「まぁ、そうわめかず、そこに座れ。」
「いやだっ。」
「よいか、忠勝。長久手の戦、見事に勝った。ここで筑前殿を逃がしておくのがまことの勝ちじゃ。」
「分からん!殿の言うことは、分からんわい!」
「よいか忠勝。今筑前殿を討ってみよ。せっかくまとまりかけている日本中が、また麻のように乱れていく。」
と、やさしく諭している家康である。
「わしにはまだ、筑前殿ほどの力はない。わしがここで筑前殿を討ってみよ。
光秀と同じ目に遭わねばならぬ。あまたの大名を敵に回して戦わねばならなくなる。」
本田平八郎がまっすぐ家康を見返し、黙り込んでしまった。
「今わしの代わりに筑前殿が矢面に立ってくれているのじゃ。有り難いことよ。のう忠勝、分かるか。」
若い平八郎、一応納得はしたが、残念な気持ちはぬぐえない。家康の宿願など、分かる年齢ではなかった。