「すわ、かかれ!」
「わあーっ!」
騎馬が、歩兵が、今川の本陣めがけてなだれ込んで行ったものである。
今川勢にとっては、まさにこれは涸れ沢の鉄砲水というやつだ。慌てて
槍や刀で応戦したが、すでに勢いで負けているというのだ。
「食らえ、義元っ。」
真っ先に斬りつけたのが服部小兵太だが、今川の兵に足を払われる。
転んだ小兵太を飛び越えて、毛利秀高が義元の胸を一突き、ついでその首を討ち取った。
「毛利秀高、義元どののみしるし、奪い申したぞ!」

「殿が、殿がやられた!」
本陣の今川勢、たちまち戦意が失せて、うろうろするばかり。
「でかしたぞ、秀高。」
「よーし、引き上げようぜ!」
織田信長、たった二千の兵力で今川四万の大軍に立ち向かい、勝っての凱旋である。
この桶狭間の合戦で、今川義元を討ち取ったとき、信長の頭の片隅にあった天下取りの
夢が、頭のど真ん中に、居座ったものである。