イギリスの貨幣
- ○イギリスのお金の製造量
たとえば、
〈その国の全お札の製造枚数〉÷〈その国の全国民の数〉=〈一人当たりの持っているお札の枚数〉
としてアバウトに計算して考えると
フランス11枚、アメリカ25枚と比べるとイギリスは約33枚と確かに多い。
(20億枚÷6000万人=33.333333・・・・・枚)
話は別だが、イギリスの1ポンド券は全製造量の約50パーセントを占めているせいか、
イングランド銀行はコイン化に踏み切ったがあまりコインへの切り替えは進んでいない。
(1987年当時、現在はコイン化されているし、お札も改刷された。)
以上のことからお札に対する愛着が深い、とか小銭を出したり作ったりするのに対して面倒くさがりやなどとも
考えられる。どちらにしろお札のほうがより国民に普及されている。
○イギリスの主な偽造防止対策
イギリス銀行券は巾0.5または1mmのアルミニウム箔と透明セロファンで出来ている細い線、つまりsecurity threadが
券面の中央より少し右のところに縦に入っている。
◎security threadとは・・・・・
1945年、ナチス・ドイツによる精巧な偽造イギリス銀行券製造事件にこりた通貨当局が、
ポータルス製紙会社との共同開発によって世界で初めて採用した方式である。
その後改良が加えられて1981年発行の50ポンド券ではスレッドの左端が鋸の形になっていて
蛍光を発する上にお札の表面に若干盛り上がるような独特の物を用いている。
1984年発行の20ポンドの改刷券はスレッドが1部表面に浮き出た窓あきスレッドを採用している。
これらは全て素人でも確実に識別できるので非常に有効な方法であると考えられる。
その他にも50ポンド券,20ポンド改刷券および1ポンド券はコピー防止のために地紋をごく細い斜の万線で
ブロック上に区分した模様を用いている。
もしこの場合コピーしたりすると画線に濃淡が表れたりなどの偽造の判別しやすくなるように
工夫されている。
○イングランド銀行券の券種
イングランド銀行券には、1、5、10、20、50ポンドの5券種が発行されている。
額面金額が大きくなるほど縦横ともに大きくなるタイプであり
- 1ポンド・・・・・135×67
- 5ポンド・・・・・146×78
- 10ポンド・・・・・151×84
- 20ポンド・・・・・160×90
- 50ポンド・・・・・169×95 と不規則に大きくなっている。(単位:mm)
このうち1ポンド券は現在ではコイン化されている。が今回はあえて前回の改刷前の紙幣を紹介していく。
全てのイングランド銀行券の表面にはエリザベス女王二世の肖像を用いており裏面にはイギリスを代表する
歴史上の著名な人物を描いている。
旧券に描かれたエリザベス女王二世の肖像は今よりも若々しく描かれていた。
したがって実年齢に近づけるために、改刷されてきた。
ちなみに、全券種共通で片手に槍と楯、オリーブの葉を持った女神のブリタニアの紋章が印刷されている。
○旧1ポンド券
表面には女王の肖像を左側に、地紋模様として平和を象徴するオリーブの小枝、
コルヌコピア(ギリシャ神話に出てくるやぎの角の中から花や、果物、穀物が
あふれている形)貿易のシンボルであるカドユシアス(2匹のヘビが巻き付いた
羽のはえた杖でマーキュリーの持つ杖)が一体となって描かれている。
裏面には、数学者、科学者で有名なアイザック・ニュートン
(Isaac Newton 1642〜1727)が描かれている。
彼は万有引力の発見のきっかけとなった花の咲いたりんごの木の下に坐りひざの
上に彼の著書である「プリンシピア(自然哲学の数学的原理)」が開かれており、
かたわらのテーブルの上にはロンドン学士院に保存されているニュートンの
使った反射望遠鏡とプリズムが置かれている。
肖像の左には、天文学者らしく天体や星、太陽の起動をあらわす図柄が
モアレ模様を使って表されている。1694年に造幣局の監事、1699年には
造幣局長官に就任し、貨幣制度の改革にも尽力したことからお金に縁のある人物
として選ばれたと考えられる。
○旧5ポンド券
表面には女王の肖像の左側に、裏面の肖像人物ウェリントン公の時代に流行した
武勇のシンボル・勝利の女神が二頭立ての馬車を走らせている模様が描かれて
いる。
裏面にはローレンスが描いた絵が元になっている、イギリスの勇将
ウェリントン公(Anthur Wellesley,Duke of Wellington 1769〜1852)の
肖像と、その左側にハリー・エクレストンが描いた水彩画が元になった戦闘の
場面が描かれている。1811年、シャンパーニュ半島での戦いの風景であり
この図柄には98人もの兵士が描かれている。
○旧10ポンド券
表面にはガウン姿の女王の左に、地紋模様によってデザイン化されたユリの花が
描かれている。このユリは、裏面のナイチンゲールの姉が描いたとされている物
でもあり、イギリスの国家ともなっている。
裏面にはクリミヤ戦争のさい
にも活躍しまた英国赤十字社の基礎を作ったナイチンゲール
(Florence Nightingale 1820〜1910)の肖像を描いている。彼女の左には
クリミヤ戦争期に描かれた平板画「野戦病院でのナイチンゲール譲」から
取材された図柄で彼女が手にランプを持ち、傷病兵に光を当てている構図である。
○旧20ポンド券
表面は女王陛下の左にセント・ジョージの龍退治の図柄がオフセットで
印刷されている。セント・ジョージはイギリスの守護聖人であり伝説上の
勇士であるが、お札の模様には白馬にまたがり、槍で羽の生えたドラゴンを
刺している図柄が描かれている。
裏面にはウェストミンター寺院の中のケント記念館の中にある有名な劇作家
シェークスピア(William Shakespeare 1564〜1616)の銅像が描かれている。
彼の銅像の左側にはデザイナーのハリー・エクレストンが水彩画で描いた
オリジナル作品である「ロミオとジュリエット」の中の有名なバルコニーの
場が描かれている。
旧50ポンド券
表面には女王陛下の左側にに不死鳥フェニックスが描かれている。
このフェニックスは、セントポール寺院にある木彫りや、裏面の肖像人物レンが
作ったモニュメントに基づいてデザインされている。
右上には格子状の縞模様があるがこれはセントポール寺院の丸屋根天井に
見られる飾りであり、左端にはその丸屋根の構造図が描かれている。
裏面には17〜18世紀にかけて活躍した建築家クリストファー・レン
(Sir Christopher Wren 1632〜1723)の肖像が描かれている。彼は
グリニッジ天文台や王室取引所、セントポール寺院の建築者として知られている。
彼の左にはロジャー・ウィジントンの鉛筆画による「ロンドン市と
セントポール寺院」という中世のロンドンを描いた風景を元にデザインした図柄
があり、その下にはレンによってデザインされたセントポール寺院の平面図が
描かれている。
左下隅には50ポンドという額面金額を取り囲む飾りがあるが
これは同寺院の聖歌隊南廊下にある木彫りの飾りをデザインした物である。
このようにイギリスのお札のデザインはどんな細かな図柄についても裏面の人物
と関係ある物を慎重な考証を加えた上で用いているのが特色である。
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