免疫学

ジェンナー 天然痘
天然痘とは、天然痘(痘瘡ウイルス)感染によって引き起こされる病気で、
高熱と、全身の皮膚や粘膜に水痘様発疹が現れる悪性伝染病である。
天然痘がヨーロッパで大流行したのは18世紀はじめ。
人類の人口が4分の1まで減ったと言われている。
ジェンナーはイギリスの外科医であった。
彼は天然痘の感染を経験しているとき、牛の乳絞りをしている人たちは天然痘に感染しづらいことに気がついた。
彼は乳絞りの人たちは天然痘に似ている牛痘(vaccinia virusでかかる牛の病気)に触れているので、
この牛痘の一部をヒトに植え付けたら天然痘にかからなくなるかもしれないと考えた。
そこで実際に牛痘の一部を8歳の少年、ジェームスフィリップに移植してみた。
その結果その少年をはじめ、子供たちは天然痘に感染しなくなった。
これが種痘と呼ばれるものである。
しかしジェンナーは、なぜこのような処置で天然痘に対して抵抗力がつくのかを科学的に予想することはできなかった。

免疫学の創始者 パスツール
パスツールはフランスの天才科学者であり、微生物学・免疫学者であった。
専門は発酵化学で、自然発生説を実験的に否定し、病原微生物の存在も証明した。
「自然発生説の実験的否定」とは、S字状に首を曲げた形(スワインネック)のフラスコにブイヨンを入れ、
空気中の雑菌が入らない状態にすれば、ブイヨンが腐らないことを証明し、
親がいなければ子はできないように、微生物も親から子が生まれるのであって、
自然に発生するものではないことを証明した。
その上で細菌の純培養法を確立した。
パスツールはコッホとともに地球上の細菌を発見した。
他にパスツールは、弱毒菌による鶏のコレラの感染予防能を発見しそのワクチンを発見した。
1881年5月、
「ニワトリコレラの公開実験」を実施した。
炭そ菌を30頭の羊と5頭の牛にワクチン(弱毒菌)として注射
約一ヵ月後、今度は70頭全部に生菌を注射した。
すると、ワクチンを打たなかった羊と牛は全部死亡し、ワクチンを打った方だけが病気にかからなかった。
だが、彼は免疫の仕組みについては明らかにすることはできなかった。
考察するところ、彼はこの抵抗性を、
「はじめに弱い菌を投与すると、この菌は増殖できないが、ニワトリの血液中の菌が増えるための栄養素を食べてしまう。
そこに強い菌が入ってきても、増殖するための栄養素がないので、菌が死んでしまう。」と考えていたようである。

ベーリングと北里柴三郎
北里柴三郎は1853年熊本県で生まれた医学者・細菌学者である。
1889年、ドイツの医学者エミール・フォン・ベーリングとともに
破傷風菌を発見し、
さらに独自に考案した装置で破傷風菌の純粋培養に成功した。
1890年には北里とベーリングは共同で、ジフテリアと破傷風の抗毒素(anti-toxin)・抗体(antibody)を発見した。
さらに北里は破傷風の血清療法の確立もした。
血清の発明は、ワクチンなどの開発に応用され、免疫学の礎を築いた。
1894年、北里は調査に行った香港でペスト菌を発見し、
1901年、第一回ノーベル賞候補になるが、彼が黄色人種であることから候補からはずされた。
このとき、ベーリングはノーベル生理学・医学賞を受賞した。
北里柴三郎はその功績が称えられ、「日本近代医学の父」と言われている。

メチニコフ
メチニコフは食細胞の発見をしたロシア人科学者で
「顕微鏡おたく」と言われている。
いつものように彼が顕微鏡を覗いていると、細胞が異物(墨汁)を取り込む(食べる)のを観察した。
この現象は「貪食」と呼ばれるもので、この貪食能を持つ細胞を「食細胞」と言う。
メチニコフはさらに、免疫の原理は白血球や組織球と呼ばれる細胞がばい菌を食べてしまうことを考えた。
その結果、細胞性免疫の原理を発見した。
細胞性免疫の原理とは抗体ではなく、細胞が媒介する免疫反応。
例としては、ツベルクリン反応として知られていた遅延型過敏症がある。
この発見によって彼は1908年ノーベル賞を受賞した。

免疫学とノーベル賞
ベーリング、北里、メチニコフらによって免疫の概念が確立した。
その後、多くの研究がなされ、免疫の仕組みが明らかになっていき、
これらの業績が称えられ多くのノーベル賞受賞者を輩出した。
- 1901 ベーリング 血清療法
- 1908 エールリヒ 側鎖説
- 1908 メチニコフ 食菌作用
- 1912 カレル 臓器移植
- 1913 リシエ アナフィラキシー
- 1919 ボルデ 補体結合反応
- 1930 ランドシュタイナー 血液型
- 1960 バーネット 免疫寛容
- 1960 メダワー 免疫寛容
- 1972 エーデルマン 抗体の構造
- 1972 ポーター 抗体の構造
- 1976 プランバーグ オーストラリア高原
- 1977 ヤロー ラジオイムノアッセイ
- 1980 べナセラフ 主要組織適合抗原
- 1980 ドーセ 主要組織適合抗原
- 1980 スネル 主要組織適合抗原
- 1984 ヤーネ 免疫理論
- 1984 ケーラー モノクローナル抗体
- 1984 ミルステイン モノクローナル抗体
- 1987 利根川進 抗体遺伝子
- 1990 トーマス 臓器移植