ガンを予防する栄養素

 

データが示す野菜の効果

 昭和59年の日本癌学会で、次のような調査結果が報告されています。12万2261人の男性を16年間追跡調査したもので、タバコ、酒、肉を毎日とり、緑黄色野菜を食べない人は、これと反対の生活の人と比べて、喉頭がん13、6倍、肺がん8、6倍、口腔・咽頭(いんとう)がん9、1倍、食道がん、58倍、胃がん2、0倍、肝臓がん3、6倍、すい臓がん1、5倍、膀胱(ぼうこう)がん3、7倍、全がんでは2、5倍というものでした。

 ほかにも同じような報告があります。肺がんや喉頭がんの場合、ビタミンA、ビタミンC、野菜一般を多くとっている男性にはその発生が少ないということが知られています。

 食道がんの患者には、緑黄色野菜、その他の野菜、新鮮なくだもの、牛乳を少ししかとらない人が多いことが1961年ごろから知られており、食道がんの発生が特に高いイランは生野菜、くだもののとり方が少ないのです。

 日本に多い胃がんも、緑黄色野菜を多くとり、しかもタバコを吸わないグループでは明らかに少なく、アメリカでも緑貴色野菜、生野菜を多くとっている人たちに胃がんが少ないのです。

 大腸がんについても、緑黄色野菜、その他の野菜、牛乳の少ない人々に多いことがノルウェー、アメリカの住民調査でわかっています。

 膀胱がん、前立腺がんの息者も、ビタミンA、カロチンの豊富な食物のとり方が少ない人に多くなっています。がん一般においても、がん息者は食物からカロチンやビタミンAの摂取量が少なく、血清中のビタミンA濃度が低い傾向にあるという調査報告もあります。

 これらからがんが多く発生するのは、カロチン、ビタミンA、ビタミンCの摂取量が少ない場合だといえます。

 

 ビタミンA不足はがん化を促す

 ビタミンAにがんの予防作用があるらしいと報告されたのは1975年、ノルウェーです。同じ量の紙巻きタバコを吸った男性の中でも肺がんになる人とならない人があり、アンケート法で細かく調査すると、肺がんになった人はビタミンAのとり方が明らかに少なかったのです。

 ラットを使った実験によっても、ビタミンAを制限したラットでがんを作ると、肺がん、膀胱がん、そしてこれらの前がん病変が多く出ます。

 ハムスターの子宮頸がん、前胃がん、マウスの皮膚がん、ラットの大腸がんが、ビタミンAの投与で少なくなるという結呆があります。

 ビタミンAは、発がん促進人物質の働きを抑えます。

 細胞のがん化は、発がん促進人物質によって引き起こされる細胞膜の変化で完成します。特にがん化の際に起こる変化は、細胞膜の糖タンパク質、糖脂質の量と構造の変化であって、ビタミンAは細胞が糖タンパク質、糖脂質を生合成する際に必要です。ビタミンAが足りない状態では細胞膜の糖タンパク質や糖脂質の脱落や欠損が起こりやすくなり、したがって発がん性の変化も起こりやすくなります。ビタミンAを充分にとることががん予防上たいへん重要なことなのです。

 

 ビタミンA摂取は演極的予防法

 がんは、体の表面をおおっている上度組織の細胞が変化してできることが多いのです。体をおおっている上度というのは、度膚もそうですが、肝臓、すいぞう曄臓とか、口から肛門に至る消化管の内側の表面、また、呼吸器内側の表面、ばうこう泌尿器の内側の表面、たとえば膀彫内側の表面の細胞などです。

 ビタミンAが足りないと、上皮細胞の糖タンパク質、糖脂質が不足し、正常な上皮細胞が皮膚と同じような角質へん化扁平上皮に変わってしまいます。たとえば、気管支粘膜ではビタミンAが足りないと糖タンパク質でできている粘液を分泌する円柱上皮細胞が扁平上度細胞に変化します。この変化は、ビタミンA不足の状態に多く、しかもタバコを吸うとなおさら起こりやすいのです。このような変化が前がん性変化です。

 ビタミンA不足は膀胱炎、尿管炎、しんう腎盂炎、腎炎を起こしやすくし、そこに扁平上皮細胞を作ります。マウスの子富頸部も、ビタミンA不足で円柱上皮細胞が扁平上皮細胞に変わります。このようなビタミンA欠乏で起こる変化が、発がん促進人物質による細胞膜がん化への道を早めるのです。

 つまり、ビタミンAを多くとることは、発がん促進人物質の作用を抑制し、発がんの積極的な予防になります。

 以上のことから、ビタミンAが予防効果を持つがんは、肺がん、喉頭がん、咽頭がん、副鼻腔がん、日腔がん、倉道がん、胃がん、大腸がん、前立腺がん、膀胱がん、子宮頸がんなどです。

 

 期待されるビタミンC・Eはテータ不足

 追跡調査など疫学上のデータからはビタミンCにも期待が持たれていますが、実験データはまだ充分ではありません。

 たとえば、ビタミンCを投与すると、亜硝酸塩とアミンから生成される発がん物質ニトロソアミンが少なくなるという実験データはたくさんあります。

 また、餌にアミンを入れ、飲料水に亜硝酸塩を溶かしてマウスに与えるとしゆよう肺腫瘍ができますが、ビタミンCを与えると、肺腫瘍のでき方が少なくなります。