家庭環境は人の性格形成にどのような影響を及ぼすのか

〜 家族と性格の関係 〜

3年6組20番 西本 尚代

2000年3月14日


目次


要約

 人の性格はどのように形成されるのか、それは大いに興味を持つところである。人の性格形成は心理学という分野上、遺伝による影響と環境による影響の二つに分類される。その環境による要因のうち、私は「家庭環境」が大きく関わっていると思う。社会は日々進歩しているが、家族や家庭はどこまでも豊かな心が存在する。「家庭環境」といっても様々であるが、私は主に「きょうだい」と「両親」の二つに注目し、家庭環境が性格形成に及ぼす影響にはどのようなものがあるのか、ということについて考えてみた。

序章

 自分はどんな性格なんだろう。どうして自分はこんな性格になったんだろう・・・そんな疑問を抱いたことはないだろうか。誰でも一度は考えたことがあるだろう。
 性格、それは私達にとっていちばん身近であり、いちばん分からないものである。「性格とは何か」と聞かれても、うまく答えられなくて頭を抱えてしまうものだ。
 人の性格は、それぞれの顔のように十人十色であり百人百様である。温和な人、人好きな人、明るい性格の人もいれば、鋭い人、攻撃的な人、激しい性格の人もいる。そうかと思えば、あまりにも神経質な、病的な、暗い性格の人もいる。このような性格の違いは、どのように生じるのであろうか。

 
第一章 性格の定義


●性格とは

 性格とは何か。非常に多くの定義があるが、一般には、ある人を特徴づける基本的な行動様式で、持続性とまとまりを持っているものと考えられている。そして、性格は自分が自分であることの現象であり、自分が自分である為の手がかりである。つまり、性格とは人の行動のいわば背後にあって、特徴的な行動の傾向を生み出しているものである。
 しかし、性格という言葉にはさまざまな定義があり、「性格とは何か」ということを明快に定義することは、現在のところの研究では決して容易ではない。しかし、今後さらに研究が進むと性格の定義が今よりもっと明らかになることだろう。


●性格形成の要因

 性格形成の要因は数多くあるが、研究者によってどの要因を強調するかは違ってくる。しかし、性格の形成と発達に関与している要因として、遺伝に基づく要因と環境による要因をあげるのが最も一般的な考え方である。つまり、生まれつきの素質や遺伝と成長の過程で自分のまわりの環境によって人間の性格は形成されるのである。
 この性格形成の要因も未だはっきりしない状態であるが、自分を取り巻く環境によって大きく左右されると私は考えた。環境による性格形成、一言で言うと漠然としたものであるが、たくさんの意味を持っている。その中でも、私は家庭環境が性格形成に大きく関わっていると思ったので「家庭環境が子供の性格に及ぼす影響」について考えてみた。

 
第二章 きょうだい関係と性格


●きょうだいの意味

 きょうだいは生まれてから20年近く生活を共にすることになる。その影響は決して小さいものではない。では、きょうだいの関係は私達の成長過程でどのような役割を果たしているのだろうか。
 きょうだいの関係は、親子関係とも友達関係とも違う。きょうだいには年齢差があるのが普通で、上の子が下の子を指導することも保護することもある。つまり親子関係と同じ要素が含まれているのである。また、仲良く遊んでいるとき、夢中になって喧嘩をしているときは、お互いの年齢差を忘れてしまうものだ。こんな時は、友達関係と同じようにみえる。そうすると、きょうだいの関係は、上下関係である親子関係と子ども同士の友達関係の要素をもち合わせているといえるのである。
 また、そのきょうだい関係を経験した後、家庭の外で友達関係を作るので、きょうだい関係は友達関係を作る基礎、または「橋渡し」の役割を果たしているともいえるのである。


●何番目に生まれたか(出生順位)

 きょうだいの何番目に生まれたかという出生順位は、家庭内での位置・役割・人間関係を規定する。このような出生順位は、私達の性格形成にも大きく影響する。


(出生順位と親の子に対する関心)

 同じ母親から生まれ、同じ家庭環境で育っても、きょうだいで性格が違ってくるのはどうしてだろうか。一番の原因と考えられるのは、それぞれの子どもに対する親の接し方である。
 一般に、どこの家の親も最初の子どもには、すべてが初めての経験になるため一生懸命になるものだ。ところが、次の子どもの場合は似たことの繰り返しで、子育ての感動や関心がなくなる。すると、次子は長子と違ったことをして親の関心や注意を引こうとし行動するようになる。兄が叱られたことを弟はしなくなったり、褒められたことはそれを真似したりといった観察学習による行動も、ひいては性格を生み出すきっかけになると考えられる。
 また、長子には「はやく自立してほしい」と親は期待する傾向があり、反対に次子には「いつまでも幼いままでいてほしい」という気持ちが働く傾向もあるようだ。一般に、末っ子は甘えん坊で行動が破天荒だというのも、長子に対する親の目が甘くなるからだと言える。
 このように、同じ親のもとに生まれても、出生順位が違えば親子関係は異なってくるので子どもの性格に相違が生じることになるのだ。


(出生順位ときょうだいの特徴)

 親が「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」などと言うのも、子供にお兄ちゃんらしく振る舞うという性格を生みつける原因にもなる。
 きょうだい同士が名前で呼ばずに、「お兄ちゃん」「お姉ちゃん」と呼ぶのも、それぞれ兄と姉、弟と妹といった役割分担を認識し、その立場に応じた性格を身に付けていくと考えられると思う。
 下の図は、長年きょうだい関係について研究しつづけてきた昭和女子大学の依田明教授が、2人きょうだいを対象として行った実験の結果の一部である。20年の間をおいて2度の調査をしているが、2回の調査を通じて変化の無かった項目を示した。



長子の性格

次子の性格

特徴

・人の迷惑になることはしない
・欲しいものでも遠慮する
・自分の用事を人に押し付けたり頼 んだりする
・人の話を聞いていることのほうが 多い
・面倒なことはあまりしない
・よそへ行くとすましやさんになる
・ていねいに失敗しないように仕事 をする
・人に褒められるとすぐ調子に乗る
・外へ出て遊んだりさわいだりするこ とが好き
・自分の考えを押し通そうとする
・困ることがあると人に頼ろうとする
・とてもやきもち焼き
・人の真似をするのが上手い
・はきはきして朗らか

(依田明著 「出生順位と性格」1983年 新曜社刊より)


 この結果を見ると、長子には、自制的・慎重・ひかえめであるが面倒なことは嫌う傾向がある。それに対して、次子には快活で活動的である反面、甘ったれ・おしゃべり・強情・依存的な傾向があるといえる。
 では、3人きょうだいではどうなるのか。3人きょうだいの長子と末子については、さきほども述べた2人きょうだいの長子と次子の性格によく似た傾向がある。それに対して、中間子に関しては独自の性格傾向は不明確で、どちらかといえば長子と類似の傾向があるようだ。


このように、同じ家庭で育っても出生順位によって親の対処のしかたが異なり、親子関係やきょうだい関係の質に差が出てくるので、その結果として性格が違ってくると考えられる。




●きょうだい喧嘩の意味

 きょうだい関係では、お互いをライバルとみなしている。親の愛情や注意を、自分のほうに少しでもよけいに注がせようと努めている。その為、「きょうだい喧嘩」はつきものである。
 しかし、きょうだいは同じ家族という集団に属しており、連帯感を持っている。仲間意識もある。毎日喧嘩をしていても、競争相手として競っていても、強い連帯感で結ばれた同一集団の成員同士の対立である。きょうだいの対立は、相手を徹底的にたたきのめすようなことはしない。喧嘩をしても、すぐに仲直りして、一緒に遊ぶこともある。
 子どもは、このような喧嘩を通じて、相手の存在や立場を体験学習するのである。だから、「きょうだい喧嘩」は、子ども達が社会的に伸びていくためには、きわめて重要な意味を持っている。


●ひとりっこの性格

 最近、出生率の著しい低下が見られる。それに伴ってきょうだい数も急激に減少しており、きょうだいとの関わりを経験せずに成長する「ひとりっこ」も増えてきている。
 ひとりっこは、きょうだいを持つ子どもとは違った生活環境の中で成長する。きょうだい関係を全く経験しないと、親からだけの影響を受けることが多い。
 日常会話でよく、実際ひとりっこである人に対して、「いかにもひとりっこらしい人」とか「あの人はひとりっこだから云々」などという言い方をしている。また、アメリカにおける児童心理学の父と言われるHall,G.Sは「ひとりっこであることはすでにそれだけで1つの病気である」と言っている。この言葉が表現するように、ひとりっこには利己的であるとか不適応であるとか好ましくない一般的なイメージ(ステレオタイプ)があるようだ。
 では、ひとりっこの特性とはどのようなものなのであろうか。


ひとりっこの性格上の問題(一般論)
1.自己中心的・協調性欠如・非社交的
2.依存症・自発性や積極性の欠如・競争心の欠如
3.神経過敏・耐久力欠如
4.幼児的・観念的


 ひとりっこは、家族の中で上下関係である親子関係は体験するが、子ども同士のヨコの関係(きょうだい関係)を体験することはない。そこで、友達をつくったり、仲間関係をうまくやったりすることが苦手であると考えられる。
 また、ひとりっこはきょうだい関係の中で起こる葛藤や協力あるいは競争などを経験しないので、社会生活に必要な対人経験が欠如しがちである。そのため、喧嘩をあまりしない、人と一緒にいたいという親和欲求が低いといった性格になるのである。


*この章のまとめ
 今まで述べてきたように、性格形成はきょうだいによって変わってくる。出生順位、きょうだい数、きょうだいの中における自分のポジション・・・と、様々である。しかし、きょうだいだけで性格が決まってしまうのかというとそうではない。これは複雑な性格形成の一部にすぎない。次の章では、きょうだいに代わって、両親の存在が子どもにどのような影響を与えるのかということを考えていきたいと思う。


 
第三章 両親の存在と子どもの性格


 アメリカの心理学者バンデューラによれば、子どもは大人がこうしなさいというのはしないで、むしろ大人たちがやっていることを真似するものだと言っている。
 子どもは教えられなくても周りの誰かを観察し、模倣しながら学んでいくものである。(モデリング)子どもにとって親はいちばん身近なモデルなのだ。子どもは両親への強い愛着を持ち、かなり早い時期に性別によって異なる行動をはっきり感じ取って学習していく。その典型が、「ままごと遊び」(ごっこ遊び)だ。子どもたちがつくる光景は、日常で自分たちが見る光景の模倣なのである。女の子は母親をモデルとして料理を作り、男の子は普段の父親の行動をモデルとして「おい、ビール」なんて言ったりするのだ。
 このことから、幼少期の子どもにとって両親の存在は性格を形成してく上で非常に重要なものとなるのである。両親の存在があってこそ、自らの性格が形成されると言っても過言ではない。また、このようなごっこ遊びは両親以外の人々の様子や社会的なニュースなどによっても影響される。


●母親、父親不在の家庭の子ども


(父親不在が子どもに与える影響)

 1996年に文部省が、日本・韓国・タイ・アメリカ・イギリス・スウェーデンの6カ国の、0〜12歳の子どもをもつ親を対象に「家庭教育に関する比較調査」を行った。この調査によると、父親と子どもが1日に過ごす平均時間が日本では3.32時間といちばん短いという結果が出た。
 また、この調査の結果から、父親の物理的、心理的不在の家庭では家庭のしつけの甘さがあり、「あいさつができない」「行儀よく食事ができない」など、子どもの知的発達が遅れるという結果も報告されている。
 また父親の不在が母親を息子に密着させ、子供が自我を確立できないマザー・コンプレックスを生み出すきっかけとなるのではないだろうか。


(母親不在が子どもに与える影響)

 「アフェクションレス・キャラクター(情愛の無い性格)」は、幼い頃に母親不在を体験した子どもが成長後にしめす、歪んだ性格をいう。一見愛想がよくうちとけやすいように見えるが、心から他人に愛情を持つことがなく、盗癖や嘘、残忍などの性格的な特徴を秘めている。

 ウイスコンシン大学霊長類研究所所長のハリ・ハローは、乳児が母親の肌と触れ合うことの重要性を猿の以下の実験によって明らかにしている。

 生まれて間もない小猿を、針金でつくった代理母と母猿に似た肌触りの柔らかい布でつくった代理母で育てた。子猿は布製の代理母に強い愛着を示し、とくに驚いたり不安になったりすると、布製の代理母にしっかりと抱きついた。
 一方、針金製の代理母で育てられた子猿は、成長してから協調性に欠け、激しい攻撃行動を示すようになった。しかし、布製の代理母で育てられた子猿も、針金製ほどではないが情緒的に未熟児だった。


 この実験から、母親とのスキンシップは子どもの不安を和らげ、情緒の安定した性格を形成する上で重要な働きをしていることが分かった。やはり実際に母親の肌のぬくもりを知らない子どもは、協調性に欠け、人間関係もうまくいかない大人になるのではないだろうか。そのような点で、母親の存在は子どもにとってかけがえのないものであると思う。


●親の教育態度と子どもの性格

 目の前の人の性格的特徴から、その人物がどのように育てられたかはある程度推測できる。わがままで人の都合なんてかまわないといった人をみると、さぞ甘やかされて育ったのだろうと感じる。自力でがんばるという気概に乏しく何でも人に頼りたがる依存心の強い人をみると、心配性で子どもを突き放すことなどとてもできない過保護な親に育てられたに違いないと思う。人に対してあまりにも冷酷な態度をとり、世の中を恨んでいるとしか思えない人をみると、親の愛情を知らずに育ったかわいそうな人とみなしたりする。
 このような推測にはそれなりの根拠があり、勝手な偏見として片付けるわけにはいかない。親がどのような教育態度をとった場合にどんな性格の子どもができやすいかを検討するには、親の教育態度をなんらかの尺度で推測する必要があるのである。ここで、その尺度のひとつの例をあげよう。

 親の教育態度を類型化したサイモンズのものである。
 サイモンズは親の教育態度を、受容的であるか拒否的であるか、支配的であるか服従的であるかという2つの尺度を用いて分類した。(下図)



 図の2つの軸の交点に位置する場合、すべてにおいて中庸を心得ているということで、理想的な教育態度とみなされる。つまり、適度に愛情を注ぎ、適度に突き放し、適度に統制し、適度に言うことを聞いてやるといった態度である。そして、2つの軸でそれぞれどちらに偏るかによって、問題のある4つの教育態度類型のいずれかに分類される。

支配的かつ受容的・・・過保護型

支配的かつ拒否的・・・残酷型

服従的かつ受容的・・・甘やかし型

服従的かつ拒否的・・・無関心型




*この章のまとめ
 このように、子どもにとって両親は欠くことのできない存在であることがわかる。父親と母親の両方がいてはじめて、子どもの性格形成の基盤が作成されるのだ。また、その親の教育態度によっても子どもの性格は変化する。甘やかしすぎず、突き放しすぎずの態度を保つことが子どもにとっていちばんよいことなのではないだろうか。


 
結論


 人間には個性があり、性格はひとりひとり異なる。このような個人差をつくる要因は、自然の風土、気候宗教などたくさんあるが、その中で最も影響を受けやすいのが、今まで述べてきた親の養育態度と家庭環境によるものだと私は思う。
 また、望ましい家庭の必須条件は、夫婦間における愛情と信頼の関係だと思う。夫婦の親和関係が家庭を安定させ、何よりも子どものモデルとしての両親が愛情と信頼で結ばれている姿は、子どもの望ましい性格形成に欠くことのできないものである。物的な豊かさよりも、心が豊かであるほうが、子どもに良い影響を与えることのできる望ましい家庭環境だと思う。
 このような家庭環境は、子どもの発達にとって極めて重要で、子どもが経験する最初の人間関係の場である。家庭を媒介に家族以外の人たちとの人間関係が作られる場でもある。つまり、子どもがはじめて社会関係を学ぶ家庭の、この中で経験を積み重ね、経験を組織だてていくべきだと私は考える。


参考文献

  1. 「性格の見分け方」 榎本博明 創元社 1996 1/26
  2. 「手にとるように心理学がわかる本」 渋谷昌三 かんき出版 1999 5/28
  3. 「はじめてふれる性格心理学」 清水弘司 サイエンス社 1998 12/25
  4. 「心理学通になる本」 ビッグ・ペン+サイコロジー研究 オーエス出版 1997 2/28
  5. 「性格」 詫摩武俊 大日本図書株式会社 1982 3/18

  6. http://www2.n-seiryo.ac.jp/TEACHER/usui/koneko/4seikaku.html
  7. http://www.kgef.ac.jp/ksjc/ronbun/910970y.htm
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