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大鏡 六十五代 花山院
現代語訳



花山院天皇出家
 
 帝が花山寺に御到着になり、頭髪を剃って出家なされた
 
後に、粟田殿が 「少しの間退出させて頂き、父の右大臣に
 
も、出家する前のこの姿をもう一度見せ、これこれと事情を
 
お話しして、必ず参上いたします」 と申し上げられました。す
 
ると帝はこの時始めて粟田殿に欺かれた事にお気づきにな
 
り、 「私をだましたのだな」 と御泣きになった事です。何とも
 
気の毒で、ひどく切ない事でございます。常日頃から粟田殿
 
は口癖のように 「もし帝が出家なさいましたら、私も出家申
 
して、お弟子としてお側にお仕え致しましょう」 などと約束を
 
されながら、だましていらっしゃったとは、本当に恐ろしい事
 
でございます。粟田殿の父東三条殿は 「万一にも我が子が
 
出家しはしないか」 と気がかりに思うあまり、思慮分別があ
 
り、このような時にふさわしい者達、まただれそれと言う有名
 
な源氏の武者達を護衛に付けられたのでした。この人達
 
は、今日の町にいる間は隠れ、加茂川の堤の辺りから姿を
 
現してお供申したのです。寺に着いてからは 「万一にも誰か
 
強引に粟田殿を出家させはしないか」 と一尺ばかりの刀を
 
半抜きにしてお守り申したということです。