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2024年11月、国立環境研究所の大沼学さんに取材させていただきました。
国立環境研究所では「絶滅危惧種の細胞保存タイムカプセル化事業」などといった様々な研究をされています。
①生息域内保全(生息地での保護・保全など)
②生息域外保全 (動物園や水族館などでの飼育など)
タイムカプセル化事業は生息域外保全に入ります。 この絶滅危惧種のタイムカプセル化事業などの遺伝資源の冷凍保存は、以前から絶滅危惧種を保全する方法としては知られていました。そのため、国立環境研究所は、国内で生息域外保全を推進するため2002年よりこの事業に取り組んでいます。環境省もこのような活動の重要性を認識するようになり、2023年に発表された「生物多様性国家戦略2023-2030」では、絶滅危惧種の生殖細胞保存について数値目標が設置されています。
その次に、国内外の絶滅の危機にひんする野生動物を守るためにつくられた、「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」略して「種の保存法」で指定されている国内希少野生動植物種(ヤンバルクイナやイリオモテヤマネコなど448種)をさらに優先してタイムカプセル化事業として収集しています。
また、国際自然保護連合(IUCN)の「レッドリスト」に記載されている生物も同じく優先して収集しています。
まず、メリットについて3点ほど説明しますね。
1つ目は省スペース化できる点ですね。絶滅危惧種を生きた状態で細胞を維持しようとすると大きなスペースが必要となりますが、冷凍保存をすると液体窒素中で保管するものだけでいいので小さなスペースで保存することができます。
2つ目は繁殖する時に動物などを移送しなくていいという点です。例えばサイを繁殖する時に飼育施設から飼育施設へ移動させるとなるとトラックを用意したりするなど大掛かりになってしまいますが、凍結した細胞などを他の飼育施設に移動するとなれば、液体窒素は必要ですが前者と比べて省力化することができます。
3つ目に過去の遺伝的な多様性を持ったものを将来に活かせるという点です。 仮に10年しか生きれない生物がいるとすると、その生物の精子や卵子、細胞などを凍結保存すると50年、100年と長い期間保存でき、その遺伝的な情報を将来に活かすことができます。
次にデメリット・課題についてですが、 まず長期保存において、50年後、100年後に細胞が生存しているかどうかの問題です。少なくとも、私たちが液体窒素を供給し続けた20年間は細胞が生存していることを確認していますが、100年前に細胞を凍結保存した例は存在しないため、理論上は大丈夫と考えられているものの、実際に細胞が正常に機能するかどうかは未知数です。
また、保存には液体窒素を使用し、継続的な供給が必要ですが、液体窒素を作るには多くの電力が必要なため、コストがかかるという課題もあります。ですが、この問題を解決するにあたって、現在は細胞のフリーズドライ技術が開発されています。もしフリーズドライ保存が実現すれば、液体窒素のように高いコストがかからなくなるうえ、大規模な施設も不要となり、さまざまな場所で保存できるようになります。
また、現在は絶滅危惧種の保存を進めている段階だとは思いますが、今現在保存している絶滅危惧種など環境資料はどのタイミングで復活させるのでしょうか?
もちろん、タイムカプセル化事業で保存させた個体を復活させる技術は今後できる可能性はあるのですが、仮にできたとしてももし復活させるかについては「どうしてもこの個体を復活させなければならない」かなどについて充分に議論し、多くの人の同意を得る必要があると思います。
また、生息環境の保全も一緒に行わないと、もし個体を復活させた時にどこに放すのかということになるので、ただ絶滅危惧種の細胞を保存だけをするのではなく、生息環境の保全も一緒に行うことが不可欠だと思います。
私たちも色々な研究を学会で発表したり、論文を書いたりしていますが、一番重要なことはやはりこのように取材対応など数多く行って認知度を上げることだと思います。
また、最後に知ってもらいたいのですが、私たちは単に個体を復活させるためだけに細胞保存を行っているわけではありません。高病原性鳥インフルエンザの感受性評価など、凍結保存した絶滅危惧種の細胞は他の研究にも活用しており、その成果が絶滅危惧種の保全・保護に役立つことを期待しています。そのため、前にも述べた通り、絶滅危惧種の細胞を保存するだけでなく、生息環境の保全など、他の活動や研究も一緒に進めていくことが不可欠だと考えています。
取材に対応してくださった、大沼さん・広報の小田倉さん。本当にありがとうございました!