらに、ディスカッションを行っていない項目についても幾つか考察し、私たちの提言を作成しました。以下に提言をまとめます。

日本の伝統的な雇用形態(終身雇用・年功序列)のもたらす影響について

現在の日本では、終身雇用・年功序列を採用している企業が数多くあります。そこで、終身雇用・年功序列のメリット・デメリットについてディスカッションを行い、日本の労働の現状に及ぼしている影響を考えました。

メリット

使用者(企業)側のメリットとして人事評価が容易であり、また新入社員などを対象とした人材育成が行いやすいことが挙げられます。そもそも、転職率が最も高いのは10%を超えている15~24歳となっており、年齢が上がるとともに転職率は下がる傾向にあります。よって、一度雇用されたならば比較的安定が保証される終身雇用制を採用している企業では離職率は低いと考えられるため、長期間にわたる人材育成を行い戦力となる社員を増やすことで企業全体の発展が期待できます。

労働者側にとっても、就職から退職まで一貫して同じ職場に務めた場合は、一定以上の安定した収入が数十年間保証されるという利点があります。つまり、終身雇用には「企業と労働者双方に安定がもたらされる」というメリットが考えられます。

デメリット

一方、デメリットも幾つか挙げられます。まず、労働者の挑戦意欲が低下し、斬新な事業案が出づらくなることが考えられます。終身雇用制の下では、一度雇用されたならば退職まで同じ企業に勤め続けることができることが多いため、あまり目立った成果を上げなくても最低限の収入は保証されます。そのため、積極的に業務に携わることに価値を見いだせない労働者が発生してもおかしくはないでしょう。

また、年功序列制度の下では上司の目を気にしてしまい、特に若い労働者を中心にハラスメントなどに苦しんでいる際に周囲に気軽に相談できず、精神的に追い込まれてしまう恐れがあります。

本来、実際の取組み例で紹介した「人権相談室」や労働組合など、企業ごとに労働者の権利を守るための団体は存在しますが、年功序列の悪影響が蔓延している状態にあると、周囲の目をはばかりハラスメントの告発を行えないハラスメントを辞めてほしいと上司本人に交渉することができない状況が起こりうると考えられます。

上述したメリット・デメリットを考慮した結果、私たちは終身雇用制度及び年功序列制度は改めるべきだと考えます。そして、終身雇用・年功序列制の代わりとして、欧米で普及している成果主義を導入して人事評価などを行うのが良いと考えました。

※成果主義
労働者が業務の過程であげた成果に基づいて評価を行うもの。勤続年数などはほとんど考慮されないことが多い。

しかし、現在の日本においては終身雇用制の下で働いてきた人々がとても多いため、終身雇用制から成果主義などの他の制度に変えようとしても順調に導入が進む可能性は低いでしょう。一方、日本は終身雇用制をはじめとして、古来から日本全体の浸透している上下関係を重んじる儒教の考え方が働き方にも影響しているものの、近年は宗教観が薄れつつあります。

そのため、終身雇用制全体を抜本的に変えることは難しいですが、制度の一部から少しずつ変えていくことはできる可能性があります

終身雇用が普及している日本においても、労働者の昇進・昇級を勤続年数のみで評価するべきと考える労働者は僅か3.6%、勤続年数を中心に勤務成績を加味するべきとする労働者も25.8%にとどまることが分かります。つまり、儒教が浸透し終身雇用制に順応した日本の労働者でも、実際は終身雇用・年功序列などに基づいて人事評価を行うべきではないと考える人々が多いと言えます。

よって、現在の日本では儒教思想に基づいた終身雇用・年功序列制度が根付いているためこれらの制度を根本的に改善することは困難であると予想されます。しかし、従来の上下関係を重んじる制度の一部を、成果主義などの勤続年数よりも勤務成績を重視したものに代替するなどの部分的な改革が可能であると考えられます。 また、もしも終身雇用・年功序列などの現在の労働形態を変えたいと思うのならば、周囲の労働者と協力して積極的に声を上げていくことが実現への近道ではないでしょうか

働き方改革の効果について

2019年4月より、働き方改革が施行され一部企業では導入が推進されています。本サイトでも取り上げてきた働き方改革やこれに伴って制定された制度は効果があるのか、ディスカッションを通じて考えました。

当サイトの社労士インタビューの記事内で社労士の方がおっしゃっているように、働き方改革は「長時間労働の抑制、正規・非正規雇用間の賃金格差の是正(同一労働同一賃金)」を目的としています。また、長時間労働や賃金格差を解消することでライフワークバランスを実現し、現代日本における重大な社会問題の1つである少子化の進行を遅らせることも目指しています。

しかし、働き方改革は少子化対策に効果があると一概には言えません。

まず、上記のグラフを見て分かる通り、数十年にわたって日本の婚姻率は下がっている、すなわち未婚率は上昇している傾向にあることが分かります。 このような傾向にある中で、働き方改革が推進され正規雇用・非正規雇用の賃金格差が縮小されると結婚する必要性を感じず、単身世帯を築く労働者が増える可能性があります。

上のグラフより、労働を始めることができる18~24歳、25~34歳、35~39歳のどの年齢層においても、男女ともに独身に留まる理由(結婚しない理由)として「まだ必要性を感じない」「仕事に打ち込みたい」と答えている人が多いことが分かります。

この結果から、元来日本の結婚を望まない若い労働者たちは、家計を配偶者と助け合って維持していく必要性がないと感じていると考えられます。つまり、同一労働同一賃金が達成され非正規労働者も正規労働者とさほど変わらない賃金を得られるようになった場合、ますます配偶者から経済的援助を受ける必要性が薄れ、未婚であり続ける若者が増える可能性があります。未婚率が上昇すると、最終的には出生数の減少に繋がり少子化に歯止めをかけることは難しくなるため、働き方改革が少子化対策に効果があるとは言えない側面があります

また、当サイトの裁量労働制のページでも述べたように、企業側が裁量労働制をみだりに適用することで長時間労働の慢性化や成果に見合った賃金が支払われないなど、むしろ労働者の待遇が悪化する恐れがある制度も存在します。

しかし、非正規労働者の待遇改善などの労働者間の格差の解消には期待ができると考えられます。

労働人口問題への対応について

現在の日本では当サイト内でも働き方改革のページなどで触れた、少子高齢化の進行に伴う労働力不足への対策が必須となっています。そこで、日本は少ない労働力でより多くの成果をあげる必要性に迫られていますが、日本の労働生産性はOECD加盟国36ヵ国中で20位に留まるなど低水準で推移しています。

根本的に労働人口問題を解決するためにはまず出生率の引き上げが必要となりますが、出生率の引き上げを早急に行うことは非常に困難です。そのため、近年は「外国人労働者」のページでも述べたように、外国人労働者を雇用する動きも広がっています。 しかし、外国人労働者が就労することが認可されている業種は限られており、また言語の壁などの課題も懸念されています。そこで、まずは企業単位での生産性をあげるための取り組みが重要となるのではないでしょうか。

具体的には、業務の一部にAIを導入するなどのイノベーションを進めたり、テレワークなど労働者の個人の事情に合わせた柔軟な働き方を認めたりすることで、生産性の向上やより多くの人材の活躍が期待できます。

また、上で述べたように、終身雇用・年功序列制度は労働意欲を感じられず業務に携わろうとしない労働者が発生する可能性があるため、結果的に生産性が落ちる要因となりうると考えられます。よって、①で私たちが提案した成果主義を一部導入するなどの試みも検討してみるのが良いのではないでしょうか。

さらに、日本では契約や書類確認の際に「はんこ」が必要とされます。しかし、はんこを上司に捺してもらうために業務を中断せざるを得ない時が度々発生することで、業務効率が落ちることが考えられます。そこで、企業は書類確認などの手続きを簡略するために、手続きの一部を電子化するなどの対応をとることで生産性向上に繋がる可能性があります。

また、調査する過程で、現在の日本においては労働者の権利を保障する制度やそれに関わる人々は一定数存在することが分かりました。一方で、「労働の現状」で挙げたように、日本では様々な労働問題が今なお解決されていません。この現実を変えるためには、日本社会全体が法律や制度で規定されている内容に従うだけという意識を改善し、労働者が積極的に自らの立場を守るための行動を起こすことも必要なのではないでしょうか

日本では、働き方改革をはじめとして定期的に法律が改正されています。しかし、裁量労働制などの、企業側に悪用されるとむしろ労働環境の悪化に繋がりかねない制度も存在することも事実です。このような事例に対しても、個人が正確な知識を身につけていれば対応できるケースも存在すると考えます。

例えば、解約において労働条件と実情が異なれば即刻退職することが可能である事実を知っていれば、使用者側に不当な扱いを受けたとしても自らの身を守ることができます。

さらに、高校生のバイトについてのアンケートにおいて、労働者が自らの能力や身を取り巻く現状を主体的に把握していれば、学業とバイトなどの複数事項の両立は可能であるという回答が見られました。この意見をふまえると、各労働者が努力を重ねて自らの能力を向上させることで仕事の効率も上がり、過労死や残業などの問題の解決への糸口へとなる可能性もあるのではないかと考えました。

よって、労働環境を改善し個々の労働者に合った働き方を見つけるためには、政府による法整備や支援は前提条件として、労働者個人が自らの能力を高めるための努力を行い、労働問題に対する知識を習得することも必須であると考えます。

そこで、このサイトをご覧になった皆さんが、当サイトの記事を通じて労働に関する知識を深められたら幸いです。また、私たちは労働者自らが知識を基に労働を取り巻く現状について主体的に考えることで、各自に適した働き方を模索できるのではないかと考えています。以下に、労働者が自ら労働について考える助けとなるようなディスカッションの資料を設けましたので、有効に活用していただければ嬉しく思います。