大鏡 六十五代 花山院
原文
花山院の略歴 みかど れいぜいゐん 次の 帝 、花山院天皇と申しき。 冷泉院 第一皇子な
ぞうくわうごうぐう くわいし これまさ り。御母、 贈皇后宮 懐子 と申す。太政大臣 伊尹 のおと
むすめ つちのえたつ どの第一御 女 なり。この帝、安和元年 戊辰 十月
ひのえね おほじ 二十六日 丙子 、母方の御 祖父 の一条の家にて生まれさ
せそんじ せたまふとあるは、 世尊寺 のことにや。その日は、冷泉院
だいじやうゑ ごけい とうぐう の御時の 大嘗会 御禊 あり。同二年八月十三日、 春宮 に
てんげん たちたまふ。御年二歳。 天元 五年二月十九日、御元服。
えいくわん くらゐ 御年十五。 永観 二年八月二十八日、 位 につかせ
くわんな ひのえいぬ たまふ。御年十七。 寛和 二年 丙犬 六月二十二日の
夜、あさましくさぶらひしきことは、人にも知らせたまはで、
にふだう みそかに花山寺におはしまして、御出家 入道 させたまへ
りこそ。御年十九。世をもたせたまふこと二年。その後
二十二年おはしましき。