火山の植生

 火山が噴火し、溶岩が流れたり、火砕流やその他火山噴出物が降り積もったりした土地は、荒原となってしまいます。しかし、いずれはその不毛地帯にも植物が生え始め、やがて森林となり、動物もいつくようになります。もちろん、浅間山の鬼押出し園など、それらが流れてきた跡がいまだに残る土地も少なくはありません。
 ここで考えてみましょう。1000℃に及ぶ溶岩などの猛威のあと、荒れ果てたその大地で生き抜ける生物はそうそういないことは見当がつくのではないかと思います。その限られた植物のことを一般にパイオニア植物と言います。その話は置いておいても、どうやって植生は回復することができるのか、不思議には思いませんか? 植物の種子そのものは風や虫によってやって来ることはできるのかもしれませんが、どうやって栄養を確保することができるのかというところに疑問を抱いてしまうかもしれません。あんなごつごつして栄養なんかなさそうなところにある栄養とは…?
What is “窒素固定菌”?


窒素固定菌
(画像はイメージです)
 火山地帯の栄養問題を解決するのが、窒素固定菌という菌です。

特徴

  • 窒素を固定する。
  • 植物の根やシアノバクテリアに共生する。
  • 亜硝酸菌または硝酸菌が存在するところでは、共生した先の宿主に窒素を与える...というのは、宿主(共生する植物)が核酸やたんぱく質を合成する時に窒素が必要だからです。
  • 窒素固定菌は単体でいる時よりも共生した方がはるかに効率的に窒素固定を行うことができる。
  • 普通の植物が水に溶けた窒素を土壌中でしか吸収できないものを、窒素固定菌があると、空気中に存在する窒素から固定することができる。
  • 共生した窒素固定菌の窒素固定能力は自然に行われる土壌への窒素固定の約100倍と言われる窒素固定を行うことができます。
窒素固定菌を持つ植物


ソテツ
 パイオニア植物は一般的に風散布がしやすいように軽くて小型の種子を持っています。
  • アカウキクサ属のシダ植物
  • ソテツ
  • グンネーラ属の各種植物
  • ハンノキ属
  • ソリチャ属
  • ヤマモモ
  • マウンテン・マホガニー
  • ビターブラッシュ
  • バッファローグミ
  • モクマオウ
  • ハチジョウススキ
  • 珪藻
などがパイオニア植物として重要な役割を果たしています。
土壌の変化について


土壌(溶岩)
 先ほど火山噴出物でできた土壌のことを不毛地帯と書きましたが、実は溶岩にはリン、カリウム、カルシウム、マグネシウムが含まれているため、窒素以外の植物に必要なミネラルが溶岩中に存在しているのです。
 ですので、窒素さえもらえれば、植物の生育のための最低限の条件は満たせるだろう、ということです。さらに、それほど必要ではない話をすると、窒素固定が進み、やがて土壌が風化して粘土となるときに、リンがそこに固定されてしまう(キレート結合)ため、土壌の発達段階(衰退と言った方がいいのでしょうか)で最初に欠如するのはリンだと言われています。
 そういった窒素固定能力を持つ方々、いわゆるパイオニア植物が土壌に窒素をアンモニウムイオンなどの形で蓄積させるために、窒素固定能力がない植物も溶岩上で生育できるようになります。土壌の中の水に溶けたイオン状態の窒素でないと吸収できない普通の植物にとってはとても嬉しいことです。また、植物の枯葉や死骸を菌類が分解することで、土壌となっていき、回復へのサイクルが回っていくことになります。(促進効果)
植生の遷移

 遷移は、パイオニア植物から一年草へ、多年草・低木へ、そして一般的な森林にあるような木々へと移り変わっていきます。そのうちに、パイオニア植物は新しい種の出現に伴って、山頂の方へ、より荒れ果てている方へと、追いやられていってしまいます。
 遷移が進み森林のサイズが大きくなってくると、陽の光が少なくても生きていける陰樹が森林を優占するようになります。重要なことはいかに窒素を固定するかではなく、いかに、高くそびえたつ木々の間をやって来る日光からエネルギーを生み出せるかになっていきます。一般的に陰樹と呼ばれているその植物たちが森林を優先するようになった時、その状態は極相と呼ばれ、"ある意味"で一つの遷移の過程を終えることとなります。
 さて、前文の"ある意味"とはどういう意味かを簡単に説明していきます。何を隠そう、この遷移には続きがあってしまうのです。非常に簡単に言うと、森林はその規模を小さくしていってしまうのです。その高さは何十メートルに及ぶほどのものが人の背丈ほどにまでなり、木々の生育する密度も著しく小さくなることが認められています。これは、太平洋の中心で、ホットスポットによって生み出された火山群―ハワイ海山群から考察された結果ですが、土壌年齢、つまり噴火してからの年数が1万年に及ぶ前までにはピークを過ぎて、衰退期へと入ってしまいます。衰退の理由としては、主に二つの理由が挙げられています。
  1. 土壌の老化:溶岩の豊富な元素、特にリンがなくなる。粘土とかに囲まれる(キレート結合)による…と一度上で触れたとおりの話が1つ目。
  2. 生態系の孤立性:日本の火山等、たとえば三宅島などは黄砂の飛来が原因で何とか生態系を保っていますが、ハワイの場合はイラクからくる砂くらいしかないために植生が更新されていかず、それが植生の発達に悪影響を及ぼすという話が2つ目。
植生遷移のスピード

 植生の速さはすべての火山で一定というわけではありません。様々な要因によって異なってくるのです。
  1. 火山の形によって:もともと、火山の形はマグマの質に左右されます。マグマの質、特に二酸化ケイ素の量は、火山噴出物の構成を決める大きな鍵となるもので、一般的にスコリアや軽石では早く植生が回復し、一方、硬い溶岩や常に流れている(キラウエアのイメージ)ものでは、植生の回復が遅い傾向があります。
  2.  気候によって:気候、特に雨量や気温に左右されやすいです。高温多雨な傾向にある低緯度地域では、植生の回復は早いですが、高緯度地域ではそれが遅い傾向があります。
     筆者が以前行った岩手山は、三原山や桜島などの比較的低緯度地域の火山よりも遷移の速度が非常に遅くすでに熔岩の流出から200年以上が経っているにもかかわらず、未だにシモフリゴケや松と言ったパイオニア植物がぱらぱらと生えている程度です。
     しかし、浅間山では、それほど変わらない時期に流出した溶岩上に、岩手山に比べれば非常に多くの植生が回復しているのが見受けられました。
  3.  標高によって:②に似ている部分がありますが、基本的に、標高が低いほど遷移が早く進むということも知られています。
 火山の植生の遷移は土地の有効利用や土壌の回復具合を大まかに一目で知るのにとても大事な手段であり、日本を含め、海外でも多くの研究者が植生について研究しています。
 ある場所に生育している植物の集団のことを『植生』といいますが、火山における植生は普通の陸地と違って、特徴的だということがわかりましたね。窒素固定菌という菌は火山地帯で植生が回復するのに重要な役割をもっているということも興味深いです。火山に生えている植物について調べてみるのも、楽しいかもしれませんね。