アメリカ大陸と哲学

アメリカ大陸における哲学の始まりは近年に入ってからであると言って良いと思います。それ以前の古代文明においては、原住民達はまだ狩猟と採集によって生活していたので、文明的水準や経済的余裕から見ても思想が躍進的に発達していったということは考えにくいですし、また敢えて哲学を生み出さなくとも、彼らが心の支えとするには宗教だけで十分だったでしょう。

大航海時代にコロンブスがアメリカ大陸を発見し西欧人が入り込んできてから、アメリカの社会は大きく変わります。文明は発展しましたが、ラテンアメリカの人々は迫害されました。

西欧人の移住によって科学は発達しましたが、依然として思想の中心はヨーロッパにあり、アメリカで特に著名な哲学者が現れた記録は見られません。アメリカで思想の学問が発達したのは20世紀です。「民主主義と教育」を著したデューイ、「プラグマティズム」を著したジェームズ、「行動主義の心理学」で有名なワトソン達がいます。また、ドイツ生まれのユダヤ人であるアインシュタインもアメリカに亡命しており、不幸にも原爆の惨禍を引き起こす一因を負ってしまいました。

アメリカは「人種のサラダボール」と呼ばれるほどの他民族国家であり、またスラム問題などを抱えている国でもあるため、労働者の視点から現代社会に対して音楽を通して愛や怒りを訴えたビートルズやサイレンス映画でアメリカの資本主義の人間性無視を批判したチャップリンのような人々も現れました。基本的にアメリカにおける思想の発達は社会批判的です。社会に疎外される若者や新移住者、労働者や黒人と言った人々が思想の中心でした。今はまだ完全に差別が無くなったわけではありませんが、いつかは社会批判的な哲学でなく自由と平等に基づいた哲学がアメリカ哲学の主役となることを願いたいものです。