スペイン風邪

90年前の新型インフルエンザ


スペイン風邪による死者数は記録に残る戦争、飢饉、疫病等の
短期間の死者すべてを上回る史上最大のものでした。

多くの国ではスペイン風邪並みのパンデミックが起こった場合を想定して
新型インフルエンザ対策が考えられています。
そのため、スペイン風邪を知ることは、
次の新型インフルエンザのパンデミックに対する心構えとしてとても大切なのです。

スペイン風邪と第一次世界大戦


H1N1型の新型インフルエンザ、スペイン風邪は、
第一次世界大戦中である1918年から1920年にかけて全世界にパンデミックを引き起こしました。

この時の世界人口18億人のうち、5億〜10億人もの人が感染、
4千万〜8千万人が死亡したと推定されています。
この死亡者数は、第一次世界大戦の全戦没者1千万人の数倍にものぼります。

第一次世界大戦中、ドイツ軍の勝利が目前とされていた時期にスペイン風邪は突如現れたのです。
特にドイツ軍の被害は甚大で、多くの兵士が亡くなりました。
そして、劣勢だった連合国軍にアメリカの援軍が到着し、連合国軍の形勢逆転。
ドイツの降伏をもって休戦協定が結ばれたのです。

しかし、スペイン風邪の記録に残されている最初の患者はアメリカで出たのです。
また、アメリカ軍の全戦没者の80%はこのスペイン風邪によるものだったのです。

では、なぜ「スペイン風邪」と呼ばれるようになったかというと、
当時、中立国だったスペインでは報道規制がなかったため、
自国での大流行が世界中に知れ渡ってしまいました。
しかし他の参戦国は戦時下ということで報道規制が敷かれ何も報じられなかったのです。
そのため、当初世界各国で、スペインだけで流行しているものだと思われ、
「スペイン風邪」という名前がついてしまったのです。

スペイン風邪の猛威


スペイン風邪には通常のインフルエンザとは違う特徴がありました。
高齢者や子供などのハイリスク群とされる人たちだけでなく、
健康な若い年代からも多くの犠牲者を出しているのです。
25歳〜30歳という若い層が圧倒的に多かったのです。

これは体の免疫機能が過剰反応してしまったため
逆に健康な若者が重症化しやすいサイトカインストームが生じたためと考えられています。

このスペイン風邪は当然日本でも45万人もの死者をもたらしました。
鉄道、郵便、電話網は麻痺し、食料や熱冷ましの氷は通常の数倍の高値をつけたのです。

スペイン風邪の流行によってこのような苛酷な光景が世界各地で見られました。
町には多くの患者があふれ、病院に殺到しましたが、
多くの医師や看護士たちが真っ先に感染してしまい、治療もままならなかったのです。
市民は多くの自由を制限され、社会機能までもが麻痺してしまったのです。

新型インフルエンザ


スペイン風邪のパンデミックは今から90年近く前の出来事で、
当時、人類はインフルエンザウイルスさえ発見できていませんでした。

当時に比べて科学技術も医療も進歩しましたが、
だからといって、スペイン風邪ほどの被害は起こらないと考えるのは間違いです。
むしろ、スペイン風邪のときよりも被害が大きくなる可能性が高いのです。

その根拠を二つ挙げます。

世界人口の増加

現在の世界人口は、90年前と比べ3倍以上に増加しました。
人口密度もそれだけ増えています。
飛沫感染や後期感染で伝播するウイルスにとって、ヒトからヒトへ感染するには、
ヒトとヒトとの距離が近ければ近いほうが都合がよいのです。

交通機関の発達

90年前主力となる交通機関は、蒸気船や汽車でした。
しかし、現代社会では新幹線、自動車、さらに航空機が世界中を飛び回っています。
ヒトの動きはスピード・量ともに飛躍的に増加したのです。
それはつまり、ウイルスの宿主となる人間が、遠距離を高速で移動するということなのです。

スペイン風邪は世界中に拡がるのに7〜11ヶ月かかりました。
現代社会で新型インフルエンザが発生すれば、
たった4〜7日間で拡がってしまい、1ヶ月以内に世界同時に多数の患者が発生するだろうと考えられています。