「斬りまするか。では斬りなされ。竹中半兵衛殿は、良いときになくなられたものよ。
このような殿では、先が思いやられるわ。」
と官兵衛は、落ち着きはらって、
「だれが主殺しの汚名をきせようとしたぞ。
汚名をきそうになっていますぞ、と忠告しておるのじゃ。
羽柴秀吉は、すでに勝っている戦に信長公をおびき出し、とちゅうで明智光秀にうちとらせた。
うかうかしていると、世間にこのようなうわさが広まりまするぞ。」
蜂須賀彦右衛門が、やおら秀吉の手から太刀をとりあげ、
「いっこくも早く、備中を引き上げ、明智光秀を討たねばなりますまい。
真っ先にあだ討ちに向かったのは羽柴筑前守秀吉。
ということになれば、あやしいうわさのたついとまもあるまい。」
「官兵衛。許せ。」
秀吉はひとことわびて、
「なるほど、こりゃ毛利にかまっている時ではない。すぐさま都へ、とってかえそうぞ。」
「むろんでござる。今こそは柴筑前守秀吉が天下をとるときと、肝にお命じなされ。」
黒田官兵衛がきっぱりとつげる。
「よし、毛利とはひとまず和議じゃ。彦右衛門。そうそうに安国寺の恵けいと話をつけて参れ。」
秀吉は申しつけた。