おとな > 子供にまつわる問題点 / 山梨大学中村和彦教授の視点

●子供の体がおかしい
来年、世界の先進国をまわり、子供の体力がどうなっているのか、政府のデータを調べてこようと思っているんです。はたしてほかの先進国でも、日本と同様、子供の体力や運動能力が低下しているのかどうか。

日本の子どもたちのからだは、確実におかしくなっています。私自身が長年子どもたちの実態を調査する中で実感するのは、「疲れた」が口ぐせになっている子どもが増えていることです。また、年々肥満傾向児が増加し、生活習慣病予備軍といえる子どもたちが増えているのも気になります。

●子どものライフスタイルが変わった
原因として考えられることが3つあります。

1つ目は、子どもの遊びの問題です。いまの子どもたちは、30代後半以上の大人にくらべ、外遊びから室内遊びへと遊び空間が移行し、しかも集団遊びより一人でできる遊びが中心になっています。そのため、体を動かして活動することがたいへん少ないというのが現状です。

2つ目は、食の問題です。コンビニエンスストアやファミリーレストラン、ファストフードの登場などで、現代の食生活は豊かになり、食習慣も大きく変わりました。しかし24時間いつでも好きなものを食べられる便利な時代に育つ子どもたちに生活習慣病が増え、粗食でもご飯をしっかり食べ、肉より野菜を多く取り、夜は7時以降は食べないという食生活を送る高齢者のほうが丈夫な体をしているというのは、皮肉なことです。

3つ目にあげられるのが、睡眠不足とメディア漬けの問題です。日本小児保健協会の調査によると、乳幼児が午後10時以降に就寝する割合は、一歳児を例にとると、1980年度では25.7%でしたが、2000年度には54.3%に増えています。子どもの夜更かしは、すでに乳幼児期から始まるのです。昔から寝る子は育つといいますが、子どもにとっての睡眠は、成長や発達に重要な意味を持っています。寝るのが遅くなる理由には、家族全体が夜型になっていることも考えられますが、テレビやビデオなどをあげる人も少なくありません。

こうした、あそび、食、睡眠に関する問題は、個別に解決すればいいというものではありません。遊びが保障されれば子どもの体がよくなるのか、栄養をきちんととっていれば、体を動かさなくても夜遅くまで起きていてもいいのかというと、そんなことはありません。生活の中で3拍子そろっていい環境が整わないと、体はだんだん悪くなります。子どもの育ちは、トータルでとらえなければならないのです。  私はよく居心地がいいという言葉を使いますが、子どもにとって必要なのは、居心地のいい環境です。自然に生きていく中で、したいときに運動ができて、おいしくものが食べられて、ぐっすり眠れるという環境を親が考えているかどうかはとても大切なことです。

●どうしてあそびが大切なのか
子どもの体の問題に加えて、心の問題も生まれてきています。人と直接かかわれない、どうコミュニケーションをとっていいかわからない子が出てきているのです。

その原因はいろいろ考えられますが、昔から伝承されてきた遊びの消失も、大きく関係しています。

今の30代後半以上の大人世代が経験した遊びは、遊んでいる中で、自分たちでルールを作ったり、その場で工夫しておもしろくあそぼうと考えたりして、子どもなりに知恵を働かせていました。集団で楽しく遊ぶには、その場にいるメンバーに応じて、臨機応変にルールや遊び方を工夫していく必要があるからです。それに、昔の子ども集団は異年齢で構成されていましたから、上下関係がある上に、そこには強い子も弱い子もいました。強い子はガキ大将のことが多いですが、ガキ大将は強いだけではなくて、どこかに弱い子を思いやる気持ちや哀れむ気持ちがあったんです。そうじゃなければガキ大将になれません。ガキ大将についていく方だって、それぞれの立場や役割をにない、まわりを見ながら集団を盛りたてていたわけです。

ところが、こうした昔ながらの遊びのスタイルが、今の時代、ほとんどなくなってしまいました。スポーツクラブに通わせているから、子どもは集団活動をしていると思っているお母さんがいるとしたら、それは間違いです。スポーツクラブでの展開の中には、昔、原っぱや川で遊んでいたときのような、子ども同士のコミュニケーションや、子ども同士の思いやりという要素はほとんどありません。小さい子は危ないからお兄ちゃんが手をつないでやったとか、抱っこしてやったとか、そういう子どもの中に自然に生まれる人と人とのかかわりは、ほとんどないわけです。