【福の神】

幼いころ、ある老人から聞いた話をしましょう。
毎年大晦日の夜中には、福の神が天から降りて、家々をめぐり、一軒一軒暮らしぶりはどうかと見てまわります。
だから大晦日には大人も子どももみんな新しい着物や新しい靴を身につけ、夜にはきれいな提灯をともし、爆竹を鳴らして、福の神に貧乏なら来年は金持ちに、金持ちであればもっと金持ちに運を変えてくれるようにお願いをするのです。
盛京城の東のはずれに、母と息子が暮らしていました。息子は李小といって、二十歳を過ぎたやさしい青年でしたが、とても貧乏だったため、まだ所帯が持てませんでした。母は、そんな息子に良い嫁を貰ってやりたいと思っていましたが、暮らしはよくなりませんでした。二人は、米も小麦粉もなかったので豆腐のおからと米ぬかを混ぜた饅頭で過ごすほかはありませんでした。
李小は、「今年も大晦日だというのに働いたお金も全部借金を返すために使われ、一文もなく母をろくに養うこともできない。」と情けなく思い、「どうやって福の神を迎えればいいんだろう。」と悩みました。母も、「大晦日の晩に何もしなかったら福の神が来ないかもしれない。そうしたらまた来年も息子に嫁の話が来ないではないか。」と嘆きました。
すると母は、しまってあった古い着物を取り出して李小に言いました。「この着物はおまえの父親が生きていたときに一度着ただけだから町に行ってこれを売り、爆竹と蝋燭を買ってきておくれ」
李小は「うん」と答えると、それを売りに行きました。着物は20文になりましたが、李小は「これだと爆竹と蝋燭以外には買えない…母に何年も食べていない餃子をつくってあげよう」と思い、そのお金で肉を二切れと、餃子の皮にするためのそば粉を買って帰りました。
家へ帰ると、母は「李小、爆竹と蝋燭は買ってきたかい、お供えのお饅頭はあるかい」と聞きました。李小は、「いつもよりたくさん買ってきたよ、それにお饅頭もいっぱいあるよ」といって、おからで作った饅頭を十五個も並べ、松の根を蝋燭のように灯しました。そして李小は、「おっかさん、今年は福の神が真っ先にうちに来てくれるように早く爆竹を鳴らそう」といって外に行き、太い竹筒を棒でパンパン叩き、近所の爆竹が鳴り出すと負けずにもっと強くたたきました。
ふと見てみると、そばに乞食が倒れているではありませんか。まだ息をしている乞食を見て李小は負ぶい、「福の神をつれてきたよ」といって家へ入りました。
そして李小は乞食を寝かしました。すると足から血が出ているではありませんか!李小と母は傷口を拭い、手当てをしてあげました。
しばらくすると、乞食は目を覚ましたので母は暖かいお湯を用意し、餃子を食べさせました。すると乞食は、助けてもらったお礼を言い、「私は山東省にいて小作人の父をもっていましたが病気で亡くなってしまい、地主は借金を返せと取り立ててくるので暮らしていけなくなり、母と二人で乞食の生活を送っていました。この前母も病気になり亡くなってしまったのでお寺に行って埋葬するための高粱(こうりゃん)を二本もらおうとお金持ちの家に行ったのですが、大晦日にとんでもないやつだ、縁起でもないと追い払われ、その時犬に噛まれてしまったのです。」と泣きながら話しました。
乞食は「あなた方のおかげで命が助かりました、どうしたらこのご恩をお返しできるでしょう」と言いましたが、母は「そんなことは気にしなくてもいいよ、誰でも災難のない人はいないのだからね。さあこの着物を着替えなさい」と言って李小の服を出しました。ですが、李小の前では乞食は
着替えようとしませんでした。
さて、福の神は今年も地上近くまで降り、家々で鳴らす爆竹の音などを聞いて楽しんでいました。そのとき、他の家より大きい饅頭が目にとまり、まずそこに降りていきました。それは李小の家でした。そして貧乏なのに乞食を助けている李親子を見て、福の神は「この家は心が優しい」と背負った袋から”財運”を出して、そっと置いていきました。
ところで、李小の家の中では、乞食がどうしても着替えようとしないので母は出した着物をしまい、「ゆっくり休んでから行くといい」と言いました。そして乞食は少し考えてから「こちらにはまだお嫁さんはいないのですか」と聞きました。「貧乏でお嫁さんどころじゃないんだよ」と母が答えると、乞食は膝をついて座りなおし、「あたしをお嫁さんにしてくれませんか」と言いました。母は「えっ!あなた女なの!?」と驚きました。
乞食は娘でしたが、男のなりをして放浪していたのです。李小と母はそれを聞いて喜び、「貧乏だけどいいのかい?」と聞くと娘は「かまいません、心が優しい人ならいいのです」と言いました。それを聞いて「今晩は福の神は来なかったがお嫁さんが来た」とたいそう喜びました。
それから李小の家には不思議と運が向いてだんだんと豊かになり、幸せな日々を送ったといいます。
