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無名抄  業平の家の事




《現代語訳》
また、ある者がこう言った。
「業平中将の家は、三条の坊門小路より南の、高倉小路に面した所につい先日までありましたよ。やはり中将様の御屋敷ともなりますと柱一つとってもただとは違って"ちまき柱"とかいうものであったそうですが、全く何時頃の者の仕業でか、せっかくの柱も普通のように削ってしまってありました。前には長押なども角がない丸い形をしておりまして、実に古風に見えた事です。
中頃なんでもあの安倍晴明が火伏せのまじないを施したとかで、火事にも焼けずに長らく残っておりましたけれども、やはり世も末となりましては致し方もございません、先頃ついに焼け落ちてしまいました」