昆虫食の課題

見た目の問題
見た目が気持ち悪いということは食品にとって致命的な欠点です。どんなにおいしいものでも見た目が悪ければ口にすることはありません。
このアンケート結果を見てください。(黒丸は回答の平均値です)

虫の見た目アンケート画像
やはり虫の見た目はとても嫌がられています。
食べるための虫を気持ち悪いと思ってしまうことをどうやって解決すればよいのでしょうか。

まず、なぜ虫を気持ち悪いと思ってしまうのかを考えましょう。
生理的に無理だという方が多いと思います。
しかし、我々はイカやタコという足がいっぱいあって墨をはく得体の知れないものを平然と食べることができますよね?
イカとタコの画像※メンバーが描画

実は、見た目だけでなく複雑に要因が合わさった結果ここまで虫を食べることを嫌悪するようになったのです。


”雑食動物は環境適応能力に富み何でも食べるが、反面、新奇な物を食べることで生死を分けることもあるので、新奇なものを食べるのを避ける傾向がある。
前者を「食物新奇性趣向」といい、後者を「食物新奇性恐怖」という。
(中略)
この両者の趣向の間で揺れる行動傾向を「雑食動物のジレンマ」と呼ぶ。”

内山昭一 著 「昆虫食入門」より引用


この食物新奇性恐怖が、虫を食べることを拒否する大きな心理であることは間違いありません。いわゆる食わず嫌いを生み出すものです。
ではどうすれば緩和できるかというと、できるだけその人の知っている料理に近づけることです。
ただ虫を食べるとなると奥手になりますが、カレー味にするといった工夫をすれば新奇性恐怖が薄れることで手を出しやすくできます。
ふたつ目にできるだけ昆虫食のポジティブな情報を得ることです。肯定的な情報を得ると食物新奇性趣向が働き虫を食べやすくすることが出来ます。
実際に昆虫食に触れる機会が少なかった頃の私は虫を食べたいとは到底思えませんでしたが、今となってはこの虫はどんな味がするのだろうと食物新奇性趣向が働いています。
イナゴの画像 ※メンバーが描画



さらに衛生の概念もネガティブに働いています。
虫は汚いところに湧くというイメージを持っているので虫自体も汚いと思いがちです。
食用昆虫のメインとなるのは養殖昆虫です。これは衛生的に育てられるので、安全なものです。
虫がいるから汚いのではなく、汚いところに虫が現れやすいだけなのです。
発売時には、野生のものではなく衛生的に管理されたものだとアピールする必要があります。

虫は距離感が近いのも問題点です。牛や豚の場合は飼育されている場所にしか居ないですが、虫は至る所に現れます。
現代人は狩猟をして食べ物を得るのでは無く、どこかで作られた食べ物がいくつかの手順を踏んで手元に届くので、身近なものを食べようとは考えにくいのではないでしょうか。

しかし、距離感が近いというのはメリットにもなります。
小学校の教育のひとつである「食育」に適していることです。昆虫は他の家畜に比べ格段に育てやすく※1
育て切った後にこれが大切な命をいただくことなのだと実感しながら食べられます。
これは昆虫食の嫌悪感の払拭にも繋がります。
嫌悪感というのは、実は後天的に獲得するものです
子供は昆虫に対する嫌悪感が少なく、大人に近づくにつれて昆虫に嫌悪感を示すようになります。
また昆虫が嫌いでない人は子供の頃昆虫と触れ合う経験が多い傾向があるようです。※2
したがって、あまり昆虫に嫌悪感を抱かない子供の頃に昆虫食を体験することで大人になっても嫌悪感を抱きづらくなるようにすることが出来ます。
これが昆虫食の普及につながります。



アレルギーの問題
昆虫はエビやカニに近く、甲殻類にアレルギーを持つ人は注意が必要です。
アレルギーは死に直結する可能性もある重大なものなので、昆虫を食べる際には十分な注意を払わなければなりません。※3
1000人に1人ほどの割合で、昆虫に重いアレルギーを持つ人がいるそうです。

また、甲殻類アレルギーが無くても特定の昆虫にアレルギーがある人が稀にいます。メンバーの一人がそうでした。
エビやカニはもちろん、17年の人生でなにを食べてもアレルギーが起きたことはありませんでしたが、コオロギは食べるたびに蕁麻疹が出るので今は食べていません。
昆虫を食べることによるアレルギーは研究が進んでおらず、昆虫のみアレルギーが起こる人間はとても貴重です。

その様な方はぜひ、どの昆虫をどの程度摂取するとアレルギーが起こるかを、情報を求めている昆虫食の専門家にお伝えください。
アレルギーが起こる昆虫を食べ続けることはお勧めしません。エビカニなどの他の食品でもアレルギーが起こるようになる可能性があるからです。
※参考(アレルギーについて) : 合同会社TAKEO(オンラインでお話しを伺いました)

法整備の問題
昆虫食はまだまだ未開の分野ですので、多くの地域では法律が整備されていません。
しかし、他の農産物と同じように円滑に取引ができるようにするには法整備が欠かせません。

食用昆虫は日本では食品衛生法の「新開発食品の販売禁止」に該当するようで飲食物として流通されていない と売ることができません。そしてそれを売ることができるようにするためには保健所の許可が必要だそうです。
また、売ることになっても多くの食品よりも農薬の量などの衛生面を厳しい基準でみられます。

一方EUでは、2018年から昆虫が食品として認定され安全性が認められれば自由に販売・取引ができるようになりました。
食品としての昆虫には今まで販売についてのルールがありませんでしたが、このように明確に規定されることで安心かつ円滑に取引ができるようになります。

価格の問題
現在販売されている昆虫食の多くは日常的に食べる物と比べると高価です。
高ければ消費者は買わないので普及につながりません。
これは量産についての研究を進め、大規模生産をすることで改善されます。
※1.私たちも実際に育てて食べてみました。詳しくはこちら
※2.出典:「虫を気持ち悪がる感情についての発達的検討」 加用文男 中本奈穂美
※3.私たちも昆虫を食べてもらう前には必ずえびかにアレルギーの有無を確認しています
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