ミツバチの一年

春〜夏

 左の画像は春に梨園の梨の花に訪れるミツバチです。足には花粉団子をつけています。

 ミツバチは春、花の蜜が出るころに巣の外での仕事を始めます。働きバチたちが花の蜜を集め、女王バチはたくさんの卵を産みます。春から夏が巣の最繁期です。ぐんぐんと働きバチの数を増やし、花の蜜を集め、はちみつを作るのです。
この時期、女王は一日に2000個もの卵を産みます。人の子どもが一人産まれるのに約10ヶ月ほどかかるので、いかに女王バチの産卵スピードが早いかがわかります。
分蜂中のミツバチ  また、春は分蜂(ぶんぽう)の季節でもあります。
分蜂とは、ハチの数が増えて巣が手狭になると、女王バチが働きバチを半分ほど連れて新たな住処を目指して旅立つという出来事です。
左の写真、中央の黄色いものは分蜂中のミツバチの群れです。
ミツバチにとっては、自分たちの遺伝子が広まる素晴らしい出来事なのですが、養蜂家にとっては突然巣の半分のミツバチがどこかに行ってしまう恐ろしい出来事です。
  分蜂をさせないため、巣の中のミツバチの数が増えてきたら新しい巣箱に半分ほど移したり、新女王バチが誕生しないように、女王バチが育つ王台という特別な巣房を見つけ次第取り除いたりしている養蜂家の方もいます。
 ちなみに、現在飼育されているミツバチは、分蜂しないように品種改良がなされているものが多いです。特にイタリアンという品種は分蜂性が低いです。もっとも、ニホンミツバチの場合には分蜂をしなくても逃げてしまうことが多いようですが……。
 この時期、オスバチは新女王バチとの交尾のために毎日出かけています。オスバチはナンパが仕事なのです。彼らは、ナンパ(交尾)が成功すると即死し、失敗し続けると巣から追い出されてしまうという辛い運命を背負っています。
 ミツバチは熱帯出身の生き物なので暑さには強いです。なんとミツバチは約50度までなら耐えられます。
 ただし、暑すぎると巣の材料の蜜蝋(みつろう)が熱で柔らかくなってしまい、巣板が落ちてしまうことがあります。ミツバチの巣箱を置くところはなるべく日陰にしましょう。
 春から梅雨の間にかけて巣内で発生した軽い病気は、夏に気温が上がることで収まることが多いです。その代わり、夏以降はオオスズメバチが巣ごと全滅させに襲いかかってきます。戦士に休息は無いのです。
 夏の暑い時期は、羽を羽ばたかせて換気をしたり、水を運んできて蒸散させたりして巣の中の温度を下げます。外で働く外勤バチはその都度巣の中で足りていないものを取りに行くようになっています。 その中でも主に花蜜を集めるもの(これが一番多いです)、主に花粉を集めるものがおり、なんと水を集めることだけに一生を捧げる働きバチもいるようです。

秋〜冬

 夏が終わり気温が下がってくると、ミツバチたちは冬支度を始めます。女王バチの産卵数が次第に減ってゆき、用済みとなったオスバチは巣から追い出されます。
 多くの昆虫が冬になると卵を残して死んでしまうのに対し、ミツバチはコロニーごと冬を越します。
 ミツバチは気温が15度以下になると外に餌を集めに行くことはありません。巣の中ではちみつを食べながらじっとしています。

 冬の巣箱 右は冬の巣箱の中でミツバチたちが集まって暖め合っている写真です。

 ミツバチは羽を動かす筋肉を使い、熱を発生させることができます。冬の間は、はちみつを燃料として働きバチが熱を発生させて、巣の中で丸く集まって温め合いながら過ごすのです。そのおかげで、巣の中は冬でも温度が30度を超えています。女王バチが中心におり、その周りを働きバチが囲んでいます。働きバチは外側のハチと内側のハチが定期的に交代して、誰かが寒すぎることがないようにしています。
 冬を越す働きバチは冬バチと呼ばれ、春〜秋に生きる働きバチより寿命が長めです。冬の間は幼虫を育てられないので、春が来るまで生き延びる必要があるからです。コロニーが弱い(貯めてある蜜の量が少ない、働きバチの数が少ない)まま冬に突入し、冬の間に全滅してしまうコロニーもあります。エネルギー切れを起こさないように、養蜂家は冬の間、時々砂糖水をミツバチに与えることもあります。
  無事に冬を越せたコロニーの冬バチは春、女王が産んだ次の世代の卵を育てあげてから死にます。
 ミツバチは女王バチだけでなく働きバチも一緒に冬を越すので、暖かくなってすぐの沢山の花が咲き出す時期に活動することができるのです。このような昆虫は少なく、多くの昆虫は女王や卵以外死滅してしまいます。



参考文献
『生物事典』 旺文社、2011年 
Rowan Jacobsen 『蜂はなぜ大量死したのか(原題 Fruitless Fall)』 文芸春秋、2009年
久志冨士男 『ニホンミツバチが日本の農業を救う』 高文研、2009年
越中矢住子『ミツバチは本当に消えたか』 SoftBank Creative、2010年
フォーガスチャドウィック, スティーブオールトン, エマ・サラテナント, ビルフィツモーリス, ジュディー アール  『ミツバチの教科書(原題 The Bee Book)』 エクスナレッジ 、2017年
一般社団法人 日本養蜂協会 ホームページhttp://www.beekeeping.or.jp/