科学的哲学 ――演繹法と帰納法

  • 演繹法

デカルトの提唱した「演繹法」とは、疑いようのない普遍的原理から論理的推論によって個別の事柄を導く方法のことです。代表的なものは三段論法というもので、大前提・小前提・結論によって事柄を説明します。例えば、大前提で「すべての生き物は死ぬ」、小前提で「人間は生き物である」とすると、結論は「すべての人間は死ぬ」ということになります。

デカルトの思考法は主に

「明晰性」・・・速断と偏見を避け、明晰に判明するものだけを取り入れる

「分析」・・・・問題をできるだけ細かく分割する

「総合」・・・・最も単純で認識しやすいものから始めて順序を追って複雑なものに進む

「枚挙」・・・・見落としのない完全な枚挙を行う

の四つの柱からできています。

このようにデカルトは絶対確実な原理を確立し、そこから物事を考えていく思考法をとり、この演繹法は近代合理主義の出発点となりました。

・帰納法

ベーコンの唱えた「帰納法」とは、観察・実験を通して集めた個々の経験的事実から、それらに共通する普遍的な法則を求めるという方法です。ベーコンは正しい知識を習得するのに障害となる従来の先入観や偏見を「イドラ」と呼び批判しました。

ベーコンが批判したこのイドラには、大きく分けて四つのタイプがあります。

  1. 種族のイドラ・・・人間の本性そのものに根ざし、狭い人間中心の見方から生じる偏見
  2. 洞窟のイドラ・・・各個人の身体的特徴・教育・環境から生じる、その人特有の偏見
  3. 市場のイドラ・・・交際のための言語の不当な使用から生じる偏見
  4. 劇場のイドラ・・・当時影響のあった哲学の学説への盲信や誤った論証から生じる偏見

この四つのイドラをベーコンは批判し、自然や社会に起こる出来事すべてを神の仕業とする非科学的な方法に反対し、実験と実証によって様々な事例を収集し、それらを組み立てながら事実の本質を明らかにしていく思考法をとりました。この帰納法は経験主義に基づいており、この方法によって近代科学が成立したことから、ベーコンは「近代科学の父」とも呼ばれています。

このように、演繹法と帰納法は、一見すると対立しているかのように見えます。しかし、この二つの方法は、科学的に物事を考える際の二つの異なった方法といえます。演繹法と帰納法は、科学における方法としてともに必要なものです。この二つの思考法は現在の科学や数学にも大いに取り入れられています。