イスラム世界と哲学

イスラム世界は実に多くの王朝が興っては滅びた世界です。ササン朝に始まりウマイヤ朝やアッバース朝、サーマーン朝やセルジューク朝、マムルーク朝、ムラービト朝など、様々な王朝が興亡しました。イスラム世界は中国とヨーロッパとの間に位置していたため、様々な人種や文化が混在し、東西の商人が行き来する豊かな地域でした。その為アラブ人やトルコ人、イラン人、ベルベル人、モンゴル人など、様々な民族が次々に国を興しては滅ぼされることになったのです。

イスラム世界には様々な国が興りましたが、概してイスラム世界の文化は紀元7世紀頃の世界では最高水準を誇っていました。イスラム教という宗教が非常に大きな力を持ってはいましたが、その高い文化水準のためにイスラム世界には科学的・合理的文化が発達していました。その一方で古典文化にも力を注いでおり、それは後のルネサンスの原動力ともなりました。10〜11世紀にはイブン=シーナー及びイブン=ルシュドがプラトン・アリストテレスの哲学を研究し、ヨーロッパに影響しました。

その後イスラム帝国は滅び、一時イル=ハン国の支配を受けた後、オスマン帝国が興ります。長くオスマン帝国の繁栄が続いた後にエジプトやイラン、イラクなどの諸国に分裂して独立しました。現在は7世紀頃のように主要先進国と呼ばれるほどの生活水準はないにしろ、原油の採れる地域として非常に重要な地域です。とはいえ、やはり生活は苦しく、多くの人が飢えと貧困に苦しみ、戦争の恐怖や不安を抱えながら暮らしています。人々がゆっくり自分のことや周りの世界のことを考えられるような平和な世界になるまでは、イスラム世界における哲学の新たな発展は難しいかもしれません。