放射線Q&A
福島原発事故後を生き抜くための放射線知識Q&A
福島第一原発事故を受けて、多くの人が抱いたと思われる疑問にQ&A形式でお答えします。
放射能による汚染の実態
Q.今回の事故で散らばった放射能はどのような種類のものですか?
A.原子炉の中にあるウランが分裂してできる放射性ヨウ素、セシウム、ストロンチウムが主なものです。
Q.ヨウ素やセシウムはニュースでよく聞くけど、ストロンチウムは余り聞くことがないのはなぜ?
A.おもに計測する放射線はガンマ線ですが、ストロンチウムはガンマ線を出さないため分析が難しく、検
査結果が遅れて出てくるのです。
Q.いろいろあるけど、一番心配なものはどれ?
A.今回の事故から4日間に大気中に放出された推定量は、セシウム137が約4700g、セシウム134が約
380g、ヨウ素131が約35gです。あわせて5sとちょっとの量で、全国の広範囲に重大な汚染を起こして
いることに驚かされます。
京都大学の石川裕彦教授らが福島県民の内部被ばく量を調査したら、事故から10ヶ月近くたった現
時点では外から放射線を浴びる外部被ばくの方がずっと量が多いことが分かりました。いま、健康被
害や汚染除去をめぐる問題で最も脅威なのは、放射性セシウムです。
Q.その放射能はいつどのように広がったの?
A.2011年3月15日、まずプルームとよばれる雲のようなかたまりとなって福島県内や北関東を含む広い
地域に流れていきました。このとき、雪や雨が降った地域では、土壌に放射性セシウムが多く地表に
とどまって各地の放射線量を高止まりさせました。道路ぎわの側溝や家の雨どいの下の放射線計測
値が高いのはそのためです。また、20日夕〜22日未明にもプルームは茨城沿岸を通り南関東のほ
か、宮城や岩手にも流れました。このときにも雨が降っており、汚染が広がりました。
Q.この事故による影響で、汚染はどこまで広がったの?
A.国の責任で除染を進める基準の年間被ばく線量が1ミリシーベルト以上の地域は、環境省の試算で
は8都県分(宮城、福島、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京)で11,600平方キロメートル(日本の
国土の3%)に及びます。
Q.ほかの地域は大丈夫?
A.2011年11月11日に文部科学省が公表した汚染マップを見ると、岩手南部・新潟南部・長野東部で、年
間1ミリシーベルトを超えている地域が一部含まれている可能性が高いです。
この他にも、千葉県柏市根戸の市有地の土壌から高濃度の放射性セシウムが検出された問題で、
環境省は2011年12月28日、福島第一原発由来の放射性セシウムを含んだ雨水が濃縮して蓄積した
とする最終調査結果を発表しました。もっとも濃度が高かった場所の土壌の放射性セシウム濃度は
1キロあたり約65万ベクレルでした。
Q.燃やしたり薬品を振りかけたりして、放射能を消すことはできないの?
A.残念ながら、放射能を消すことはできません。
除染は、ガンコな汚れを掃除するような作業です。まず線量計で放射線量の高いところを見つけま
す。それが屋根だったら高圧洗浄機で洗い流し、玄関のコンクリートならばブラシでゴシゴシこすりま
す。
除染の目的は、生活の場から放射性物質を遠ざけることにあります。結局は、放射線量の高い土や
がれきを最終処分場に集めて地中深くに埋めるしかありません。
Q.除染がこれほどローテクなのはなぜ?
A.放射線を消してしまう実用的な技術が何もないからです。
どんな物質も細かく分けると、原子という粒でできています。放射線を出す原子は、ほとんどが不安定
な状態にあります。アルファ線、ベータ線、ガンマ線といった強いエネルギーの放射線を放出しながら
崩壊を繰り返し、安定するまで他の物質へと変わっていきます。
熱や薬品を加えたときに起こる物質の変化は、この小さな原子同士の組み合わせを変えているだけ
です。原子そのものや、その放射能を変えることはできません。
つまり放射能は、通常の毒のように中和といったことができず、その量が減るのを待つしかないので
す。放射能が半分になる「半減期」はヨウ素なら8日、セシウム137だと約30年、プルトニウム239なら
2万4千年です。
Q.食品への影響は?
A.汚染マップで土壌の蓄積量が高い地域では、基準を超える食品が出ています。事故当初は、福島で
は原乳やホウレンソウなど多くの食品で基準を超えました。長野でも、群馬県境の野生キノコから基
準を超える放射性セシウムが10月に検出されました。また、米については国の暫定規制値(1キログ
ラム当たり500ベクレル)を上回る数値の放射性セシウムが福島県内の一部の地区で検出されたた
め、出荷停止となりました。政府は、これらの地区について11年産米の出荷停止を指示しています。
また、福島県は、2012年産のコメについて秋から出荷段階で全袋を対象に放射性物質の検査を行
う方針を発表しました。(2012/1/5)
健康への影響
Q.放射線が体に悪いといわれるのはなぜ?
A.放射線は体の細胞の遺伝子を壊すことがあります。でも細胞も無防備ではなく、少しなら遺伝子に生
じた変化を修復することが出来ます。修復できた細胞は生き続けますが、まれには修復を誤って遺伝
子上の情報が変質することがあります。これを突然変異といいます。突然変異は、被ばくした本人の
将来のがん、あるいは将来できる子供の遺伝病の原因になる可能性があります。これはあくまで可能
性で、何も起きない可能性もあります。理論上はどんなに少ない放射線によっても低い確率で生じる
可能性があり、放射線が多いほど確率は高くなります。
Q.子供と大人では被ばくの影響はどう違いますか?
A.一般的に、臓器がつくられる時期に被ばくすると、がんが発生しやすいです。全体のリスクでいうと、30
歳代を1とすると、10歳はその2〜3倍のリスクになります。
Q.どのくらいの量を被ばくしたら危険ですか?
A.広島や長崎の被爆者の調査から、100ミリシーベルト以上の被ばくでは被ばく線量に比例してがんの
死亡リスクが上がり、100ミリシーベルトで全年齢の平均で0.5%高まると分かっています。
国際放射線防護委員会(ICRP)などは人々の健康を守るという「予防原則」から、100ミリシーベルト以
下でも線量に応じて直線的にリスクが増えるという仮説を採用しています。
Q.今回の事故による汚染では広い地域で低線量の被ばくによる健康への影響が心配されていま
すが?
A.低い放射線量を長期間浴びた影響をめぐり、内閣府の有識者会議は2011年12月15日、年間20ミリ
シーベルトの放射線量を避難区域の設定基準としたことの妥当性を認める報告書をまとめました。そ
れによれば、年間20ミリシーベルトを被ばくした場合の影響は「健康リスクは他の発がん要因と比べ
ても低い」とし、「単純に比較することは必ずしも適切ではない」とことわりながら、「喫煙は(年間)1
千〜2千ミリシーベルト、肥満は200〜500ミリシーベルト、野菜不足や受動喫煙は100〜200ミリ
シーベルトのリスクと同等」などといった目安を例示しています。また、一度の被曝より長期間にわたっ
て累積で同じ線量を浴びた方が「発がんリスクはより小さい」との考えも示しています。
Q.福島第一原発事故による被ばく線量は?
A.福島県民の外部被ばく線量について、県は2011年12月13日、比較的、空間線量が高い地域の飯舘
村と浪江町、川俣町(山木屋地区)の原発作業員ら放射線業務に従事していない一般住民1589人の
調査結果を発表しました。それによれば、事故後4カ月間の合計で、自然放射線量を引いた外部被
ばく線量は、1ミリシーベルト未満が一番多く63%、1ミリシーベルトが23%、2ミリシーベルトが8%など
5ミリシーベルト未満が97%、5〜10ミリシーベルトは2.4%、10ミリシーベルト以上は0.25%で最高は
14.5ミリシーベルトでした。
被ばくを減らすには
Q.放射線から身を守るにはどうしたらいいの?
A.例えば、私たちが口にする食品にはセシウムより高いレベルで放射性のカリウムが含まれていて普
段食べています。ですから、微量でも放射性物質を避けようと考えると、食べるものがなくなります。た
だ、線量が低ければ低いほどいいというのが鉄則です。今回の放射能汚染は無用な被ばくで、いわ
ば環境汚染です。それを避けようと考えるのは合理的なことです。
Q.日常生活で被ばくを減らすには?
A.福島第一原発から離れた地域では何もしなくても健康への影響はないと考える専門家は多いです。
心配なら、きちんと整備された線量計で自宅周辺の線量を測り、高い部分を除染しましょう。日本放射
線安全管理学会が住宅の除染マニュアルを公表しています。(メニュー「その他」の「リンク集」を参照
のこと)
なお、除染活動で着た衣服は、洗濯機で洗えば付いた放射性物質の8割以上が落ちるので捨てなく
ても大丈夫です。
また、年間の積算放射線量が1ミリシーベルトを超える地域で、屋外に干した洗濯物を身につけても、
被ばく線量は一般人の年間限度1ミリシーベルトの1万分の1程度と、人体への影響を無視できるレ
ベルであることも分かっています。その他に、セシウムで汚染された舗装道路をワイヤブラシでこすれ
ば、9割以上を除染できることも確認されました。
Q.福島県内で放射能の影響を小さくするための注意点は何ですか?
A.次のような注意が必要です。
・屋外での活動後には、手や顔を洗い、うがいをする。
・土や砂が口に入った場合には、よくうがいをする。
・乳幼児の場合は、砂場の利用を控える。
・雨が降ったらカサをさした方が安全。
・登校・登園時、帰宅時に靴の泥をできるだけ落とす。
・土ぼこりや砂ぼこりが多いときには窓を閉める。
Q.とても不安に感じるのですが・・・。
A.放射線はどんなに微量であってもリスクが存在すると仮定することから、「これ以下は安全」という絶対
的な基準を示すことが出来ません。そのため、「これ以下のリスクなら、他のリスクと比較して受け入
れられる」「放射線の量を下げる負担がこれくらいまでなら、その負担を受け入れられる」という線引き
をして、許容できる放射線の量を決めなければなりません。その線引きの感覚が個人によって違うこ
とも不安を感じる一つの要因でしょう。
最後に・・・
福島県内でも放射線量の現状に対する受け止め方には個人差があり、リスクを恐れて避難する人、様々な事情で県内にとどまる人など対応はざまざまです。自主避難をする母子を「過剰反応だ」「復興を妨げている」などと批判する人もいると聞きます(2012/01/06付、北海道新聞)。
さらに、原発事故を理由に、日本人と結婚した外国人が子どもを連れて母国に帰ってしまい、子を奪われた母親が途方に暮れる、というケースも出始めているということです(2012/01/05付、朝日新聞)。
また、政府は、東京電力福島第一原発事故で設定した避難区域を、放射線量に応じて3区域に再編することを正式に決めました。再編する3区域のうち、年間に換算した放射線量が50ミリシーベルト超の「帰還困難区域」は今後5年以上、帰宅できない地域で、政権は土地買い取りなどの支援策を検討することになります。(2011/12/26)
原発事故の恐ろしさの一つは、人と人とのつながりを分断してしまうことだと思います。
※ 福島の原発事故については、放射線による汚染、除染などに限っても、毎日のようにニュース
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