安全対策
 原子力施設では放射性物質を外に出さずに炉内に閉じ込めておくこと、そして放射線による周辺への影響がないようにすることを考えています。このため、軽水炉では次の5つの対策を行っています。また、これらの1つ1つが効果を発揮しているかどうかの安全評価も行っています。
 5つとは、適切な立地、通常放出される放射性物質の削減、そして多重防護の考え方にも含まれる異常の発生防止・異常の拡大防止・外部への異常な放射性物質の放出防止です。
 適切な立地とは事故を引き起こすような事態が発生する地点は避けることと公衆(一般市民)との間に距離を確保することです。
 通常の放射性物質の量を減らすために貯蔵タンクでの減衰やフィルター・脱イオン装置での放射性物質の除去を行い基準値以下であることを確認しています。また、発電所の周辺を放射線計測器で観測しています。
 異常の発生を防止するための対策では各部品の設計・原子炉特有の問題・原子炉施設全体、の3つについて考えられています。
 部品の設計では設備や機器は安全解析の中の構造強度解析という方法で、高品質・高性能の余裕を持ったものになっています。これは機器にかかる熱・地震・圧力などを計算してそれぞれの部品が耐えられるかどうか、組み合わせた場合はどうか、繰り返し動き続けて古くなった場合(疲労)はどうかなどについて調べるものです。材料がどのくらいの力でどのように壊れるのかを、また使用する物の内部には穴などがないことを超音波などで確認します。構造では十分な強度があるか、設計や形に問題がないか、穴などがあいた場合やその補強は可能なのかについて確認しています。設備や機器は重要度で4段階にわけられ求められる安全性が決まっています。
 原子炉特有の問題では中性子がぶつかる事で材料がもろくなるためある程度以下に抑えること、原子炉の出力係数がいつでも負であるようにすることについて考えています。
 出力係数が負であるとはもしも出力が増えても同時に自動的に別の働きによってブレーキがかかるということです。これによってどんどん出力が強くなるのを抑えることができるのです。自己制御性といわれる働きです。
 例えば、核分裂が増加すると冷却材の水の沸騰が激しくなってあぶくができ密度が小さくなって減速材でもある水は減速材としての効果が下がり中性子は高速なままで原子核と衝突しにくくなり核分裂もしにくくなる減速材のボイド効果があります。
 また、燃料に含まれるウラン238は核分裂しませんが温度が上昇すると中性子の吸収も増えるので、核分裂が増加して燃料棒の温度が高くなるとウラン238の中性子の吸収も増えるのでウラン235と衝突する中性子は減少し、核分裂は押さえられ出力も低下する燃料のドップラー効果もあります。
 また、原子炉施設は安全確保のためのそれぞれの役割が単純であるほど非常時には安全です。監視装置や自動停止のための装置はそれぞれ独立していてどれかが故障していてもほかの設備がそれだけで働くようになっています。
 そして、運転員の操作が簡単で異常をすぐに発見でき対策が取れるようなものであることが大切です。このため誤動作や誤操作を防止する設計になっています。インターロックシステムは間違った操作を受け付けないもの、フェイルセイフシステムは装置が故障しても安全方向に作動するものです。
 異常の拡大防止・放射性物質の放出防止とは多重の障壁を維持して放射性物質を閉じ込めることです。
 このための対策として、原子炉緊急停止系・非常用炉心冷却系(ECCS)・原子炉格納容器施設などが設置されています。そして、2経路以上の方法で停止や冷却などが行われるようになっています。異常な変化は安全に収束するように、事故となった場合にも止める・冷やす・閉じ込めるという方針で事故が拡大しないようにします。

国の政策
 原子力施設には通商産業省が安全審査を行い設置許可が出されます。基本設計の段階では原子炉等規制法で科学技術庁と通商産業省が専門家の意見を聞き第1次の安全審査を、その後原子力委員会と原子力安全委員会が第2次の安全審査を行いこれをダブルチェック制度といっています。
 また、設計の詳細は電気事業法で安全審査が行われ工事計画の認可が出されます。この安全審査は安全解析という方法でおこなわれます。工事計画の認可を受けたあとも、設備設置時・タービン据付時・燃料装入時・臨界時・工事完了時の各工程で使用前検査が行われます。
 運転開始後は安全性を確かめる定期検査、核物質の軍事利用を防止するための保障措置・核物質防護措置、総合保安管理調査などの調査が行われ、燃料の輸送や廃棄物などにも国が検査を行っています。

立地条件
 原子炉を破壊するような地震・風・降雪・津波・山崩れが過去・将来に発生しない地形が選ばれます。また、火災や航空機の墜落なども考えられています。そして、周辺の公衆との間に十分な距離が確保できなくてはなりません。
 地震は発生の予知はできなくても、過去の地震歴・断層・地質などから発生する地震の規模を想定することができます。また、活断層は直下型地震の原因となるので文献・現地調査・音波検査などを行います。最近は地震のない活断層の上にも原子力発電所は建てません。そして、予想される最大規模の地震と地域ごとに考えられた地震学的に起こりうる限界とされる地震の両方から原子力発電所の設計での基準となる地震動を決定します。
 そして、調査から予想される地震では建物の損傷がないように、敷地周辺の限界と考えられる地震でも安全に運転を停止できるよう耐震設計がされます。
 また、木造住宅は柔らかい地盤の上に、共同住宅や高層建築物はれき層などの固い地盤の上に建っていますが、原子力発電所は岩盤の上に直接建設されます。硬い岩盤の上では地震力の加速度が小さくなり建物にかかる力も2分の1から3分の1になると考えられています。岩盤の様子を調べるために試堀坑という横穴を掘り硬さ、強さなどの性質を試験で調べ敷地全体の地層が一定であるかを調べるため何箇所もボーリング調査を行って安定した地盤かどうかを確認します。
 万が一の事故のとき、公衆に与える影響が少ないよう原子力発電所はある程度の距離をとっています。原子力安全委員会が原子炉立地審査指針を基に重大事故や仮想事故の時の発電所の敷地境界の外側で受ける被曝線量を計算してめやす値を下回ることを確認して判断しています。また、原子力発電所は公衆と300m以上の距離をあけ原子炉立地指針で求めた非居住地域と低人口地帯のどちらをも敷地内にして人が居住しないように、人口密集地帯からは離れるようにしています。

耐震性
 地震が発生した時の建物の揺れや機器にかかる力は大型コンピュータで解析し、一般の建物が耐えられる地震力の3倍の力と最大の地震による力の両方に耐えられるよう耐震設計がされます。一般の建物では横揺れしか考えませんが、原子力発電所では縦揺れも考えます。通常の建築物の約10倍の厚さの鉄筋コンクリート壁をバランスよく配置することで耐震性を高めています。
 また、原子力発電所内に設置された地震計で建物の揺れ方を監視しています。大きな地震が発生した時に自動停止させるための地震感知器設置されています。原子炉圧力容器など重要な機器の耐震性は大型振動台を使って実際に揺らしてテストが行われています。それ以外の設備に関しても設備の材質などから耐えられる力を算出し、これと地震力を比較してその設備の重要度から4段階の基準にしたがって判断して安全性を確認します。

輸送方法
 核燃料の車両輸送には科学技術庁長官、運輸大臣、公安委員会の確認や検査、指導が必要です。科学技術庁では輸送物の外観・収納物・線量当量について基準を満たしているか、運輸省では車両や積載の方法について、公安委員会では輸送経路や日時の計画についてそれぞれ確認証が交付されます。
 輸送時にはパトカーが配備され警備車両がつきます。また輸送する人を輸送従事者と呼びますが、放射線取扱主任者や専門家も含まれ輸送実施本部と連絡を取り合いながら輸送します。
 事故対策として対応マニュアル・放射線測定器・消火器・防護服などを用意してあり、輸送従事者には輸送物の取扱い方法・役割分担・連絡方法などの訓練が行われています。

輸送物の放射線の線量当量の基準値
輸送物表面
2ミリシーベルト毎時以下
輸送物表面から1m離れた位置
0.1ミリシーベルト毎時以下


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