ミツバチと農業
ミツバチは、はちみつを作り出すためだけではなく、農業にも使われています。
植物は受粉をして種を作ります。植物には、種を作るときに自分の花粉だけでできるものと、別の花の花粉が必要なものの2種類があります。自分の花粉で種を作ることを自家受粉、別の花の花粉を使って種を作ることを他家受粉と言います。他家受粉が必要なものは、昔から様々な手法で他の花と花粉を送り合っています。花粉症を引き起こしている杉やヒノキは、花粉を届けるために風を使っています。大量の花粉を風で飛ばして、別の花にたどり着けるようにしています。しかし、この方法だと花粉が大量に必要になり、無駄が多くなってしまいます。
そこで、誰かに花粉を運んでもらおうとした植物が登場しました。花の花粉を運ぶ生き物を花粉媒介者と言います。花粉を運んで欲しい植物たちは、目立つ色の(人間はそれを綺麗だと感じます)花をつくり、その中に栄養があって美味しい花蜜と花粉をつくり置いておきます。そうして、花粉媒介者たちを呼び寄せます。花粉媒介者が花に止まると、その体に花粉がつきます。その後、媒介者が別の花に飛ぶと体についた花粉が別の花につき、受粉が成功するのです。
イチゴ、スイカ、メロン、アーモンド、ブドウ、ブルーベリー。これらは実をつけるために他家受粉が必要な植物です。人間が育てている作物のうち、およそ70%の種は花粉媒介が必要です。花粉媒介をする虫は、ハナバチやアブがいます。
ハナバチとはその名の通り花の蜜と花粉に頼って生きているハチのことで、世界に約2万種が確認されています。マルハナバチ、クマバチ、ミツバチなどがいます。ミツバチ以外にも、マルハナバチも一匹の女王蜂とその他の働きバチでコロニーを作りますが、マルハナバチはミツバチほど社会性がなく、巣の規模も小さいため、冬には女王蜂以外のハチが全員死んでしまいます。ミツバチとマルハナバチ以外のハナバチの多くは単独行動を取ります。
畑や果樹園にミツバチたちの巣箱を設置すると花の蜜を集め花粉を媒介してくれます。特に、野生の生き物が全く入ってこないビニールハウスでの受粉にはミツバチは欠かせません。ビニールハウスへいちご狩りに行く機会があれば探してみてください。ミツバチの巣箱の近くの木は果物が2倍成るとも言われています。
養蜂家は農家にミツバチを貸したり売ったりしています。外界の昆虫に受粉を頼ることができないビニールハウスが農業で使われ始めた頃から、受粉ビジネスの市場は大きく、アメリカでは大量のアーモンドへの受粉にアメリカ中のミツバチが使われているのですが、その貸出代はアメリカのはちみつの売り上げと同じくらいなのです。
参考文献
『ミツバチの教科書(原題 The Bee Book)』 エクスナレッジ 、2017年
Rowan Jacobsen 『蜂はなぜ大量死したのか(原題 Fruitless Fall)』 文芸春秋、2009年
久志冨士男 『ニホンミツバチが日本の農業を救う』 高文研、2009年
『生物事典』 旺文社、2011年
一般社団法人 日本養蜂協会 ホームページhttp://www.beekeeping.or.jp/