バルト海の汚染とともに激減したアザラシ

 

 バルト海のアザラシは、過去30年間で少しずつ消えていった。その長い間アザラシは海の汚染に苦しんでいたが、ほとんどの人はそれに気付くことなく生活してきた。そんなときに突然、北海の大量死が起きたため人々の間では大きな話題になった。しかし、気付いたときには遅く、バルト海のアザラシは汚染に蝕まれ、ぼろぼろになり、静かに死んでいたのであった。皮肉な話だが、このような大きな事件がなかったら人々は海の汚染に苦しんでいるアザラシや多くの海洋生物のことに気付かないでいたに違いない。

 アザラシたちの長い苦しみはバルト海の汚染、とくにPCBによってもたらされたものだった。つまり、人間が生活を楽にしようとして作ったものがいつのまにかアザラシや他の動物を痛めつけていたことになる。このバルト海には3種類のアザラシが生息している。ハイイロアザラシワモンアザラシ、そして北海で大量死したのと同じゼニガタアザラシだ。これらのアザラシは、1900年にはバルト海全体で35万頭が生息していたものと推定されている。その後アザラシは急速に減少し、今ではわずか2000頭が生息しているだけだという。

 アザラシの減少していた理由の1つとして1960年代まで狩猟が行われていたことが挙げられる。この頃は、狩猟が大きな割合を占めているといえる。狩猟が禁止された直後にはアザラシの数は著しく増えていたという報告があったが、少したつと狩猟の禁止にもかかわらず、アザラシの数は減少しているという事実が出てきた。

 そこでヨーロッパの研究者が詳しく調査をしていると、バルト海のアザラシたちの繁殖率が低下していることがわかった。実際には、アザラシの生殖能力が低下していたのではなく、破壊されていたというのが実情である。この調査によって、アザラシの繁殖能力は通常の50%以下になっていたという。今ではこの繁殖能力は20%下回るところまできている。このことから、アザラシが絶滅するのも時間の問題になっているといえる。

 研究者がアザラシの子宮を調べたところ、排卵管に異常が見られた。この症状が年齢の高いアザラシだけでなく、若いアザラシの間にも見られたことにより、一時的な症状ではないということがわかる。これは、ホルモンの異常によって引き起こされたと考えられている。アザラシが妊娠した際、ホルモンの異常によって胎児が早い段階で死亡し、これが腐って卵管の癒着などを引き起こすものだった。こうした症状はバルト海のメスのアザラシの50%以上に起きていた。この原因としてはPCBの汚染が考えられている。これを確かめるために、アザラシに蓄積されているのと同じ量のPCBをミンクに投与するという実験が行われた。実験結果はアザラシもミンクと同じ症状がでてきた。結果を裏付けたのはバルト海のアザラシだったという。