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ヨーロッパと哲学 ヨーロッパは哲学発祥の地であり、紀元前7世紀から現代に至るまで、実に多くの哲学者が現れた、非常に長い哲学史を持つ地域です。ギリシア時代の前古典期(前8〜前6)頃は大きな戦争もなかったため、人々の関心は国や政治よりも周りの自然そのものであり、そこから自然哲学が生まれました。しかし、古典期(前5〜前4)のギリシア世界では数あるポリスのひとつであったアテネが繁栄し、人々はポリスの一員であることを誇りに思うようになりました。そのため、人々は「ポリスにとって役に立つ良い人間であること」を心がけ、哲学もその方向へと傾いていきました。アテネには哲学者として非常に有名な三人の人物がいますが、彼らは皆アテネの発展やポリスの一員としての人間のあり方、或いは政治のあり方などを説きました。 ところが、紀元前338年に、フィリッポス2世率いるマケドニア軍がアテネ・テーベ連合軍をカイロネイアの戦いで破ったことによって、世界はヘレニズム世界へと動いていきます。ヘレニズム世界の発展によってアテネをはじめとするポリスは衰退していき、人々の内からポリスの一員であるという意識が消えていきます。そうしてポリスの消滅・ヘレニズム文化の発展に伴い、人々の間に「世界市民主義(コスモポリタニズム)」或いは「個人主義」が広がっていきます。世界市民主義とは世界をひとつのポリスとし、人々は皆世界というポリスの市民であるとした考え方で、個人主義は文字通り一人一人が中心であるとした考え方です。ヘレニズム世界の代表的二大哲学はそれぞれこの二つの思想を背景としています。世界市民主義を取り入れたストア派は理性は世界に普遍的なものとしていますし、エピクロス派は個人主義を反映していました。 その後、マケドニアにローマが侵攻してくるようになり、紀元前30年には完全にプトレマイオス朝マケドニアは滅亡、代わってローマ帝国が台頭します。ローマ文化自体はギリシア文化の継承であったといわれますが、哲学のほうではヘレニズム哲学を継承していました。ちょうどこの時代にキリスト教が誕生したこともあり、禁欲主義を説くストア派哲学の宗教色を深めたものが主流であったようです。 栄華を誇ったローマ帝国もやがて東西に分裂してしまい、東ローマ帝国はビザンツ帝国に、西ローマ帝国はゲルマン人に滅ぼされて諸処の小国家になります。その後教皇を頂点とする教会のヒエラルキア(聖職者位階制度)が完成し、東西ローマ帝国はローマ教会の全盛期を迎えます。一時は教皇の地位が皇帝の地位を大きく上回り、実質的にはヨーロッパ全土を掌握しているのは教皇でした。ですから、5世紀から15世紀頃の哲学は神学と強く結びついており、聖書を解釈しキリスト教の正しさを証明するためのものでした。キリスト教が政治面でも精神面でもヨーロッパ全土を支配していたため、哲学はあまり発達しませんでした。 教皇至上主義や絶対王政を経て、17世紀のヨーロッパは議会主権の政治に変化します。教皇や国王の下で自由な思想・発言を妨げられていた民衆の間に再び哲学が現れます。ベーコンのイギリス経験主義を初めとし、大陸合理論や唯物論などがこの時代に現れました。ベーコンやデカルトはアリストテレスやストア、エピクレス達以来の偉大な哲学者と言っていいでしょう。 18世紀はフランス啓蒙主義やドイツ観念論の下、実に多くの思想家達が現れました。17世紀終わり頃から18世紀、19世紀初め頃までにかけては議会政治が著しく発達した時期であり、民衆たちも長かった絶対王政の衰退とともに自らの権利を主張するようになり、市民革命が相次ぎました。その背景となったのがロックやモンテスキュー、ルソー達をはじめとする多くの思想家達です。ロックはイギリス経験主義者ですが、モンテスキューやルソーはフランス啓蒙主義者でした。ドイツ観念論ではインマヌエル・カントが有名です。彼等の思想は今日の政治体制の中にも組み込まれています。 19世紀は欧米文化が大きく花開いた時代でした。文学方面では古典主義やロマン主義、写実主義、自然主義や象徴主義などが生まれました。ゲーテやシラー、ホフマン、ハイネ、ドエトフスキー、イプセン、メーテルリンクらが活躍しています。この時代はロシア文学の最盛期でもありました。美術方面でも実に多くの画家が生まれ、文学同様ロマン主義や写実主義、自然主義のほか、印象派の人々も活躍しました。ドラクロワやマネ、モネ、ルノワール、ゴーギャンにゴッホといった人々がこの時代の代表的美術家です。19世紀の美術はフランスを中心に発展しました。音楽は古典派のベートーヴェンやロマン派のシューマン、ショパンをはじめ、国民楽派のチャイコフスキー、後期ロマン派のワーグナー、印象派のドビュッシー等が活躍しました。哲学でも多くの学派が現れました。観念論のヘーゲルや唯物論のマルクスおよびエンゲルス、世紀末思想のニーチェ、実存主義のキルケゴールたちをはじめとし、功利主義や実証主義、虚無主義、現象主義の人々も活躍しています。思想方面では社会契約論や啓蒙思想を受け継いだ初期社会主義思想や無政府主義も生まれました。学問では経済学、歴史学などが盛んに行われ、古典派経済学、歴史学派経済学、近代歴史学、歴史法学などが発達しました。その他科学研究や製造・通信・交通などの技術も大幅に進歩しました。 20世紀は世界的に社会構造が進歩し、世界中で様々な文化が発達しました。特に20世紀は大きな戦争が続いたため、戦争をテーマにした作品が数多く残されています。ピカソの「ゲルニカ」などがその代表です。思想方面でも多くの人々が活躍しました。サルトルやハイデッガー達がその代表といえるでしょう。経済学や歴史学、社会学、心理学、自然科学なども発達しました。フロイトやレーニン、ケインズ、アインシュタイン等はそれぞれ心理学や経済学等の方面で活躍した人物であり哲学者ではありませんが、偉大な思想家であるといえるでしょう。これからも多くの哲学者達が登場し、活躍するであろうことが期待できるでしょう。 |
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