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古今著聞集 陰陽師晴明、早瓜に毒気あるを占ふ事



《原文》
 御堂関白殿御物忌に、解脱寺の僧正観修・陰陽師晴明・医師忠明・武士義家朝臣(時代不審成)参籠して侍りけるに、五月一日、南都より早瓜を奉りたりけるに、「御物忌の中に取り入れられん事いかがあるべき」とて、晴明にうらなはせられければ、晴明うらなひて、一つの瓜に毒気候ふよしを申して、一つをとり出したり。「加持せられば、毒気あらはれ侍るべし」と申しければ、僧正に仰せて加持せらるるに、しばし念誦の間に、その瓜はたらき動 きけり。その時、忠明に毒気治すべきよし仰せられければ、瓜をとりまはしとりまはし見て、二ところに針をたててけり。その後、瓜はたらかずなりにけり。義家に仰せて瓜を わらせられければ、腰刀をぬきてわりたれば、中に小蛇わだかまりてありけり。針は蛇の左右の眼に立ちたりけり。義家なにとなく中をわると見えつれども、蛇の頸を切りたりけり。名を得たる人々の振舞かくのごとし。ゆゆしかりける事なり。この事いづれの日記に見えたりと云ふ事知らねども、あまねく申し伝えて侍り。

《現代語訳》
  御堂関白殿が物忌みをされるというので、解脱寺の僧正である観修、陰陽師安部晴明、医師の丹波忠明、武士源義家(時代は不審である)が祈願のため籠っていた。
その最中の五月一日に、大和地方からはしりの胡瓜を献上してきた。
「物忌み中であるのに外からのものを受け取るのもどういうものか」
 と、晴明にその吉凶を占わせた。すると晴明は、一つの瓜に毒がある旨を言って、その一つを取り出した。
「加持を行えば、その毒も現れてきましょう」
というので、御堂関白殿は僧正に命じて加持をさせた。しばらく念仏を唱える内に、その瓜がゆらゆらと動き始めた。すぐに忠明に毒気を治すように命じると、忠明は瓜の風体を観察し、二ヶ所に針を刺し立てた。その後しばらくして瓜は動かなくなった。義家に瓜を割るように命じると義家は刀を抜いてそれを割った。すると中には小さな蛇がとぐろを巻いてうずくまっていた。忠明の立てた針はその蛇の両目に突き刺さっていた。
 義家は無造作に瓜を割ったようであったが、正確に蛇の頭を切り落としていた。世に知られた人々の振る舞いとはこのようなものなのである。何とも素晴らしい事である。この事は元々何という記録に記載されていたかは知らないけれども、世に広く伝えわたっている事である。