【知恵くらべ】


むかしむかし、梭白というお金持ちがいました。梭白は毎月15元で阿朱尼という若い農夫をやといました。

梭白は、「賃金は一年分まとめて払う」といって、すぐに穀物の植え付けを命じました。阿朱尼はせっせと畑を耕し種をまいて、春から収穫を終える秋まで毎日忙しく働きました。

収穫を終えると、梭白は阿朱尼に山の木を切って新しい家を建てるようにと命令しました。阿朱尼は斧をかついで山に登り、木を切って、新しい家を建て終わりました。

そうした頃にはもう一年二ヶ月も経ってしまっていたのに、梭白が賃金を払う気配は一向にありません。


梭白は新しい家ができると、そこで村のお金持ちや有力者を招いて祝宴を開きました。阿朱尼はその人たちの前で梭白に、「だんなさん、私はもう一年と二ヶ月もあなたの所で働いたんです。どうか前に約束した通り今まで働いた分の賃金を払ってください」といいました。

それを聞いた梭白はフフンと笑いを浮かべていいました。「阿朱尼、賃金はきっと今日清算する。だがその前にもう一つ仕事をしてくれ。それがうまくいけばお前に二倍の賃金を払う。でもできなければ賃金は半分だ」

阿朱尼は心の中で梭白の意地悪な企みに腹を立てました。けれども賃金をもらうために我慢して、「どんな仕事か言ってください。一所懸命やりますから」と言いました。

すると梭白は「今日は十五夜だ。月が大きくて明るいじゃないか。お前の本領を発揮して客人の前で空に光る月を捕まえてきなさい。成功すれば二年分の賃金をはらう」と言って、心の中で密かに阿朱尼に渡す給料を半分にできると笑いました。

阿朱尼はとてもくやしくて歯を食いしばりました。でも、阿朱尼は機転を利かせ梭白の企みの逆手を取って、明るく「いいですよ、でも私が月を大きな盆に捕まえたら、だんなさんは月を盆から取り出せますか?」と言いました。

すると梭白はいばって「笑わせるな、お前が月を盆に捕まえられたら、わしは絶対に月を取り出してみせる」といいました。





「本当ですね?」と阿朱尼が聞きかえすと梭白は「わしも男だ、約束は守る。この祝宴の客人が証人だ」とまじめな顔つきで言いました。

すると、阿朱尼も「だんなさん、物見台に行ってください。私が月を捕まえてみせます。もしもできなかったら賃金は一文もいりません!」といいました。




阿朱尼が月を捕まえるというので、村の人々は面白がって、梭白の家の前へ老若男女が集まってきました。

夜になると、阿朱尼は竹ひごで編んだフタのついた焼き物の盆を物見台に置いて、梭白に約束事を皆の前で繰り返させました。すると梭白は「早く始めろ、わしはお前がどうやって空に上って月を捕るのか見たい」と意地悪そうに言いました。

すると阿朱尼は袖をまくって両手を空に向かって伸ばし、空をつかんで体を返して盆のふたを開け、ひょいと中へ物を投げ入れる格好をして言いました。
「だんなさん、月を盆の中に捕まえました。さあ見てください」




梭白が盆に近づいて覗いてみると、中には確かに満月が明るく光っています。梭白は驚いて盆の中の月をすくい上げようとしましたが、手が濡れるだけでした。満月は、阿朱尼の持つ盆の水面に写っていたのです。

そうと分かると梭白はずる賢く「月を新しい家に持って行ってくれ、わしは家の中で捕まえた月を客人たちに見せたいのだ」といいました。




阿朱尼はひるむことなく、水を張った盆を持って梭白の新しい家の中に行くと、「あれれ、月が逃げてしまった、ちょっと待ってください、また捕まえてきます」と言うと、スルスルと先日立て直したばかりの梭白の家の屋根に上り、のこぎりで屋根に大きな穴を開けました。そうすると、満月はその穴を通って再び盆の中に写りました。

そして阿朱尼は屋根の上から「だんなさん、盆の中に月はありますか、なかったらもう少し穴を大きくします」と言いました。

それを見た梭白は慌てて、「やめろ阿朱尼、新しい家に穴を開けるのは縁起が悪い、早く穴を塞げっ!」といいましたが阿朱尼はなおも「だんなさん、月はありますか」と聞きます。すると梭白は力なく「一年二か月分の給料を払うからもうやめてくれ」と言いました。そして阿朱尼が「だんなさん、また嘘をつくのですか?二年分の給料を渡すと言ったじゃないですか!」というと「やる、やる、男はやるといったら必ずやる」といって梭白はがっかりしながら、しぶしぶ二年分の賃金を数えて阿朱尼に渡しました。

阿朱尼は喜んで、「だんなさんは全く言ったことを守る人だ、この次も仕事があれば私がやります」というと梭白は苦笑いしながら「わかった、わかった。この次もお前を頼むよ」といいました。