古事談 晴明、花山院ノ前生ヲ見顯ハシテ病因ヲ語ル事
《現代語訳》
晴明は、世俗の者ながら、那智で千日の修行をした者である。毎日少しの時間滝の下に立って打たれていた。前世も並々でない大峰の修行者であったとか。
花山天皇在位のとき、帝が頭痛を患いなさって、雨の降りそうな時などは、特に強く痛んでどうしようもなかったので様々な医療を試されたようだが、効果はいっこうになかったようだ。
そこで晴明が言うには、
「帝は前世では並々でなく尊い仏道修行者でいらっしゃいました。大峰にある何某という屋敷で亡くなられました。前世の徳によって、天使の身の上にお生まれになりましたが、その前世の帝の髑髏は、岩の狭間に落ち込んでしまいました。
雨が降ると岩というのは膨張するものですので、挟まった髑髏が岩に押されて、現世でこのように苦しめるのでしょう。ですから御治療をされても治らないのです。前世の御首を岩の間から取り出して、広い場所へ置かれたならば、きっとお治りに成るでしょう」
と言って、御首はどこそこの谷底に、と教えたので、人をやって見させたところ、晴明の言った事に間違いはなかった。その御首を取り出された後は、帝の頭痛もすっかり治癒したということだ。