変わりゆく社会

〜子どもたちの叫び 〜

3年1組15番 杉井 寛栄

2000年3月14日


目次


要約

 喫煙、飲酒、万引き、覚醒剤乱用・・・これらは昔から「非行少年」と呼ばれる小中学生に見られる行動である。このような行動は大人社会に抵抗する子どもたちの叫びであり、SOSのサインであった。しかし現代(いま)、小中学生の犯罪はどんどんエスカレートし、ついに殺人まで犯すようになった。しかも、犯人は俗に「いい子」と呼ばれる子である。少年犯罪を報道する新聞の紙面から「非行少年」たちは姿を消していった。今、一番気を付けなければならないのは「いい子」なのだ。
 この歪んだ社会を改善するために必要なことは大人が子どもたちの心をしっかり理解することであると私は思う。

序章

 喫煙、飲酒、万引き、覚醒剤乱用・・・これらは昔から「非行少年」と呼ばれる小中学生に見られる行動である。このような行動は大人社会に抵抗する子どもたちの叫びであり、SOSのサインであった。しかし現代(いま)、小中学生の犯罪はどんどんエスカレートし、ついに殺人まで犯すようになった。しかも、犯人は俗に「いい子」と呼ばれる子で、近所の評判は「明るい礼儀正しい子。暴力をふるうなんて考えられない。」「明るい性格、目立たないおとなしい子、事件を起こすような子ではなかった。まじめの一言に尽きる。」などといったところである。少年犯罪を報道する新聞の紙面から「非行少年」たちは姿を消していった。今、一番気を付けなければならないのは「いい子」なのだ。今回私は現代社会における子どもたちをとりあげることにした。

 
第一章 いじめとは何か

 なぜこのような世の中になってしまったのだろうか。それには人間関係が大きな鍵を握っているように思う。そこで私は、あえて殺人などの大事件ではなく、最も身近に起こりうる「いじめ問題」に着目してみた。
 動物たちは厳しい自然の中で生き延びるために、あらゆる手段を使って自分より弱い立場をつくる必要がある。自分の命を守るためには、たとえ血のつながった兄弟であっても蹴落とさなければならないのだ。しかし、社会の中でルールに守られて生きている人間が、いじめをする目的は何なのか。そもそもいじめとは一体何なのだろうか。
 ピータ・K・スミス/ソニア・シャープの『いじめにとりくんだ学校』(ミネルヴァ書房)にはこのように書かれている。
「もし、ある子(少年・少女)が、他の子(少年・少女)やグループに、いじわるいことや不愉快なことを言われていたら、その子(少年・少女)はいじめられている、いじわるをされていると言います。人をたたいたり、蹴ったり、脅したり、部屋の中に閉じこめたり、いやなことを書いたメモを送ったり、みんなで無視したりすることもいじめになります。こうしたことは、頻繁におこることがあり、いじめられている子(少年・少女)は、自分を守ることが難しくてできません。いじわるなやりかたで、繰り返し人をからかうこともいじめです。
 でも同じくらいの強さの2人の子(少年・少女)が、時々殴り合ったり、口論したりするのは、いじめではありません。」
 私の考えも基本的にはこれと同じである。ただ「いじめ」とは特定の行為を指すのではなく、ある行為を受けている側が精神的もしくは身体的にひどく傷つけられたとき、その行為が「いじめ」と呼ばれるのであろう。一般的に暴力や言語などで直接相手を傷つける行為が「いじめ」として大きく問題視されているように思える。小中学校で学校側が見つけて対処できているのはせいぜいここまでではないだろうか。直接的な「いじめ」は男子生徒の間によく見られているが、学校側が見落としがちなのは無視や仲間はずれといった間接的な「いじめ」である。これらは女子生徒の間によく見られる行為であるため、女子による「いじめ」が発見されにくいというのが現状である。
 大原健次郎著の『子どものための精神医学』(講談社)には、「いじめは人間だけに起こるものではなく、動物や植物にも仲間をよくいじめるやつがいる」といったことが書かれているが、これはおかしいと思う。なぜなら、動物や植物が行っていることは自然界で生き延びる為の命がけの戦いだからである。これらの行動は本能として植え付けられているものであり、私たち人間が食事や睡眠、排泄をするといったように、生きて行くうえでしなければならない行為なのだ。それに対して人間は、社会の中でルールに守られて生きているのになぜいじめをする必要があるのでしょうか。
 私は、世間一般で「いじめ」とはどのようなものなのかを知る為、1999年12月中旬に資料1のようなアンケートを実施した。
 できるだけ正直な意見を述べてもらうため、無記名式にし、より幅広い年齢層でアンケートが実施できるように、町内で行われたクラシックコンサートで用紙を配布するという大規模な調査を行い、本校の先生方と近所の方々にも協力していただいた。回収率100%とはいかなかったものの、中学生から70代の方まで計101名の意見を伺うことができた。

 
第二章 アンケートの分析

 以下は、直接今回の論文に関わるQ.4からQ.12までの調査結果を集計し、Q.4からQ.7およびQ.10をグラフ化したものである。 Q.4 現在小中学校でいじめが起こっていると思いますか

Q.5 その数は昔に比べて増えていると思いますか

Q.6 小中学校時代いじめを見聞したことがありますか

Q.7 そのときどうしましたか (48人中)
(1)いじめに加わった(2)見て見ぬふりをした (3)先生に言った (4)いじめられている子を助けた (5)その他

Q.10 いじめをする理由は何だと思いますか(複数回答あり)
(1)その子が嫌い(2)ストレス発散 (3)自分より弱い立場をつくりたい (4)自分がいじめられないように (5) 人から「いじめろ」と言われて (6)その他

●分析結果
1.元不良少年の意見
 今回のアンケートで私が最も関心を持ったのが「元不良少年」の意見である。彼は子どもの心がゆがんでいる原因は「TVゲーム」にあるという。確かに「TVゲーム」が子どもに与える影響は大きい。ゲームの世界では一度死んだ人間が生き返る。これに加えて、現代の小中学生の大半が核家族で育っているため、人の死に直面したことがない。つまり、現代の子どもたちは人の命の尊さをわかっていない。だから平気で人をいじめたり、人殺しをしたりできるのだ。
 さらに彼はQ.12の 「現代社会又は学校でどんな子が『良い子』といわれていますか」という問で「ねくらなやつ」と答えている。言葉は悪いがすばらしい意見だと思う。自分の意見をもたずに、又は自分の意見を口に出さずに、黙って席に座っている生徒が学校では「いい子」と呼ばれ、思ったことをすぐ口に出す活発な生徒は、少しでも先生に抵抗すると「悪い子」とされるのだ。このような学校側の考え方は改善していくべきである。

2.協力してくれなかった恩師たち
 最近、学校側もいじめ問題について真剣に取り組んでいるときいていたが、それが真っ赤なウソだということが身にしみてわかった。
 私はこの論文を書くにあったって、小中学校の先生方にも協力していただこうと思い、両校に電話連絡をした。小学校の教頭先生は「とりあえずそのアンケートを持って学校に来て下さい」という返事をされたので、直接行ってみたのだが、アンケートの内容を見るや否や校長先生共々言葉を失ってしまった。「くれぐれもうちの学校の教員だとわからないようにしていただかないととてもじゃないけど協力できません・・・」などとしつこく言われ、私は失望した。「とりあえず検討しておく」とのことだったが、連絡方法も伝えずに何を検討する気でいるのか。私は返事など期待していなし、返事をもらえなかったことを残念にも思っていない。逆に、小学校教員の実の姿を見ることによって、きれいごとを書き並べたアンケートを回収するよりも貴重な経験ができたことに満足している。
 中学校のほうは「アンケートは原則として禁止しているので個人対個人の交渉で」という条件のもとでアンケートの配布を行った。先生方は皆こころよく引き受けてくださった。しかし、約束の日に回収に行ってみると、そのときの笑顔はどこにもなっかた。皆すごく忙しそうにしていて、私のほうなど見向きもしなかった。ある先生に声をかけると「あぁ忘れてたわごめんな。ほんまに悪いな。」このように必死に謝ってくれる先生を私は責めてはいない。中には「書いてないよ。見たらわかるでしょ。この忙しいの・・・」と約束を破っているくせにあたりまえのように答える人もいた。私が卒業生だからなのか、それとも在校生にもこのような冷たい態度をとるのか。私は信じられなかった。あんなに慕っていた先生が、生徒よりも仕事を優先するという実態にぶち当たった私は、他をあたるのはやめてそのまま学校を出た。もし、私がアンケート目的の卒業生ではなく、いじめに悩んでいる生徒だったとしたら、人間不信に陥り、不登校になっていたに違いない。
 現代の子どもの心がゆがんでいる原因のひとつにこのような教師の現状があげられるだろう。また、教師一人一人が父親、母親であるように、家庭において、仕事に追われ子どもとのコミュニケーションを失いつつある親にも問題があると思われる。私は母が専業主婦で父も自営業だったため、小さいころ親と過ごす時間が比較的多かったが、今はほとんどの家庭が共働きで子どもと過ごす時間が少なくなっていることが非常に残念である。それにともない親の手抜き育児も目立ってきているように思われる。現に、アンケートでも「親の子育てに問題がある」という意見が圧倒的に多かった。

3.総合結果
 総合的にみて、このアンケート結果は正直言って予想外であった。まずQ.5でいじめの数が昔に比べて増えていないという人が10%近くいたことである。これによって私は大きな盲点に気づくことができた。いじめは増えつづけていると勝手に思い込んでいたが、それは、最近になっていじめ問題を大きく取り上げているだけであって、本来人目につかない所で起こるいじめが増えたか減ったかなどということはそう簡単にわかるものではないのだ。Q.6で小中学校時代にいじめを見聞したことがない人が半数を超えていること、Q.7でいじめられている子を助けた人が最も多かったことも意外であった。こんなにたくさんの人が助けているならいじめなんてとっくになくなっているのではないかとも思うのだが。
 私はこのアンケートでQ.11とQ.12で良い子の定義を聞いているが、そこでの「いい子」の違いに注目をおいてみた。まずQ.11は「あなたにとって『いい子』とはどんな子ですか」すなわちこれが本当の意味で社会に認められる「いい子」というわけだ。主な回答としては「善悪の区別がつく子」「素直な子」「明るい子」「思いやりのある子」などがあげられる。とにかくすばらしい人物像の集まりだ。これに対してQ.12は「現代社会又は学校でどんな子が『いい子』と呼ばれていますか」という問いである。私の問題の出し方が悪かったのか、本当に心からそう思っているのか、Q.11と同じような答えを書いた人も数人いた。しかし、ほとんどの人が私の期待どおりの回答をしてくれた。「勉強ができる子」「大人(親・教師)の言うことを何でもきく子」つまりここでいう「いい子」とは私が冒頭で述べた「いい子」すなわち凶悪犯罪を行う子どもということになる。
 現代の子どもたちの心が醜く、小さく、弱くなっているのはこのような社会に原因があるといえるだろう。

 
第三章 紙おむつのワナ

 現代の子どもたちの「キレる」という現象は一体何なのか。何がそれほどまでに子どもたちをイライラさせているのか。
 日本は世界大戦敗戦後、平和で平等な社会をつくりあげ、国民の生活は大きく変わってきた。戦後10年間で見事な復興を成し遂げ、贅沢を知り、使い捨てを覚えた。
 「紙おむつ」は1970年に登場し、その後様々な工夫が凝らされ、どんどん漏れない便利な形に改良されていった。しかしここで問題になってくるのはこの便利さは赤ちゃんのためにあるのではなく母親のためにあるということだ。赤ちゃんはおしめかぶれをおこして毎日嫌な思いをしているのだ。昔は布おむつをしていたため、おしめかぶれを起こしている赤ちゃんはいなかったそうだ。ところが、「紙おむつ」は紙(パルプ)ではなくポリプロピレンという化学物質からできているため、空気を通しにくく、湿気もあるためおしめかぶれをおこしやすい。そして赤ちゃんは毎日イライラしているのだ。人間の脳は生まれて8ヶ月から3才になるまでに約80%形成されるといわれている。その時期にイライラして育てるか、穏やかに育てるかが大きな問題である。
 つまり、現代の子どもたちの心がゆがんでいる原因は子育てにあるのだ。そして今、「紙おむつ」で育てられた子どもが子育てをする立場になっている。近頃「幼児虐待」という言葉をよく耳にするが、その原因は「紙おむつ」で育てられた母親たちのイライラにあるというわけだ。その子どもたちが小中学校に通う時代が目前に迫っている。どんな社会になるのか想像するだけで恐ろしい。

 
結論

 私が結婚し、母親となる21世紀の社会が、明るく、子どもが心から笑える場所であってほしいと願っている。そのために、大人たちはかつての日本の大人がそうであったように、子どもたちが何を生きがいにし、何を喜び、何を悲しんでいるのか、子どもたちの心を知る努力をしなければならないように思う。小中学校の教師たちにはもっと柔軟な心を持ってもらいたいと思っている。教師と生徒という縦の関係にこだわりすぎず、「子どもに指導する」のではなく、「子どもと対話する」という形で子どもたちに接してほしい。そして両親は心から子どもを愛し、子どもの言葉に耳を傾けるべきだ。子どもを愛していない親などいないだろうが、時にはその愛情を表に出すことによって子どもは安心するものだ。特に父親にはできる限り子どもとの時間をとってもらいたい。夏休みにはキャンプに連れて行くのもいいだろう。自然の中で自炊をすれば、考える力も養われ、穏やかに大きく育っていくはずだ。もちろん、私に子どもができたら、このようにゆったり育てたい。
 もし、国全体が社会を改善しようとと真剣に考えているなら、社会人の休日を増やすべきだと思う。また、国がそうは考えていないなら、親と教師が国にうったえるべきである。  


 
資料1(アンケート用紙)

お忙しいところすみません アンケートにご協力下さい
( 歳代 男性・女性)

私は「いじめと不登校」(仮)を卒業論文のテーマに選びました。動物なら生き残りをかけて、あらゆる手段で自分より弱い立場をつくる必要がありますが、社会のルールに守られて生きる人間がなぜいじめをするのでしょうか?私は「なぜいじめが起こるのか?」「なぜいじめはなくならないのか?」などという疑問に対して、あらゆる視点から検証しようと思っています。そこで皆様のご意見をお伺いしたいので、お手数ですが以下のアンケートにお答え下さい。

  あてはまる番号に○を付けてください
Q.1 現在小中学校で登校拒否、不登校が増えていることをご存じですか (1)はい (2)いいえ
Q.2 なぜ増えていると思いますか
(1)学校に魅力がなくなった (2)勉強をする目的がない (3)教師に問題がある (4)学校でいじめられている (5)家にいる方が楽しい (6)体調がすぐれない (7)たださぼりたい (8)その他(     )
Q.3 その責任は誰にあると思いますか
(1)親(家庭) (2)教師 (3)本人 (4)学校全体 (5)友人 (6)社会全体 (7)その他(     )
Q.4 現在小中学校でいじめが起こっていると思いますか (1)はい (2)いいえ
Q.5 その数は昔に比べて増えていると思いますか (1)はい (2)いいえ
Q.6 小中学校時代いじめを見聞したことがありますか (1)はい (2)いいえ
Q.7 そのときどうしましたか
(1)いじめに加わった (2)見て見ぬふりをした (3)先生に言った (4)いじめられている子を助けた (5)その他(           )
Q.8 Q.7で(1)、(4)と答えた方に聞きます。具体的にどのような行動をとったのですか
(                    )
Q.9 本当はどう対処すべきだったと思いますか
(1)それで良かったと思う (2)その他(       )
Q.10 いじめをする理由は何だと思いますか
(1)その子が嫌い (2)ストレス発散 (3)自分より弱い立場をつくりたい (4)自分がいじめられないように (5) 人から「いじめろ」と言われて (6)その他(         )
Q.11 あなたにとって「良い子」とはどんな子ですか
(                  )
Q.12 では現代社会又は学校でどんな子が「良い子」といわれていますか
(                  )
何かご意見があればお書き下さい
(                          )
ご協力ありがとうございました
立命館宇治高校3年1組 杉井 寛栄


参考文献

  1. 宮川俊彦 『「なぜ」いじめるのか・いじめられるのか』 学事出版
  2. 吉田脩二『いじめの心理構造を解く』 高文研
  3. ピータ・K・スミス ソニア・シャープ 編 守屋慶子 高橋通子 監訳 『いじめに取り組んだ学校 』 ミネルヴァ書房
  4. イギリス教育省 佐々木保行 監訳 『いじめ・一人で悩まないで』 教育開発研究所
  5. 大原健士郎『 子どものための精神医学』 講談社
  6. 保坂渉 『虐待ー沈黙を破った親たちー』岩波書店
  7. 島崎清海『絵でみる子どもの心・すくすくからだ@』 (株)ルック
  8. ローズマリー・ストーンズ 小島希里 訳 『自分をまもる本 』晶文社
  9. A.Jツワルスキー 笹野洋子 訳 『スヌーピーたちの性心理分析』 講談社

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