■脳死と植物人間は違う
よく間違えられますが、脳死と植物人間は違います。植物人間は、自分で呼吸をしています。意識こそありませんが、痛みを感じ、さまざまな刺激に人間的な反応を示します。食物も管で胃に送り込むので、消化もできます。
これに対して脳死状態の人は、そうした刺激に反応しません。自分では呼吸ができないので、人工呼吸器をつけています。もし人工呼吸器をはずせば、数分後に心臓も止まってしまうのです。心臓は、血液の中の酸素をエネルギーにして動いているので、呼吸が止まればエネルギーの補給が途絶えてしまいます。
では、どうしてこんな違いがあるのでしょうか。脳の構造を大きく分けると、大脳、小脳、脳幹の三つになります。大脳は、モノを考える所。小脳は体の運動を指令する所。脳幹は、内蔵の働きの管理など人間の生命を維持する所です。この三つの脳の機能が全部死んでしまった状態を脳死といいます。また、脳幹が死んでしまった状態でも脳死と呼ぶ専門家も多いです。脳幹は人間の生命を維持する働きをしているので、脳幹が死ねばまもなく大脳も死んでしまうというわけです。
■どうして脳死が起きるのか
脳死というのは、実はめったに起きないものです。普通の人が死ぬときは、まず心臓が止まり、血液が酸素を運ばなくなるため、続いて脳が死にます。つまり、ほとんどの人は心臓死が起きてから脳死が起こります。ところがまれに、脳死が先に起きてから、やがて心臓が止まる人がいます。この、脳が死んで心臓が止まるまでの間を脳死といいます。脳死が起きるようになったのは、人工呼吸器が発明され普及したためです。
交通事故などで頭を強く打ち、脳を損傷した人に人工呼吸器をつけると呼吸を続けられるので、心臓は動き続けます。しかし、脳は損傷しているので、もう元には戻りません。これが脳死です。脳死が起きるようになったのは、人工呼吸器が発明されてから後のことです。つまり、医療技術が発達したゆえに発生した問題なのです。
■なぜ脳死が問題になるのか
重い心臓病の人の中には、心臓移植をすれば助かる可能性の人がいます。「脳死は人の死」という基準ができれば、心臓移植が可能になります。一度止まってしまった心臓は、他人に移植しても動きません。しかし、生きている人から心臓を取ってしまっては殺人になります。そこで、心臓移植を成功させるためには、「生きた心臓を持つ死体」が必要になります。つまり、脳死を死と考えれば移植ができるのです。そこで、脳死が大きな問題になっているのです。