中耳


 私たちが聴く音は、たいてい空気の振動として伝わってきます。この空気の振動は、外耳道を通って鼓膜にまで達します。そして中耳の中にある耳小骨という3つの小さな骨を通って、その振動が内耳に伝わります。内耳の細胞が、音の振動を神経の興奮に変えるのです。

 耳小骨というのは、本当に小さな骨です。鼓膜に近い側から、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨の3つの骨がありますが、最大のツチ骨でも8mm程の長さしかありませんし、ツチ骨とアブミ骨には、さらにそれぞれに小さな筋肉がついているというのですから、非常に精巧な器官であるといえます。

 外耳を伝わってきた空気の振動は、内耳の中にある水に振動を伝える必要があります。空気と水の密度がかなり違うため、もし耳小骨がなければ、空気の振動のほとんどが、水の表面で跳ね返されてしまうでしょう。
 空気の振動を受ける鼓膜の面積は、内耳の中の水に振動を送るアブミ骨の底の面積の17倍ほどになります。また、耳小骨の間のてこの働きのよって、音の振動の大きさが、1.7倍ほどになります。この働きによって、音の振動エネルギーの約60%を内耳に伝えることができます。

 ツチ骨についている鼓膜張筋や、アブミ骨についているアブミ骨筋といった筋肉は、音が中耳を伝わって内耳に送られるのを抑えます。強い音が耳に入ってきたときに、反射的に音の伝導を抑制するのです。

 耳小骨による音の伝導がうまくいくように、耳小骨を収める鼓室には、空気が入っています。つまり、鼓膜の両側には、空気があるのです。中耳の鼓室に空気を入れておくために、工夫がなされています。

 空気は、気圧の大きさによって、膨らんだり縮んだりします。例えば、周りの気圧が急に低くなると、鼓室に閉じこめられた空気が膨張して、鼓膜を押します。あまり押されすぎると鼓膜が破れてしまうかもしれません。この鼓膜が破れないように、鼓室は耳管によってのどにつながっているのです。この耳管を通して、鼓室に空気が出入りできるのです。

 ですが、耳管がいつでも開いていたのでは、のどにいる細菌がたちまち鼓室に入り込んで、中耳炎を起こしてしまいます。ですから、耳管は、ものを飲み込むときにのどの筋肉を動かしたときにだけ、開くようになっています。エレベータに乗ったときや電車がトンネルに入ったとき、気圧が急に変わって耳がつんとしますが、つばを飲み込むと耳管が開いて、それが治るのです。