INDEX この章の目次 前のページ 次のページ 製作者へメール

私にとっての過疎化(4)

名古屋大学教育学部附属中・高等学校
教官:仲田 恵子



生徒たちも私も、普段は過疎の問題についてあまり考えずに過ごしていますが、今年は 幸い田舎での生活や過疎の問題について考える機会がありました。私は英語の教師で、 大学時代にESSで英語でディベートをしていました。

2学期後半から中2のクラスでこれまで6回にわたって様々なテーマでディベートをし てきたのですが、2月22日(火)の本校主催研究協議会で公開授業を行った際に、最 後の試合で「暮らすなら、都会がいいか、田舎がいいか」というテーマでディベートを 行いました。このテーマは大変盛り上がりました。

都会派は都会生活の便利さ、情報、雇用機会、教育機会の豊富さ、国際性などを取り上 げ、また、人口の多い都市の民力と自治力を強調しました。そして、田舎生活の不便 さ、雇用問題、過疎問題について述べました。

それに対して田舎派は、田舎生活の豊かな自然環境、土地や住宅の価格が安いこと、治 安の良さ、伝統行事、豊かな人間関係などを取り上げました。都市生活については、土 地や住宅の価格高騰、地震などの災害時の被害が大きいこと、犯罪が多く治安が悪いこ と、深刻な環境汚染問題をかかえていることについて述べました。

ディベートの試合は、田舎派チームの勝ちでした。勝因は綿密な調査とチームワークで した。田舎生活の良さをアピールするの資料の引用は説得力がありました。生徒達は田 舎暮らしの良さをよく理解することが出来ました。

ディベートの前と後で、クラス全員に「暮らすなら、都会がいいか、田舎がいいか」と いう質問をして本音を聞きました。結果は、ディベートの前も後も、「田舎がいい」と 考えている人の方が多かったのですが、ディベート後に「都会がいい」と言う人が減っ て、「田舎がいい」と思う人が増えました。「どちらともいえない」という人も数名 ディベート後に「田舎がいい」に変わりました。今回のディベートで、私たちは田舎暮 らしの良さを発見することが出来ました。

私も今回のディベートの準備で新聞のデータベースにアクセスして「過疎」や「人口流 出」をキーワードに検索し膨大な資料を読みました。過疎問題を抱えている町村の様々 な取組みや、都市から過疎地への人口流入があることを知ることが出来ました。都市で もドーナツ化現象があり、都心の人口減少で問題が出ていることなども分かりました。 インターネットで調べたときには、「田舎暮らし」のホームページの多さに驚きまし た。楽しい健康的な田舎暮らしをアピールするページが多いのです。

実は私もいつか田舎で暮らしたいと考えている一人ですが、都会で働いて暮らしている 私たちが「田舎がいい」と思っても、すぐに引っ越していくのは困難です。大型トラッ クが排気ガスを撒き散らして走る道路を通勤するのはつらいです。田舎の自然環境を夢 見て、排気ガスの中で毎日暮らしているうちに、花粉症と気管支炎になってしまいまし た。

これからは、都会は少しずつ環境面で田舎に近づけるよう努力し、田舎は生活環境、流 通、雇用機会、教育環境などの面で少しずつ都会に近づけるように努力していくことが 大切であると思います。人口が増えると納税額が増え、地方自治体の自治力が増しま す。

私の過疎問題解決の提案は、大学の地方への移転です。これは愛知県内でもすでに行わ れています。アメリカでオハイオ州のOberlin大学に1年間通ったとき、Oberlin市はド ライ・シティー(禁酒市)でした。町の中に酒屋がありません。それはお酒が大学の学 生のレベルを下げるからなのだと聞かされ感心しました。日本にこんな町があったらい いのに。それから、もし禁煙の町があったらうれしいです。公共の場では一切禁煙とい う町があったらいいのにと思います。私は気管支炎で苦しいのです。

アメリカの大学院は夜間のプログラムが多いのですが、昼間に講義を受けられる大学を 探していて、カンザス州の The University ofKansas の大学院に行くことに決めたと き、アメリカ人の友人たちは、「どうしてそんなところへ行くの? 何にもないところ なのに」と首を傾げました。"It is middleof nowhere." と言う人ばかりでした。とこ ろがカンザスへ行って、大学構内の院生用アパートで暮らし始めると、とても気に入り ました。確かに、大都市ほどの文化的刺激は無いけれど、Lawrence市は美しい大学町 で、落ち着いて研究ができるところでした。アメリカで、カンザスは田舎といっても、 インターネットで世界中の情報が入手でき、図書館では必要な本をいつでも他の図書館 から取り寄せてくれました。生活面でも困ったことはありません。

日本の田舎に大学ができるといいと思います。少子化問題が深刻ですが、これからは学 生たちも環境汚染地域の都市の大学より、空気のきれいな田舎の大学を選ぶようになる と思います。「教師の仕事があればぜひ田舎へ移住したい」というのが私の率直な気持 ちです。